3~有り得た未来、有り得ない出逢い~・3

 頭の中に声が響く。


――フローレットは僕のために殺された……彼女の笑顔はもう、戻らない……――


 儚く、もの云わぬ姿となった美女の前で立ち尽くす騎士の声。


――僕が弱かったから……僕が、僕が、僕がッ!――


 その声は、彼の心の奥底からの叫びだった。


――赦さない……絶対に赦さない!――


 じわり、と彼の中から黒いモノが蠢き始める。


――彼女を奪ったものも、僕自身の弱さもッ……!!――


 やがて黒は騎士を覆い、その姿を醜い魔物へと変貌させ……



――――




「――っ!」

「どうした、メリーゼ?」


 薄暗い、どこかの洞窟内。

 びく、と肩を跳ねさせ息を詰まらせたメリーゼを、カカオ達が振り返る。

 過去世界に来た彼女の足は一瞬、無意識のうちに止まっていたようだった。


「え……えーと、今のは……?」

「どうしたのメリーゼ姉、真っ青だよ?」

「今……王様と王妃様の姿が……今より少し若くて、王妃様が倒れてて、それでっ……!」


 取り乱したメリーゼの肩を「落ち着け」とカカオが包むようにそっと掴む。

 その感触が彼女を鎮めることに成功したようで、乱れた呼気もややあって正常に戻った。


『たぶんメリーゼが視たのは、干渉を受けた結果の世界だ』


 ぴょこぴょこと跳ねながらついて来たランシッドは、毛玉の小動物……いわゆる省エネモードの姿になっていた。


「干渉を受けた結果の世界……?」

『メリーゼは時空の精霊である俺といる時間が長かったから、もしかしたら何かしらの影響を受けているのかもね』

「そう、なのですか……」


 精霊に慣れ親しむほど、その適性は高まっていく。

 彼女の場合は幼い頃から触れていた父親が精霊そのものだったため、時空に関する何らかの感覚が鋭くなっているのだろうとランシッドは語った。


「ねえ、それで何がみえたの?」


 メリーゼの腕を引いて、モカが不安と好奇心の入り交じった調子で尋ねる。


「……人質にとられていた王妃様が殺されてしまって、そのショックで騎士……王様が魔物になってしまう、そんな光景だったわ……」

『過去に戦った魔物には、人の心の弱さに付け入り、取り憑いてしまうものがいた。トランシュも一度はそれに憑かれ暴走しかけたけど、自力で打ち破ったそうだよ』


 メリーゼとランシッドの言葉で、この場にいた全員がこの先起こるであろう事態を理解した。


「時空干渉してきた奴に心の支えだった王妃様を殺されたことで魔物化、か……それで“英雄王”は消えちまう訳だな」

「早くフローレット王妃を見付けなければ……」

「うん、急ごう!」


 洞窟内に響くばらばらとした靴音。

 その気持ちをあらわすように、彼等の歩調も心なしか速まっていった。

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