31〜蒼雪の使者〜・1

 北大陸に着いたカカオ達はネージュでの準備をそこそこに、霊峰アラザンへと向かった。

 吹雪で荒れるそこは道中とは比べ物にならないほどの寒さで、火のマナが作り出したバリア越しにもその厳しさを伝えるのだった。


「何かしら、この感じ……」

「霊峰が、荒れてる……」


 小さく呟いたメリーゼの隣でそう口にしたのは北大陸出身のカカオだった。

 地元の人間から見てもおかしく感じるらしい状況で、メリーゼは自分の感覚に確信めいたものをおぼえた。


(氷の精霊が……“彼女”が怒っているんだわ)


 それが真実かどうかは、どのみちこの先で明らかになることだろう。

 慣れない雪にとられて重たくなった足を一歩一歩踏み出しながら、彼らは霊峰を進むことにした。


—しろがねの霊峰アラザン・氷晶の迷宮―


 道中で襲い来る魔物を退けながら険しい雪道を歩いていくと、山の内部に繋がる穴を見つけた。

 中は可視化するほどに濃い氷のマナが漂っており、あちこちに咲いた煌めく氷の花もその影響だろう。


「綺麗だなあ……」

「って言ってる場合じゃないよ! あれ!」


 カカオ達が迷宮の美しさに浸る間もなく、無粋な乱入者が現れる。

 モカが指した先には迷宮を降りて、カカオ達……ではなく、彼らが来た出入り口めがけて散り散りになりながら走る、この洞窟の美しさにそぐわぬ黒い化け物の姿が。


「なんだい、あいつら……まるで何かから逃げてるみたいな」


 これまでに遭遇した“総てに餓えし者”の眷属はどれも凶暴で好戦的なものばかりで、戦う前から逃げるということはまずなかった。

 まして、カカオ達と同等程度の数がいるなら進んで向かってくるのがこの魔物達である。


 と、その一体が出入り口に辿り着こうとした瞬間、見えない壁によって大きく弾かれ、無様に地に落ちた。


「それがし達は何ともなかったのに……これがちちうえが言っていた結界でござるか」


 時空の裂け目から魔物が涌くという話と、それを食い止めるために残った者や結界を張る聖依獣がいるという話。

 魔物が逃げてきた方に行けば、どちらも確かめることが出来るのだろうか。


「行きましょう」

「ああ」


 一行の視線は迷宮の奥へと向けられたのであった。

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