41~シブースト村のアイドル~・3

「せんせー!」

「ミレニア先生ー!」


 弾けるような子供達の声に呼ばれて庭に出てきたのは、パスティヤージュにいたフィノと同じくらいの年頃のやや小柄な女性。

 小さな手に引かれて白花色の長いポニーテールを揺らし、ルビー色の目を優しげに細め「はいはい」と笑う。


「あのひとが、ミレニアさん……」


 しかしカカオ達が声をかける間もなく、彼女の周りはちびっこにぐるりと囲まれる。


「ミレニアせんせー! きょうもいっぱいおべんきょうがんばったよー!」

「ほむらのおじさんだしてー!」


 子供達が口々に言う「ほむらのおじさん」にピンときたのか、風精霊がカカオの横で、あ、と声を洩らした。


「しょーがないのう」


 するとミレニアはにやりと笑い、授業に使っていたのだろう指示棒を手に、絵本に出てくる魔法使いのようにくるりと回ると、


「でてこいでてこい、焔!」

『あいよぉー!』


 そう言って、あたかも魔法で出したように全身に燃え盛る炎を纏った筋肉質の男を呼び出したのだった。


「炎のマッチョ……!?」

『火の大精霊の“豪腕の焔”さんです。豪快な方ですよ』


 見るからに派手な炎は小爆発を起こしながらしかし子供達に襲いかかることはなく、見る者を楽しませる演出と化している。

 火精霊と共にリボン状の紅の光を舞い遊ばせるミレニアが、妙に眩しく見えた。


「はー、綺麗なもんだなあ」

「あんなに近くで、チビどもは平気なのかい?」

「平気じゃないなら普段の戦闘でも仲間がいる中で魔術なんて使えないだろう」


 不思議そうな顔をするパンキッドに、クローテが解説する。


「普通に起こした火と、マナを操り、魔術で生み出す火……見た目や性質は同じに‎見えるが、後者はただ生み出すだけでなく術者の技術で対象を限定できるんだ。どれだけ広範囲の強力な術で魔物を一掃しても、一緒に戦っていてなんともないだろう?」

「ですから魔術を習う時、実戦で使用するためにまず最初にマスターしないといけないのはその術が干渉する対象の指定なんですよ」


 メリーゼもそう付け加えると、パンキッドはうーんと唸った。


「そうなのか……アタシは魔術はからっきしだからねぇ」

「パン姐はたぶん無意識にやってると思うよ。あのトンファーから撃ち出す弾とかでね」

「そんなに難しく考えることはないのよ、パンちゃん」


 そんな、ちょっとした魔術の勉強会が開かれたところで。


「なんじゃ? おぬしらも授業を受けに来たのか?」

『おう、風花に時空の! 元気そうじゃねぇか!』


 いつの間にか炎のショータイムを終えたらしいミレニア達が、カカオ達に気付いて近くまで来ていた。

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