67~激昂の刃~・2

――――メリーゼ、騎士になるんだって?


 すげえな、夢が叶うなんて!

……いや違うか、夢の一歩を踏み出したんだな。


 だから、その、これ……やるよ。

 中身はさすがにまだうまく作れねーから、じいちゃんにちょっと手伝ってもらったんだ。


 店で売ってるのに比べたら不格好かもしれないけどさ……――――



 不思議なほどに苦痛はなく、暗く深い眠りの海に沈んでいくような心地の中。

 ぼんやりと、自分を呼ぶ声がメリーゼの意識を僅かに繋ぎ止める。


 もうすぐそれも聴こえなくなってしまうのだろうか。

 それにしても、嘘みたいに痛みはなくて……


(……?)


 脱力していた四肢に、次第に感覚が戻っていく。


 これから死ぬのならば不自然であろう感覚にメリーゼが疑問に思った瞬間、ぱきん、と彼女の胸元で何かが砕けた。


「!」


 淡い緑色の光がメリーゼの意識を一気に引き戻す。

 胸部を貫いたと思われた槍は、その光が受け止めていた。


「な、なによコレ!?」

「これは……」


 光の中には手のひらにおさまるほどの大きさの、痛々しくヒビの入った人形……と言っても目鼻はなく、頭部とおぼしきくびれがあるくらいの簡素な作りのものだ。


 それは、装備品の店でもよく見かける、身代わり人形だった。

 内包している石は守りの術と治癒術を封じ込めたもので、一度だけ持ち主の身代わりになり傷を癒してくれる、騎士団でも愛用する者が多いポピュラーなお守り。

 店で売っているものに比べると素朴で荒削りなそれは……メリーゼにとっては、大切な大切なもので。


「カカオ君が作ってくれた……」


 メリーゼは起き上がると内側の石もろとも粉々に砕け散ってしまった人形の破片を掬い上げ、ギュッと抱き締めた。


「ケッ! そんなゴミクズで命を拾うなんて運のいいヤツ!」

「……ゴミクズじゃない」


 テラに煽られて出た声は、常時の彼女からは想像もつかないほど低く、震えていて……


「あああああッ!」

「っ!?」


 直後、反応できないほどの速さでメリーゼが地を蹴り、双剣を振るう。


「許さない! ひとが歩んだ歴史を、想いを! 踏み躙って……っ!」


 剣閃と共に、流れる涙が煌めく。

 デタラメとも言えるスピードは激情で更に上乗せされ、テラを圧倒して。


(メリーゼがこんなに激しい怒りをあらわにするなんて……)


 これまでのさまざまなことが重なって、あの人形は決壊する最後のきっかけだったのだろう。

 強くて脆い、怒りの剣。

 不意を突いた今はテラを圧しているが、冷静さを欠いたままでは、彼女は……そう思ったシーフォンの視界の片隅で、意識を失っていたクローテがむくりと起き上がる。


「やあ、状況は見ての通りだよ……頼めるかい、クローテ?」


 辺りを見回したクローテは倒れた仲間たちとただひとり立ち上がり激しい戦いを繰り広げるメリーゼを交互に見、そして静かに頷いた。

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