17~セルクル遺跡の岐路~・4

 全く攻撃が通らない訳ではないが魔物はやはり硬く、魔術的な攻撃手段をもたないカカオにはつらい相手だった。


「ちっ、やりにくいぜっ」

「カカオ兄、さがって! ここらでいっちょ、新作いくよ!」


 モカが叫ぶが早いか頭を下げ、背中の箱から垂れ下がる紐のうちの一本……緑色のそれを思いきり引っ張る。


「新作?」


 ぱかーん!


 開いた箱の中から飛び出す無数の、色とりどりのボールが魔物に襲いかかる。

 子供のおもちゃにしか見えないボールが命中すると、あれだけカカオが叩いても怯まなかった魔物がうめき声をあげてよろめいた。


「うぉっ、なんじゃこりゃ!」

「ただのボールじゃないよ。マナをたっぷりこめておいたとっておきの魔学道具、ってね」


 見ての通りコストが高いからあんま乱発はできないけどね、などと付け加えながらモカは後は任せたとばかりに後退する。


「マナ、か……それならそれがしにもとっておきがあり申す!」

「ガレ?」


 かわりにガレが群れの懐に飛び込むと、めいっぱい息を吸い込み……


「がおぉーーーーっ!」


 吐き出した息は、バチバチと雷を纏って放出された。

 これには硬い魔物もたまらず、あちこちから悲鳴があがる。


「うぇぇ!?」


 驚いたカカオの後ろでその光景を見ていたクローテは「なるほど」と内心で呟いた。

 だが今は混乱する仲間に説明してやるよりも先に、やることがある。


「揺らぐ水面は闇の微笑、その手を伸ばし深淵へと誘え!」


 空中、魔物達のすぐそばに開いた空間の穴から闇の力が放たれる。

 一度外側に向かった力は今度は吸い込むように内側へと、魔物達を釘付けにした。


「今だ、モカ!」

「おっけー!」


 固定された魔物が逃げ出す前に、追い討ちとばかりにモカが術を完成させる。


「降り落ちろ雷帝の剣! 我が敵を貫き力を示せ!」


 詠唱に違わぬ雷の剣が真っ直ぐに魔物に落ちて、一気に片をつける。

 一際大きな断末魔からそれきり動かなくなったのを見て、カカオ達は武器をおろした。


「やれやれ、こういうヤツはオレにはきっついな……」

「カカオどのが皆を信じて時間を稼いでくれたお陰で、皆も力を発揮できたのでござる!」

「ありがとな。ところでガレ、さっきのがおーってやつは……」


 にこにこと寄ってきたガレに、カカオは先程見た技は何なのか、ようやく聞くことができた。


「ああ、それがしには聖依獣の血が流れているゆえ」

「聖依獣とは精霊やマナを宿す器……マナを体内に溜め込むことが出来るそうだ。私はたぶん、ガレより血が薄いから出来ないと思うが……」

「それがしは溜め込んだマナを練り上げて吐き出し、攻撃に使うことができるのでござる。火炎竜とかが火のブレスを吐くのと似たようなものでござるよ」


 クローテの補足も聞くところ、それは聖依獣の血を濃く引く、ガレだからできる芸当なのだろう。


「すげえな。自分で編み出したのか?」

「父上とししょーが手伝ってくれたのでござる!」


 みんな、自分なりの強さを、武器をもっている。

 それなら自分は……カカオはふと、己の手に視線を落とすのだった。

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