14~パスティヤージュの守護者たち~・1

――遠く遠く、気が遠くなりそうな距離を経て。


 砂を含む乾いた風が吹く地に、何かを待つように佇むひとりの女性がいた。


「呼んでる……」


 艶やかに紅く色づいた唇が、微かに開かれる。

 彼女の暮らす里のはずれにあるこの場所は人気もまるでなく、かつて古代の建造物の一部だったであろう崩れかかった石柱が無造作に砂に突き刺さる、どこか物寂しいところだった。


 そこに、


「こんなところに……!」


 里の方から青年が、サクサクと砂を踏みながら駆けつける。


「あら、追いかけて来てくれたのね」


 よほど探し回ってくれたのだろうか、青年は息を弾ませ、広い肩を上下させている。

 彼の目は心配を滲ませ、彼女に訴えかけた。


「ごめんなさい。けど、呼ばれたのよ」

「呼ばれた……?」


 誰に、と尋ねようとした青年と女性の前に、突如ぽっかりと穴が開く。


「こ、これはっ……!」


 何もない空間に開いた穴は暗く、先が見えない。

 普通なら有り得ない、奇妙な光景だが……


(知ってる……この光景は、以前にも……)


 その既視感を記憶から手繰り寄せようとした青年の前に、女性の白く華奢な手が差し伸べられた。


「一緒に来る?」

「へっ?」

「ほら、呼んでるわ。行きましょう」


 返事も待たず、女神のように微笑んだ彼女は青年の手を引いたまま空間の裂け目に飛び込む。


「わわっ、ちょっ……!?」


 引っ張られた勢いで体勢を崩した青年は拒否する間もなく共に穴の中へ。

 

 そうして彼らの姿は忽然と、この場から消えてしまった。




――――




 カッ!


 日差しに音などないが、存在するならそんな気合いの入った音が聞こえてきそうな乾いた空の下。


「あ、あっちぃ……」


 意気込んで東大陸に来たものの、一番その気候に参っていたのはカカオだった。


「まだ序ノ口だぞ、青少年」

「カカオ兄、だらしなーい。いや確かにすっごいあっついけどさぁ」

「う、うるせぇ、オレはもともと北国生まれなの! ……そりゃあ、最近はずっとフォンダンシティにいたけど」


 犬のようにだらしなく開いた口から舌を出すとブオルとモカにたしなめられる。

 他の者もマンジュの里、そして薄暗く湿った九頭竜の路からいきなりの暑さと眩しさに険しい表情を浮かべてはいたが、この中で唯一北大陸のクリスタリゼで生まれたカカオには特に堪えたようだ。


「これでも九頭竜の路のお陰で特に厳しいカソナード砂海を避けて来られたんだ。文句を言うな」

「だってぇー」

「だってじゃない! 私達も暑いことにはかわりないんだ。見苦しい姿を晒すな!」


 クローテに叱られ、目に見えてしょんぼりするカカオに最近垣間見せた頼もしさはない。

 メリーゼと風精霊が顔を見合わせ、困った顔で笑みをこぼした。

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