58~分岐した未来~・3

「“分岐した未来”って……」

『テラの時空干渉を止めるべく、メリーゼにカカオ、それにクローテ、モカが旅立った。そこまでは同じ』


 時の調律者は静かに、物語を読み聞かせるように言葉を紡ぐ。


『最初はクローテが、別行動の隙を突かれてテラに殺された』

「ッ!」

『次はモカだ。障気に満ちた転移先で分断され、視界も怪しい中で……とうとう合流を果たすことは叶わなかった』

「う……」


 カレンズ村のことに、リュナンが狙われた時。

 実際にはそんな結末は迎えなかったとはいえ、倒れた経緯を聞かされたふたりの身が強張る。


『そしてメリーゼもここで……独りになったカカオは、単身でテラと戦い、刺し違えた』

「「…………」」


 カカオとメリーゼが顔を見合わせる。

 一度は払った不安が、再び全身に纏わりついた。


 が、この場で唯一落ち着いた目をしていた者……ランシッドが、時の調律者に向き直る。


『……で、もうひとりの俺はそんな話を聞かせるためにこんな所にいたのかい?』

『わかってるだろ。本題はここから……そのための“分岐”だよ』


 どういうことですか、と尋ねるブオルに『まさに君のことだよ』とランシッドは答えた。


『アングレーズとガレが、過去を変えるために来たのは知っている。けどお前の話には後に加わったパンキッドやシーフォンはともかく、旅立ちとほぼ同時期に五十年前から来たブオルがいないんだ』

「あ、言われてみれば!」

『異なる時代からの来訪者……最初はテラの時空干渉であちこち不安定になった影響かと思ったけど、俺自身の力だったら納得がいく』


 なにせ時空を司る精霊だからね、と頷くランシッド。

 その可能性に今の今まで行き着かなかったのは、自分がもう一人なんているはずがないという、ごく当たり前のことからであった。


 それに、もうひとつ。


『過去や未来から不確定要素を連れてきて、結果を変える……でも、それはいち精霊としては“やりすぎ”なんじゃないか? 過度の干渉に力の行使、下手をしたら……』


 精霊は強大な力をもつと同時に大きな制約に縛られた存在だ。

 特に、契約者なしでこの世界に干渉する行為は消耗が激しく、危険が伴う。


 だから、どれだけ大切なモノを失おうと、基本的には世界を、流れを見守るだけなのだ。


『カカオ達の犠牲で本当に世界が守られたなら、その必要はなかった。問題はその後……そこにいる二人も知らない、もっと未来の話さ』


 と、十五年後から来た者達に視線をやると、時の調律者は言葉を続けた。


『倒したはずのテラが辛うじて生きていて、アラカルティアを滅ぼすための力を蓄えていた……そう言ったら、俺がなりふり構わず君たちの時代に干渉した理由もわかるだろう?』

「!」


 ざわめきが起こると同時に、時の調律者の体が映像の乱れのように大きくゆらめき、残された時間が僅かであることを伝えた。

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