50~襲撃~・3

 デューが駆けつけた時は、城下町は混乱に包まれていた。


『これは……』

「前と同じだ……災厄の眷属を直接送り込むなんてな……くそっ、やっと元通りになってきたのによぉ!」


 住人を追い回す黒い魔物を片手で斬り伏せながらデューは辺りを確認した。

 まばらだが、既に魔物の対処にあたっている部下達の顔と名前、所属を脳内で照らし合わせる。


「お前ら、こないだ用意した腕輪は装備してるな? シュトーレン隊は貴族街だ! プティフール隊は西区、ズコット隊は東、エンガディナー隊は南の救援に向かえ! 黒い魔物は再生能力が高い! 一騎討ちを避け、協力して一体一体確実に潰すんだ!」


 その一声で騎士たちがパッとそれぞれの持ち場に散っていく。


「デュー!」


 入れ替わりに駆けつけた人物の顔を見て、デューは少しだけ安堵した。


「ミレニア、オグマもいたか。お前らも騎士団の援護に向かってくれ!」

「ああ、わかっている!」


 名工が作った、大精霊との契約がなくとも浄化の力を得られる腕輪。

 前回の事件から再び持ち出されたそれは、災厄の眷属に対抗する手段となるのだが、契約者ほどの力は出せない……つまり、対抗はできるが決定打に欠ける。

 逆にデュー達の場合はいくら強力でも人数が足りず、隅々まで目が行き届かない……住民を守りきるには、騎士団の力も必要なのだ。


『……嫌な気配がしますね』


 仲間たちも手分けして動いたのを確認して、騎士団長に寄り添う水精霊が呟いた。


「ああ。肌がピリピリしやがる……今回はただの様子見じゃねえってこったな」

『あの醜悪な道化師ではありませんが、魔物の群れを束ねる者がいるようです』


 よほど嫌悪しているのか、その存在を話題に出すだけで美しい顔を一瞬歪める大精霊、水辺の乙女。

 と、そこに別の足音が近づいてきて、ふたり同時に振り返る。


「水色の髪のおっさん騎士……お前がこの時代の騎士団長、そして英雄サンかい?」

「ブオル子さん……じゃねえな。誰だ、アンタ」


 現れた人物にデューの声が一段と低くなる。

 黒い鎧を纏ったブオルによく似た人物……彼の禍々しい、そしてデュー達にとっては懐かしくもある気配は、災厄の眷属のものだ。


「へえ……“コイツ”とも知り合いか。“俺”の能力、わかるだろ?」

『生き物に取り憑き、肉体を操る……』

「まあ正確には生きちゃいないんだがな。コイツはただの抜け殻さ。ほんの少しだけ、未来のな」


 取り憑いた魔物はどうやらおしゃべりな奴らしく、ぺらぺらと得意げに話した。

 デュー達の知るブオルは熊のような図体でも温和で優しげな男だったが、目の前にいるそれはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。


『彼が過去の人間であることを利用して、肉体を手に入れて駒としたのですね』

「そ。んでもって愛する王都に里帰りさせてやったってワケさ。手土産つきでな」


 襲われる人々の悲鳴が飛び交う王都の城下町。

 その瞬間、水辺の乙女は隣からぶち、と何かが切れる音を聴いた気がした。


「……もういい。わかった」


 常人ならば両手で扱う幅広の大剣を片手で軽々と振り回すと、その柄をしっかりと握り直すデュー。


「テメェは今すぐブッ倒すッ!」


 咆哮ともとれる声に呼応して、彼の周辺に水煙が巻き起こった。

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