60~終わりへのスタートライン~・3

 ガレの中に残る、テラの本拠地の情報。

 可能性を見つけたとはいえ、そこから直接乗り込めるようになるかはランシッド次第だ。


『ごめんね、ガレ。みんなと同様に休ませてあげたいけど……』

「皆の役に立てるのならば、それがしも嬉しいでござる」


 謝罪する精霊にガレは首を横に振る。

 他の仲間はそれぞれ休息をとっているが、彼だけはこの場に残る必要があった。


 といっても、ダクワーズが療養している彼女の部屋ではなく、客人が寝泊まりする別室に移動はしたが。


「……それがしは、見送ることしかできなかったから」

『この時代の君と、分岐した未来のカカオの話だったね』


 未来から来たガレは、この時代ではまだ幼さの残る少年だった。

 そして分岐した未来のランシッドが介入する前、カカオたちはテラとの度重なる戦いで、ひとり、またひとりと倒れていった。

 最後に残ったカカオを止めることもかなわず、泣きながらその傷ついた背を見送ったのだとガレは言う。


「もし、この戦いに勝って歴史が修正されたなら……」

『新しい未来が作られるよ。時空干渉の事実そのものが消えて、ね』

「そう、でござるな」


 本来なら有り得ない出会いだった。


 未来のガレが今こうしているのも、ここにはいないもうひとりの“時の調律者”の介入によるものだから。


「自分の中でも、もう変化は起き始めている。うっすらと甦りつつある記憶……これが、正しき歴史……なのでござろう」


 テラによって滅ぼされたカレンズ村が、元通り復活したように。

 それと同様に、この旅の記憶も消えるのだろう……本来の“正しい歴史”として。


「それでも……それがしたちは本望でござる。大好きなお兄ちゃんお姉ちゃんたちを守れるなら……未来でまた、逢えるのなら」

『ガレ……』


 少年の頃、届かなかった手。

 あの時の光景が今でも脳裏に焼きついて、時々夢に出るほどだった。


「……あれ?」


 夢に、と思い出そうとして、ガレが首を傾げる。


(幾度となく思い出された光景が、あんなに鮮明だった映像が、ぼやけていく……?)


 これもテラの時空干渉だろうかと一瞬疑ったが、


『どうかしたのかい?』

「今、他にどこかで時空干渉を受けている気配はあるでござるか?」

『うーん……ないねえ。何よりテラはとんでもなく大掛かりな干渉にとりかかっているところだから、そんな余裕はないと思うよ』


 時空の精霊にそう返されて、腕を組んで天井を仰ぐ。


『物事の変化は連鎖的に影響をもたらす。もしかしたら、思わぬところから何か変わりつつあるのかもしれないね』

「ふむーう……?」


 だとすれば、一体何が原因でどう変わっていくのだろうか。

 すっかり不鮮明になってしまった記憶からは、まだ何もわからなかった。

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