22~英雄《ヒーロー》~・1

 それは、戦闘というよりは蹂躙に近かった。

 道化師めいた風貌の女性……ストーリーテラーこと“テラ”を名乗る者は細い腕から次々と容赦ない攻撃を繰り出し、人数の差などものともせず襲い掛かる。

 憩いの象徴であるオアシスは、攻撃の爪痕に抉れ、たちまち無惨な姿になってしまった。


 そして……


「初手を避けられたのはさすがだけど、いつまでも逃げきれるワケなかったわよねぇ?」

「うぐ、うぅ……っ」


 地に倒れ伏す二人もまた、同じだった。

 玉乗りの玉に腰掛けて嘲笑う道化師に傷ひとつつけられなかったクローテとガレは対照的にボロボロで息も絶え絶えだ。


「けど、おかしいわね。報告だと聖依獣のハーフは一人……治癒術を使う銀髪の坊やって話だったんだけどぉ? アンタだれ?」


 テラはそう言いながらガレの首を掴み、おもちゃ箱から玩具を取り出すように片手で軽々と持ち上げる。


「がっ……!」

「ガレ!」


 ブオルほどではないにしろ大柄な男性をそんな風にできるなど、女性……いや、そもそも人間の力で有り得るのだろうか。


「まぁいいわ。一人やるのも二人やるのも一緒よね。いたぶるのも飽きてきたし、そろそろ……」


 興味なさそうな淡々とした声音で「消えて」と告げ、四肢をだらりと垂らしろくな抵抗も出来なくなったガレに無慈悲な一撃を……


「――ッ!」


 刹那、クローテが何やら早口で唱えるとガレを守るように輝く水の衣が現れる。

 空いたテラの片手から衝撃波が放たれたのは、その直後だった。


「ぐあぁっ!」


 衣は衝撃を受け止めきれず、ガレの体が遠くへ吹き飛ばされたものの、致命傷は免れたようで咳き込む彼の意識はまだ残っていた。


「間に合っ、た……」

「今のを耐えるか……バリアーなんて、やってくれるじゃない」


 宙に浮いた大玉に座り直したテラは、クローテの眼前まで迫るとその腕を掴み、足が地に届かないところまで高度をあげて吊るした。

 さんざん痛めつけられた体が、自重に悲鳴をあげる。


「うぁ、ああっ」

「やっぱ厄介よね、治癒術士は。だから潰すなら最初にやるのが基本かにゃー? お仲間が帰って来た時、どんな姿だったらよりドラマチックかしら♪」


 けらけら笑いながら覗き込む道化師の顔は、悪魔と言って差し支えなかった。

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