もう不死なんだから好き放題やってもいいよね?

有機的dog

第0編 プロローグ

1話 生まれも育ちも最悪だけど

 こんにちは。


 元営業マンの三十路独身男です。

 現在は17歳まで若返り、中世のヨーロッパ的な異世界を堪能中。


 前世の記憶がはっきりとしたのは5歳くらいの時。それまでは何かぼんやりとしていた。

 最初は信じられなかった。転生なんて現実に起こるわけがないと思っていたのだから、仕方がない。

 

 僕に与えられた名前はリムフィ・ナチアルス。

 孤児院で育てられたと言いたいところだけど、孤児院に入って数年で魔導士を名乗るジジイ、グラミルム・ナチアルスに引き取られた。ナチアルスの姓はグラミルムのジジイのやつ。


 魔導士というのはこの世界では大学教授みたいなもの。国立魔術研究所とかいう大層な施設の一室を、グラミルムは自身の研究室としていた。

 研究室はそれなりに広く、何に使うのかよくわからないが様々な道具もあった。手術台という明らかに不穏なモノもあった。

 引き取られた時の年齢は5歳くらいだったと思う。5歳から17歳に至るまで、この研究室に閉じ込められ、育てられた。

 グラミルムをジジイと呼ぶのに一切抵抗はない。ジジイと呼ばれる程度で済むことを有り難がってもらいたい。


 さて研究室でグラミルムのジジイに何をされたか。

 端的に言って改造実験。

 

 そこで僕は吸血鬼とスライムを身体の中にぶち込まれ、身体を混ぜ混ぜされた。

 そのせいでもう僕は人間とは呼べない、別生物と化している。


 とんでもない治癒の能力と死なないというおまけつき。死なない生物なんて生物とは呼ばないでしょう?


 異世界に来たのならチートのひとつももらえるのかと思ったが、こういう事例もあるらしい。

 ほぼ不死身にはなれたが、それ以外の力はかなり弱い。吸血鬼とスライムというモンスターの中堅どころを混ぜられたのに、不死身と超速回復能力だけとはもったいない気がする。強欲?


 グラミルムのジジイとしても失敗作らしかったが、人体実験にちょうどいいモルモットができたと喜んでいたのを憶えている。


 グラミルムのジジイが実験中に事故死するのは僕が17歳になってから。

 それまでずっと、死なない身体で人体実験に休むことなく参加させられた。


 気が狂うよなぁ。

 薄暗い研究室で得体のしれない薬品を身体に何度も何度も打ち込まれてさ、もう痛いとか苦しいとか、そういうのが普通になってたよな。

 それがえーと……5歳から17歳だから……12年間か。ずっといろんな人体実験ばっかりだった。

 せっかくの転生のスタートラインが酷すぎる。ちゃんと舗装しておいてもらいたかった。


 で、今17歳。昨日、育ての親が死にました。

 何をやっているかと言うと、街の中をぶらぶらしてる。12年ぶりの外。長かった。ようやく異世界を堪能できる、できている。


 逃げ出してよかったと心から思う。ジジイが死んだと気が付いた時には狂喜乱舞だったね。12年も日の光を浴びてなかったから太陽がまぶしくて気持ちいい。


 研究所から逃げ出す際に、僕に関する資料とかは全て処分してきた。ジジイがどこになにを置いてあるかなんて、12年も一緒に過ごしていれば嫌でも覚える。

 僕に関する情報はあの研究所には残っていない。ジジイは僕にしてきた仕打ちを誰にも言っていないようだったから、たぶん追手とかはない。

 逃げ出す時は何か映画みたいだ、とか思っちゃったり。


 ……転生してから肉体年齢に精神が引っ張られるな。僕だって社会人だったのに。


 さて、話を戻しましょう。

 現在、街中をうろついています。なんか真っ白い拘束具みたいな服を着て歩いています。

 天気は快晴。お日様にはご無沙汰だったから肌が真っ白。髪は実験の影響かどうか知らないけど金髪、それでボサボサ。逃げ出してきた時の服装そのまんま。


 人通りが多いストリート。そこらじゅうで商人が、簡素な屋台で物を売っている。現代を知っているとえらく質素としか言いようがないが、この街では普通らしい。どこも人でいっぱいだ。

 地面は舗装されていないから、足跡の量が凄まじい。この足跡の量で人口の多さがよく分かった。


 誰からも気味悪がられているのを肌で感じる。気持ちはよくわかるつもり。こんな非日常の権化みたいな人間が道を歩いていれば、そういうふうな反応も無理はない。

 どこかで服だけでも調達したいところ。このままの格好では怪しまれまくり。いるかもしれない追手にだってすぐに捕まってしまうだろう。


 よし、いくか!

 待て、金がない。

 

 どうしようかと考える。服を買おうにも金がないのでは話にならない。

 服を売っている店はちらほらと見かけるが、買うのは不可能。だったらもう服の調達方法は一つだけ。


 かっぱらう、もしくは奪い取る。

 なんだ、簡単じゃないか。決定。


 僕が今いるこの道は、たぶんメインストリート的な道。

 街のどこに何があるかは知らないが、とにかくメインストリートには僕の探し求める運命の相手はいないだろう。

 裏路地に繋がっていそうな、暗めの細道をキョロキョロと見回して探す。ゴミとかが散乱してそうな、不快感マックスな雰囲気の場所がきっとあるはず。

 古めかしい街並みなんだから、あると願っています。


 ……それっぽい場所を発見したのは一時間後。だいぶ歩いた。この街、予想以上に清潔すぎて素晴らしいじゃないかチクショウ。


 古びたレンガ造りの建物が二件。その間にある狭い隙間。これぞ裏道というやつ。

 道の先は昼間なのに薄暗い。日の光が当たっていないからだろう。


 僕はちらりとその裏道を覗いてみる。

 予想通り、人は少しいるようだ。小汚い老人が入り口付近で座っている。奥からは人の声がまばらに聞こえてくる。


「そこの少年よ……」


 おっと、ジロジロし過ぎた。老人に声をかけられてしまった。

 というか今、少年と呼ばれたけど17歳です。リムフィ君は身長が低いのです。成長が遅いのです。僕悲しい。前世でもチビだったから、生まれ変わったらデカくなりたかった。

 

「なにをしておるのかな……? この先にはなにもありはしないよ」


「何もないってことはないでしょう? この先って人はいるんですか?」


 せっかくだから確認しておく。自分で進んで確認するのも悪くないが、人に聞いて無駄足を防ぐほうが利口だと思ったからだ。


「いるにはいるが……近寄らないほうがいい。賊みたいな連中ばかりだ」


「そうですか」


 いると確認できただけで、この老人には少しだけ感謝しないといけないだろう。


 僕は老人のアドバイスを聴いた上で無視、裏道へと歩を進める。老人が後ろで何か言っている気がしたが、どうでもいい。

 人がいるなら服がある。


「あーん? なんだこの青っ白いガキンチョはぁ?」

「おいおい、迷子かァ? 運のネェことによォ!」


 薄汚い布を身に纏った若い男が二人。僕に絡んできた。数歩進んだだけでチンピラに遭遇できたのは幸運といえる。

 関係はないが、ガキンチョとか呼ばれたことに腹が立つ。


 道幅が少し広い場所であったために、男二人は横に並んで僕を見下していた。


「なんか妙な服着やがって! どうしたんだァ?」

「ヒャハハハ! そういう趣味でもある親なのかぁ?」


 もう完全子ども扱いしているふうのセリフ。

 さて、ちょっとイラッとしたから未来からやってきた殺人アンドロイドのようになるとしましょう。


「……あなた方の、持ってるモン全部出してもらおうか?」


 このセリフは普通、目の前にいる男のだろう。まさかこっちが言うとは思いもしなかった。あちらも先に言われたことに驚いているようだ。


「生意気言いやがってクソガキッ!」

「この野郎!」


 至極まともな反応をして、二人の男は僕に拳をぶつけようとする。

 

 ……異世界に来て、僕は変わった。普通の人とは違う、チカラを手に入れた。

 男二人のウスノロな拳は簡単に避けて、僕はカウンターを叩き込む。


 ……叩き込めると思ったけど、僕にそんな反射神経はない。ウスノロな拳とか言ったけど、強がりました。

 喧嘩すらまともにしたことないから避けられない。二人の男の拳は、僕の頭に直撃する。


 バタンッと地面に倒れてしまう僕。そんな僕をさらに高い位置から見下す野蛮人二人。

 

「なんだコイツ? 威勢のイイこと言ってたわりにこんなあっさり」

「ガキの強がりってことだろ? 俺たちにふっかけたのが間違いだっただけだろ」


 さぁ、ネバーギブアップの精神でいこう。

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