39~守れ、世界の要~・3

『ここで暴れたら聖地や里にどんな被害が出るかわからない。外のことは残りのメンバーに任せて、空間を切り離すよ!』


 今にも戦闘が始まりそうなところに、すうっと現れた半透明の青年。

 灰桜色のウェーブがかった髪に茜色の目をした彼の姿が、カミベルにはどこか懐かしい面影と重なって見えた。


『モラセ……いえ、ちょっと似てるけど違うわ』

『ちょっと待って聞き捨てならなっ……まあいいや、いくよ!』


 そのカミベルの想い人、モラセスは確かに生前初代グランマニエ王だったランシッドの遠い遠い子孫だが、似ていると認めるのはどうにもあちらが濃すぎる……そんな抗議を飲み込み、ランシッドは敵ごとカカオ達を時精霊の力で作り出した空間で包んだ。


『な、なんだったのかしら……』

「とりあえず、後から来たのは味方なんじゃろーがのー」


 残された聖依獣達はぽかんと口を開けて、彼らが消えたあとを見つめていた。




 その先に広がるのは、無限とも思える隔離された空間。

 周囲に被害を出さないように、そして異なる時代の者達に余計な接触をさせないように……異空間の生成は時空の精霊となったランシッドだからこそ扱える力だ。


「この虚無の空間を貴様らの墓場とするか!」

「おあいにく様、そうはならないよっ!」


 勇んで飛び出したパンキッドがその勢いのまま敵の内の一体にトンファー、蹴りと続けざまに放つ。

 しかしその直後、横から撃たれた衝撃波に彼女の連撃は中断させられた。


「ちいっ」

「パンキッド!」

「大丈夫、当たってないよ……けど、こいつはちっと厄介だね」


 痛手を受ける前にパンキッドが素早く後退し、かわりにブオルが前進して盾となる。


 見れば五体……分断されたカカオ達より数を増やした敵は次々と遠距離から同様の攻撃を仕掛けてきた。

 威力はそこそこだが切れ間なく撃たれれば、遠距離攻撃の手段に乏しい今のカカオ達には反撃どころか近寄ることも厳しい。


「マズったかな……魔術攻撃が得意なメンツがいないぞ」

「わたしの術ではこれだけの数相手の突破口には……」


 メリーゼも多少は魔術が扱えるが、高威力広範囲の攻撃は里に向かったメンバーほどはできない。

 おまけに詠唱時間を必要とする魔術とは違い、向こうは疲労も見せずどんどん撃ってくる……時間を稼いで術を一回唱えられても、この状況をひっくり返すまでには到らない。


「……なら、考えがある。メリーゼ、オレの側に来てくれ」

「え?」

「ブオルのおっさん、悪いけど少しだけ堪えてくれないか?」

「何か考えがあるんだな? 任せとけ!」


 ブオルは振り返らずにそう応えると、更に前に出て踏ん張る足に力を入れた。

 背後ではカカオが意識を集中させ、メリーゼの双剣に手を翳す。


「宿れ、風精の力……羽根の如き軽やかさ、刃の如き鋭さを!」


 翠の光がメリーゼの身体を包み、弾ける。

 すると彼女自身の感覚に変化が訪れた。


「体が軽い……それに剣も」

「少しの間だけど風の精霊達がお前に力を貸してくれる。好きなだけ暴れろ、メリーゼ!」


 カカオの言葉と同時にメリーゼは地を蹴り、高く跳ぶ。

 前にいたブオルの見上げるほどの長身も軽々と越える跳躍は、風精霊の力だろうか。


「何をする気だ?」


 防戦一方だったところに突然動きを見せたメリーゼに首を傾げながらも、敵の一体が彼女に狙いを定めて衝撃波を放とうと……


「こうするんです!」


 ザン、とその人形の両腕の先が斬り落とされた。

 メリーゼの剣から鋭い風の刃が飛んだのだ。


「ぐおおっ……!?」

「今です!」


 一瞬の混乱に敵の動きが止まり、乱れる。

 カカオ達にはその一瞬があれば充分であった。


「やるねぇ、職人さん!」

「さぁて、よくも好き放題やってくれたな。いくぜっ!」


 パンキッドとブオルも駆け出し、ようやく始まった反撃に口の端を上げた。

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