40~喪失と、怒りと~・3

 テラと目が合って、ニタリとした笑みを見て。

 そして“オモチャ”という言葉を聞いて、ガレはハッと思い当たった。


「時折走るこの首の痛み、そして前に一度体の自由がきかなかったこと……」


 自分の意思とは関係なく勝手に動いた手が、無防備なクローテの首にかけられたことがあった。

 今もズキズキと痛みを訴えるそこを押さえていた手を退けると、仲間達から遠目にもはっきりわかるほど腫れ上がって……否。


「ガレ……なんだ、その紋様は……」

「紋様、でござるか……?」


 腫れている訳ではない。

 ガレからはわからないが、そこから薄く発せられている紫色の光が見えた。

 嫌な予感が確信にかわり、心臓がどくんと脈打つ。


「……オアシスでそれがしの体に何か仕掛けを施したか」

「そ。首を掴んだ時にちょっと、ね。そっちの綺麗な子とは違う遊びをしようと思ってたんだけど……“生きたまま”でもソレはソレで面白そうねぇ」


 テラは厭らしく口の端を上げると、ガレを呼ぶように長い指を動かした。


「何を言って……」

「ダメだ、早く離れろ!」


 そう叫んだ刹那、手にしたブーメランを仲間達に向けて思いっきり投げ放つガレ。

 警告のお陰で誰にも当たることはなかった刃は、ひとしきり暴れ回ったのちに持ち主のもとに戻ってきた。


「……なぁんだ、外しちゃったー。余計なコト言わないでよね」

「もしかして、ガレ君……操られているの!?」


 ふらつく足取りでテラの傍へと寄っていくガレは苦しげで、どうにか抵抗しているようにも見える。


「ぐ、うう……」

「今のこの子はアタシの操り人形ちゃんよ。案外抵抗力が強くて、ちゃんと動かせるようになるまで時間かかっちゃったケドね。とりあえずイイ感じになってきたから貰ってくわ」


 テラはもう用はないとばかりにアングレーズ達に背を向けると開きっぱなしの空間の穴へと歩き出す。


「させるかッ!」


 どうにか金縛りから抜けたクローテがテラに飛び掛かるが、


「せっかちねぇ」


 振り向きもしないテラの片手で放った衝撃波に吹き飛ばされてしまう。


「クローテどのっ!」

「うっ……行くな、ガレ……!」

「大丈夫よ。彼とはまた会えるわ……次はアタシの駒として、だけどね……フフ、ギヒャヒャヒャヒャヒャッ!」


 耳障りな声を響かせながら、テラはガレを連れてどこへともなく姿を消した。


「ガレ君……なんてことなの……」

「ちょっと、ヤバすぎない……?」


 あっという間の出来事だった。


 残されたのは仲間を失った絶望に呆然と立ち尽くすアングレーズとモカ、それに、


「……くそっ!」


 地に伏したままのクローテが悔しげに歯を食い縛り、拳を握り締めていた。

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