41~シブースト村のアイドル~・1

――――暗い。


 いや、暗いと言うよりも何もない、真っ黒に塗りつぶされたようなどこか。

 時空の精霊が作り出す隔離空間とはまた違う、虚無そのもののような場所で、ガレは薄く目を開けた。


「ここ、は」

「アナタの“敵”の本拠地よ、ねこみみクン」


 忘れもしないその声に、ガレの意識が一気に覚醒する。

 そうだ、確か自分はあの時テラに……


「う、動ける……?」

「ずっと操ってるのも疲れるのよ。それに、アナタがいくら動けてもここじゃ何の意味もない」


 動かした肘が何かにぶつかり、ガシャリと音を立てる。

 よく見れば鳥籠のような形をした檻に入れられており、テラはその外からこちらを覗き込んでいるのだと気付いた。


 恐らくは見た目よりも頑丈だろうこの檻、それに首筋に刻まれた術式のせいでテラの意思ひとつでこの身が操り人形にされてしまうことを差し引いても、今のガレ一人ではここから逃げ出すことは絶望的だろう。


(……テラの気まぐれに命を握られている状態、か。今は生き残ることだけを考えねば)

「そんな怖いカオしなくても大丈夫よ。今は何もしないわ。今はね」


 長い手が格子の隙間からのびて、ガレの顎をとらえる。

 今は体の自由がきくはずなのに、金縛りにあった心地だった。


「……っ、目的は、何だ」

「目的ぃ?」

「英雄を憎み、この世界の歴史を弄って滅ぼそうとする……この平和なアラカルティアで、何が貴様をそうさせる……!?」

「ああ、そゆコト?」


 首をじわじわと絞められているような錯覚を感じながらどうにか疑問を投げかける。


「これは、ゲームなどでは、ござらぬ……っ!」


 テラが手を放すと、ガレは詰まっていた呼吸を取り戻し、胸を押さえ苦しげに酸素を求めた。

 ケタケタと耳障りな高笑いが真っ暗な空間に響く。


「やっぱアナタ、イイわ。他の駒だと忠実過ぎて返事はテンプレ、こういう話もできないのよねぇ……そうね。じゃあちょっと昔話でもしましょうか」

「むかし、ばなし?」

「そう。蒼く輝く丸い宝石、アラカルティア……アナタ達の世界にはない、昔話をね」


 そう言うとテラは、いつものふざけた口調をやめて淡々と語り始めた。


「むかしむかし、空に浮かぶ星々のひとつ……こことはまた別の世界のお話よ」


 ストーリーテラー……彼女が名乗るそれに合わせるように、ゆっくりと落ち着いた口調で。

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