45~異世界に降りた災厄~・1

――むかしむかし、どこかの世界の片隅に小さな星が落ちてきました。

 星には醜い化物がくっついていて、その世界の平和を脅かしかねない危険な存在だと言われました。

 化物は強く勇気ある者達によって倒され、誰も近寄らない場所に封印されました。


 そうしてこの世界には“英雄”が生まれたのです。


 化物は動けないまま、長い長い年月をひとりぼっちで過ごしました。


 自分をこんな寂しい場所に追いやった英雄に、憎しみを募らせながら……――




 目を覚ましたガレが話をしたいということで仲間を集めたのは、シブースト村の学校にある図書室。

 すっかり大所帯となったカカオ達にデュー、ミレニア、そしてシーフォン……その全員が机を囲み話ができる部屋、ということで選ばれたのがここだった。


「その“醜い化物”が、テラ……?」


 話の途中でモカがガレに尋ねる。

 確かに強さは化物染みていたが、見た目は人間の女性に近い姿をしていて、わざわざ醜いと形容されるほどではなかった。

 それに異世界で倒されて封印されたものが現代のこのアラカルティアで暴れている理由も引っ掛かる。


「この話には続きがあるのでござる。封印は時と共に弱まり、化物が少しずつ外に出てきてしまったと……」


 デューとミレニア、それに精霊たちが顔を見合わせた。


(これは、あまりにも似ているのう……)

(……だな)


 自分たちが知っている状況とテラの経緯は、どことなく共通する部分が多い。

 だが今は言及はせず、ガレの言葉を待つことにした。


「封印が弱まりつつある長い時の間に、化物はその世界のいたるところを見ていた。そして知ったのでござるよ……こちらでいう時空の精霊に近い存在“時の女神”を」

『なんだって……!?』


 時空を司る精霊であるランシッドが身を乗り出す。

 真剣な話の場で彼は、いつもの小さなマスコットではなく本来の青年の姿で実体化していた。


「これまでにたっぷりと力を溜めていた化物は時の女神がいる神殿を襲撃し、彼女を喰らった。その力を己がものにすれば、憎き英雄に復讐できると……」


 ぎゅ、と胸元に置かれたメリーゼの手に力が入る。

 その表情は強張り、きゅっと結んだ唇が微かに震えている。


「それでは今の女性の姿は、まさか……」

「時の女神を元に、自分好みに変えたと言っていたでござる」


 それを聞いた一同からざわめきが起こる。

 不気味な道化師の姿には想像以上のおぞましい背景があったのだ。

 喰われて能力を奪われただけではなく姿まで使われ、好き勝手に弄られた時の女神の無念は計り知れないだろう。


「そうして生まれたのが、今の“テラ”でござるよ」


 しかし話はここでは終わらない。


 その先に続く不穏な気配を感じ取ったカカオ達は、ごくりと息を呑むのだった。

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