12話 課金

 マリーナが長い指の掌で口元を押さえ、飛び出たしゃっくりをウッと殺しながら

 「な、なんだい?その簡単、確実ってやつは?」


 ユリアも鳶色の大きな瞳を輝かせ、興味津々であったが、何かに気付いたようにハッとして挙手した。 

 「分かった!コーチ!私、分かりましたよー!

 コーチが何か私達の頭の上に手を置いて、潜在能力をブワーッて引き出すとかですねー!?

 あっ!でもー、カミラーさん対光属性だから、触られるとまたバチバチバリバリー!!ってなっちゃいますねー!

 んー。じゃあ非接触型のパワー注入?増幅?何かそんな術ですかねー?

 私、ワクワクしてきたぞー!!」

 どこで覚えてきたか、美しい魔法賢者は勝手な妄想を膨らませた。


 カミラーは小さな腕組の指を、二の腕にトントンとイライラさせ

 「なんじゃそれは?この低知能娘め、勝手におかしな方に先走るでないわ」


 ユリアはソバカスの鼻に人差し指をあて

「えっ!?て、ていちのう?それって私のことですかー!?

 コーチ酷いですよー!これでも私、魔法賢者なんですよー!ぷんぷん!!」

 確かに、この三つ編みの美少女は話が進むにつれ、低知能キャラが板に付いてきていた。


 シャンはそれを邪魔そうに眺め、神妙な面持ちを向かいに見せ

 「カミラー!何か画期的な方法があるなら是非にも知りたい!頼む!教えてくれ!」


 ピンクの盛り髪の美しい幼女に見える名コーチは、よしよしとうなずき、真珠色の爪の小さな人差し指を立て

 「それはじゃな。ズバリ、装備じゃ!」


 マリーナは固唾を飲んでいたが、急に高く結った金髪をガクッと下ろして脱力。

 分かりやすく拍子抜けして見せた。


 「そうび?そうびって、あの装備かい!?

 なぁーんだぁ!どーんなスッゴイビックリコーチングテクニックが飛び出すかと思えば……。

 よーするに強い武器と鎧を買いましょう!ってことかい?

 名コーチって言うもんだから何かと思えば、フン!そんなの誰でも真っ先に思い付くよ!

 アタシ達だって、それぞれの勇者の家に伝わる家宝とかってのを譲り受けて出てきてんだよ?

 第一さ、ちょっと良い剣を持ったからって急に強くなれるってもんじゃないんだよ!?

 あー、期待して損したぁー!

 オッサーン!エールもう一杯!!」

 呆れ返って深紅の手を振って追加オーダーを喚いた。

 

 シャンは呆れず、金髪からピンクの盛り髪へ顔を返し

 「コーチ。続きがあるのだろう?話してくれ」


 カミラーは真紅の瞳を、テーブルに来たハゲオヤジからエールジョッキを受け取り、メニューを見ながら

 「ねーユリア、次は何にするー?

 アタシ、このスキッと爽やかグリーンエールってヤツにしてみようかなー?

 フフフ、絶対不味いよねコレ?」

 と能天気な声を上げる大柄な美人からシャンに移し

 「ふん。お前はあの無駄乳よりは見所がありそうじゃな。

 そうじゃ、わらわが言う装備とは、断じてそこいらで買える物ではない。

 お前達の持っておる物など、遠くガラクタに霞む品、レジェンダリー装備じゃ!」


 シャンはマスクの下でハッと息を飲み

 「レ、レジェンダリー装備!?そ、そうか!伝説の武具か!

 では、コーチはSSSクラスのレジェンダリーシリーズが何処に眠っているのかを知っているというのか?」


 マリーナは驚いてエールジョッキを置き、咳き込む

 「ちょ、ちょっと待ちなよ!!レ、レジェンダリー!?レジェンダリーって、あの失われた最強シリーズってやつかい!?

 ドワーフの黄金世代の天才武具職人達が両手で数えられるくらいしか造れなかったっていう、あれの事かい!?」


 ユリアもメニューを手に固まっていた。


 「ス、スゴイです!!も、もしもそれが本当なら大発見ですよ!!

 お、おとぎ話に出てくる邪神を撃退した古代の初代勇者達の最期の装備ですよね!?」


 カミラーは小さな顔の横のピンクのカールをクルクルと捻り、満足そうにうなずくと

 「ふん。ちっとは物を知っておるようじゃな。

 そうじゃ!その失われた最強装備の眠るダンジョンの場所をわらわは知っておる」


 椅子に仰け反っていたドラクロワは、隣の無い胸を張るロリータファッションを横目で見て

 「邪神が置いていった海底の穢れ神殿。アビスダンジョン、か」


 カミラーは騒ぐ女勇者達を見ていたが態度を急に変え

 「その通りにございます!!流石は魔王様!あ、いや!魔王を倒す勇者様にございます!

 正しく、そのアビスダンジョンにございます!!」

 


 ドラクロワは記憶を手繰り

 (うん。そう言えばラヴド家は財宝探査の部隊の長であったな。人間用の退魔レジェンダリーシリーズなど興味はなかったが……。確かにコイツらには丁度良い玩具かも知れんな)


 「しかし、海底とは面倒臭そうだな。

 カミラーよ、他に方法はないのか?」


 カミラーは椅子から飛び降りて頭を垂れ

 「確かに手間にございますが、こやつ等が強くなるには、これが一番効率的であるかと存じます。

 また、こやつ等が装備の一新でそれなりに強くなれば、最強のドラクロワ様の比肩比類なき戦闘力を漠然とではなく、より具体的に実感し、今より遥かに声高らかにドラクロワ様を誉め称えるようになるかと存じます……」


 ドラクロワの淀みなき栓抜きが急停止した。

 「なん、だと?」


 魔王のその血も凍るような美しい顔に輝く二つの紫水晶の瞳が、血に餓えたバンパイアも斯くあろうかと燃え上がった。


 「よし!行こう!」

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