55~悪意は遥か過去へ~・2

『と、とにかく話を戻そう。ダクワーズ、テラはここに来たんだね?』


 咳払いをして話題を変えるランシッドに「また都合が悪くなるとそうやって……」と小さく呟きながら、ダクワーズもそれに付き合ってやることにする。


「はい。ただ一言『今度こそ消えてもらう』と……そう残して、空間を裂いてその中に……」

『……今度こそ?』

「お母様は既に一度狙われたことがある、ということですか?」


 そう尋ねながら、メリーゼはダクワーズに歩み寄る。

 そして己の消えかけた手で、同様に存在が薄れ行く母のそれに何気なく触れた……その時だった。


「うっ……!」

「メリーゼ!?」


 ぐら、とメリーゼの頭が傾いでそのまま床に膝をつく。

 苦痛に眉根を寄せ、頭を押さえる彼女に全員の視線が集まった。


「だ、大丈夫か、メリーゼ?」

「え……ええ」


 カカオが差し伸べた手を取り、メリーゼはゆっくりと立ち上がる。

 左右それぞれに両親の色を受け継いだ目を一度閉じ、静かに開くと視線は母へ。


「……私がどうかしたのか?」

「お母様……お母様は一度、テラに会っています」

「な……?」


 きょとんとするダクワーズにランシッドが、旅先で発現したメリーゼの不思議な能力について説明する。

 時空干渉を受けた先の過去で、歪められた結果起こるであろう、幻と呼ぶにはあまりにも生々しい惨劇が視えたこと。

 そして現代でも何かに触れた拍子に、そこで起きた過去の出来事を知ったりもした、と。


「メリーゼにそんな力が……」

『恐らく生まれた頃から傍にいた俺の影響だろうね。そして、今回はダクワーズに触れたことで何かが視えたんだろう』

「ですが、私にはテラと会った記憶は……」


 もしかしたら、過去への干渉なんじゃないか。

 そう呟いたのは、しばらく考え込んでいたデューだった。


「パパ、それって……」

「憶測なんだけどな。前にも時空干渉を受けて消滅しかけたものに対するみんなの記憶が曖昧になったことがあったろ?」


 最初はカカオの祖父、ガトーのこと。

 東大陸にあるカレンズ村が干渉にあった時は、カカオ達だけでなく通りすがりの旅人たちからも村に関する記憶の混乱が聞けた。

 聖依獣の隠れ里では長老のムース自身が、己の存在の揺らぎを感じとっていた。


「ダクワーズは事故に関する記憶がないって言ってた。気づいたら負傷して歩けなくなってたと」

『……そうだ、どうして疑問に思わなかったんだ……事故のショックじゃなく、時空干渉の可能性を、他でもないこの俺が……!』


 苛立ちに任せて壁を殴りつけるも、実体のない身体では音も衝撃もない。


「記憶が、曖昧に……まるで最初から……」

「そんなことさせないよ。アンタはここにいるんだからね、メリーゼ!」

「そうでござる! すぐにでも過去に乗り込んでテラを止めるでござるよ!」


 不安に表情を曇らせるメリーゼをパンキッドとガレが元気づけ、いつものように時空転移の準備を始めるだろうランシッドに視線を向けるが、


『ごめん……今回はちょっと厄介みたいだ。少し時間をくれないかな』

「へ?」


 思わぬ言葉に、一同が顔を見合わせた。

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