退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角弾正

プロローグ

 魔王の名はドラクロワ。

 この星をほぼ掌握していた。


 もはや数年前から人間達は全く脅威ではなくなった。

 大陸各地の要所要所に魔戦将軍の城も築き、荒野から山岳に至るまで強力な魔物も配置してあり、後は有能な幹部に任せてある。


 だが、それがドラクロワには不満であった。


 もはやこの星は、クリアして最高レベルに達し、やり混み要素も追求し尽くしたゲームのようなもの。


 この美しい魔王にやることは何もないのだ。


 魔王様最高です!!強いです!!は、もはや当たり前過ぎて誰も言ってはくれない。

 かといって自分から、我を褒め称えよ!とはプライドが邪魔して言えない。

 


 気まぐれに人間の王都に攻めこんで殲滅させてもよいが、人間がいなくなれば部下達は内乱を起こし出すだろう。


 人間の冒険者達と戦う楽しみがなくなれば魔族、モンスターには本当に刺激のない生活が待っている。


 そこでドラクロワはある日思い立ち、魔界伝来の最強の装備を持ち出し、素性を隠し、そこそこ拓けた地方の街、ジュジオンの冒険者ギルドに来ていた。


 冒険者ギルドとは人類の共通の敵である魔王の討伐を志す者たちへ、有用な情報提供やパーティの編成案内、クエストの斡旋などを行う王立の組合である。



 眼帯で皮鎧、毛むくじゃらのゴツいがこの町のギルド支部長であった。


「じゃ、これで登録完了だぜ。

 えーと、ドラクロワか。あんたも今日から冒険者だ。

 焦るこたぁねえが、これから先、魔法を身に付けたければ魔術師ギルド、剣術なら戦士ギルド、罠の解除なら盗賊ギルドと、このジュジオンにも一応あるから、職業レベルを上げたければ金を貯めて行ってみるんだな。

 ま、この大陸に住む人間ならこんな説明は要らねぇか。

 何か質問があるかい?」


 ドラクロワは禍々しい甲冑の腕を組んで 「欲しいものがある」


「なんだ?鎧も剣も真っ黒なスゲーの持ってるじゃねぇか。親父の形見か?

 ま、言ってみな。あんたら冒険者の相談に乗ってやるのが俺の仕事だ」

 汚い髭面は頼もしかった。


「そうだな。一番弱い仲間が欲しい。」


「は!?弱い?強えーの間違いだろ?

 分かった、直ぐにひまこいてる、」


「いや、間違えてはおらん。レベル最弱の戦士と魔法使い、それと盗賊か。

 どれも見てくれの良い女がいい」


 そう言うとドラクロワは漆黒の手甲を握り、無造作に前に突き出し、受付カウンターの上にそれを乗せた。


 開くと金属音。


 カッ!チャリン!チャリン!


 支部長の片目が最大に見開かれた

「おっ?コ、コリャプラチナ硬貨じゃねーか!?

 俺は初めて見たぜ!これ一枚で家の新築一軒は買えるっつうヤツだな!?」

 プラチナの照り返しでオヤジの汚い顔が輝く。


 ドラクロワは真ん中で分けたアッシュの長い髪をなびかせ

「お前にくれてやる。代わりに良い仲間を紹介してくれ」


 オヤジは髭の喉を鳴らし

「バ!バカ言ってんじゃねぇよ!

 天下の冒険者ギルドは王様から許可をもらってやってんだ!

 こんな賄賂みたいなのは絶対に受け取れねぇ!!す、直ぐに終ってくれ!目の毒だぜ!」

 ごつい両手の五指を開き、プラチナへかざしながら欲望から顔を背ける。


 陶磁器のような白い肌の美男は怪訝な顔で「ふむ、人間とはこれの為なら親をも殺す生き物ではなかったか?」


「はっ?何だって!?」


「いや、こっちの話だ。

 ではこうしよう、俺はこれをお前にくれてやったのではない。

 俺はこれを落としたのだ。俺はプラチナなど幾らでも持っているから気にしていない。 よいか?

 そういう事だから、見てくれの良い仲間を頼むぞ」


 明後日の方を向いて固まっていたオヤジの顔が弛んだ。


 一瞬の逡巡。


 オヤジは素早く五枚の硬貨を集めてポケットへしまう。

 それは盗賊顔負けの早業であった。


「よし!任せとけ!とびきり美人の弱い女揃えるぜ!!」


 ドラクロワは満足そうにうなずき

「うむ、それで良い。

 後は、この町で最高レベルのモンスター討伐クエストを寄越せ」


「はっ!?今度は最高?最弱じゃねーのか!?」


「間違いない」


「そ、そーか。と、なると……レベル50の劣等種ドラゴンのグリーンドラゴン討伐があるにはあるけどよ……」

 オヤジは帳簿からドラクロワを見上げる。


 ドラクロワはアメジストの瞳を天にやり 「グリーンドラゴン……魔法も唱えられん蜥蜴か……。

 まぁさしあたってはそれで良かろう。ではそれで頼む。地図と情報をくれ」


 オヤジは羽ペンを振って

「ちょっと待て!あんたスゲー金持ちなだけで、ちょっと顔の綺麗なだけのガキ、いや若もんだろ?

 登録はさっき済ませたとこだから、クエストも勿論初めてだ、つまりはレベル1ってこった。

 幾らなんでもそんな初心者にこいつを斡旋しちまうと俺は人殺しも同然だぜ!?

 出来ねぇ!そりゃ出来ねぇ相談だな!」


 ドラクロワはタメ息

「俺は強い。それを寄越せ」


「いやいやいやいや!そりゃ出来ねぇ!」


「ふん。俺はここに落とした金を拾わねばならんのか?

 お前のポケットから」


 オヤジはピシャリと額を打って

「だー!それ言っちゃうか!?

 んー……分かった!分かったよ!でも知らねぇからな?行けば絶対死ぬんだぜ!?」


 ドラクロワは血も凍るような美しい笑みで「心配するな。俺より強い生き物は存在しない」

 親指を立て、綺麗に先まで研かれた紫の爪で自らを差した。

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