62~暗闇の中で~・3

「シーフォンっ!」

「わかっているよ!」


 図形を組み合わせた無機質で平べったい人形たちに囲まれて、二人の若者が武器を手に奮闘していた。

 桃色の長い髪を尻尾さながらになびかせて少女が強烈な回し蹴りを放つと、人形の一体の腰らしき部分が見事に砕け、ガシャリと音を立てて崩れ去る。


「やれやれ、キリがないねぇ」


 そのまま飛び退き、軽やかに着地した少女……パンキッドは小さく息を吐くと休む間もなく黄金色の眼を後方の気配に向けた。


「バテてないかい、王子サマ?」

「冗談。こう見えて体力には結構自信があるんだよ」


 肩までの月白の髪をさらりと流し、スマートでいかにも王子様な外見をしているシーフォンだが、父親譲りの脳筋思考に加えデューの特訓をこなしながら砂漠を旅した経験もあって体力は他の前衛にも引けを取らない。

 現に呼吸ひとつ乱れずに敵を倒していき、最後の一体も得意のスリングショットを頭部に直撃させ片付けたところである。


「やるねぇ」


 ヒュウ、と小さく口笛を吹くパンキッドに、シーフォンが眉根を寄せる。


「おっと、それはやめた方がいい。次の敵を呼び寄せるかもしれないだろう? 分断された今余計な戦闘は避けたい」

「こんだけ派手に暴れて何を今更って感じだけど……まあそれもそうか」


 現状、辺りは真っ暗でほんのり光る足元の道くらいしか見えるものはない。

 いくら目を凝らしても遠くの様子を知ることはできず、はぐれた仲間の位置など当然わからない。

 今の彼らには広範囲の強力な攻撃手段も治癒術での回復手段もなく、戦闘を重ねればいずれは消耗してしまう可能性がある……こちらから無闇に居場所を知らせるような行為は無謀が過ぎるだろう。


「一応それぞれで回復薬を持っといて正解だったね」

「ああ。だが数に限りもある。慎重に行こう、パンキッド」

「不本意だけどね」

「僕だってそうさ」


 それぞれの腰に提げられた道具袋の出番はまだない。

 軽く一息ついたところで先に進もう、とお互いに頷いたその時だった。


「待って。何か聴こえないかい?」

「む……敵の新手かな?」


 やはり騒ぎを聞きつけて来てしまったのだろうか。

 再び空気を張り詰めさせ、それぞれが武器を構えるが……


「いたぁぁぁ!」

「「へっ?」」


 ものすごい勢いで弾丸の如く突っ込んできた“それ”は、避ける間もなくシーフォンの方へ。


「どわぁっ!?」


 派手に押し倒される形になり背中を打ったシーフォンと驚きのあまり反応が遅れたパンキッドが“それ”の正体に気づき、目を丸くする。


「モカ……?」

「お二人さん見つけたよ! もうボク一人でどうなるかと思ったぁー!」


 弾丸の正体は、背中の箱のダッシュ機能で飛んできたモカだった。

 途中までは集音装置で拾った音を頼りに慎重に進んでいたが、二人の姿を見つけたところで一気に飛び出したらしい。


「……お互い積もる話はあると思うけど、とりあえず退いてくれないかい……?」

「あ、メンゴ」


 モカは下敷きにしたままのシーフォンの上から退くと、ぽんぽんと体のホコリを払った。

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