33話 試験会場
「試験会場?……あぁ、そういえば言ってなかったなぁ」
「あれだろ?どうせ、またサッと消えようとして、『オーラを追え』とか言い出すんだろ?」
試験前なのにマナ使って疲れて試験に合格できませんでした、なんて本末転倒もいいところだ。
しかし、師匠は首を横に振って否定する。
「流石に私もそこまで鬼畜ではない」
「鬼畜っていうことは認めるんだな」
「そうじゃなければ最強なんて目指せないだろう?」
「正論なんだけど、もうちょっと否定してほしかった……」
「まぁ、すぐにわかる」
「……」
久しぶりに俺の危機察知能力が反応している。
ものすごい嫌な予感しかしない。なんで曖昧な言い方するかなぁ、この人は。
「とりあえず、駅まで行くぞ、ついてこい」
「駅……?ってあれ……?」
師匠はその場からサッと消えていた。
「結局、消えんじゃねぇかよ!」
俺はツッコミながらも師匠のオーラの痕跡を頼りに後をついていった。
〜〜〜
東京駅にて。
「ゼーハーゼーハーッ!」
「お前、少し疲れすぎじゃねぇか?」
「ふっ……ざけんな!ハァ、なんで、神奈川の、ほぼ端の方から、全力ダッシュで、東京にまで、いかなきゃ、ハァ、なんねぇんだよ!」
「いや、駅に行くって言ったぞ?」
「駅遠すぎね?!……ゼーハーッ!」
「とりあえず、ここで飯を買ってから新幹線に乗るぞ」
「……え?新幹線?そんな遠くに行くのか?」
「あぁ、流石に試験前だし新幹線に乗った方が楽だからな」
「おぉ!まじか!……でも、券は?」
「それなら私が持ってる。交通費は支給されるからな、とりあえずお互いに飯を買ってここにまた集合だ、いいな?」
「了解!」
〜〜〜
その後、飯を買った俺たちは新幹線に乗り、飯を食いながら景色を眺めていた。
俺はカツ丼を買ったが、師匠はなんとチョコケーキのホール1台を俺の目の前で幸せそうな顔して食べていた。そんな顔をして食べていると少し食べたくなってしまう。
「師匠、そ……」
「斬られたいか……?」
「すみません……!」
俺まだ何も言ってなかったよね?!しかも、あの突然の殺気は何?!怖すぎる……!
師匠は甘いのが大好きだということがわかったのと同時に絶対に手を出してはいけないということもわかった。
それからというものの、俺は景色を眺めながらこの前の紗由理を攫ったあの悪魔との闘いを思い出していた。
あの時は無我夢中だったというのもあるが人、ではないが生き物を殺そうとした。蚊やハエを殺すのとは訳が違う。今思うとあの時本当に殺そうと思ってた自分が少し怖い。でも、
「それが忍者だ」
師匠が俺の考えを読み取っていた。
「悪魔を躊躇なく殺せとはいわん。確かに私も始めの方はそうだった。でも、殺さなければこちらが殺られる。そういう精神面の方も鍛えていけ。じゃないと、最強なんて目指せないからな」
師匠は微笑みながら俺にそう言い聞かせるかのように言った。
「師匠……」
流石、師匠。そういうところはちゃんとしてるんだよなぁ。
「そういうところはは、余計だろ」
「そうやって、すぐ心を読むのがいけないんだよ!」
〜〜〜
新幹線から降りたこの駅周辺は山に囲まれており、まさしく田舎だった。空気が澄んでいて、とても美味しい。
「おっしゃぁあ!やっと着いたぁ!」
「目的地はここから近い。行くぞ」
「おう!」
俺は歩く師匠の後ろをついていった。
〜〜〜
山の中を歩いて数十分。
「着いたぞ、ここが目的地だ」
「……何にもねぇ」
そう。何もなかった。試験を受ける人もそういった設備も何もなかった。
「受験者は……?」
「お前だけだぞ」
「え……?」
「元々、そこまで人数には困ってなかったからな。今回はお前を下忍にするために急遽決定した試験だ」
「あぁ、だから何もないのか」
俺は勝手に納得し、地面に石灰で書かれている『ここ↓』のところに立つ。
すると、目の前にあった木の箱の上に1人の人物が砂埃を捲き上げながら……ってやばいやばい!めっちゃ目に入るっ!
「ゲホッ!ゲホッ!ガハッ!喉に入ってしもうた!ペッ!ペッ!……ゴホン!よく来た忍者の卵よ。儂の名は翔龍。忍者を統括しておる、いわゆるボスだ」
「……うん、最初の方で威厳も糞もねぇな、これ」
見た目はボスそのものなのに、最初の言動のせいで……!
「……お主にはこれから試験を受けてもらう」
「あ、スルーするんだ」
「あれを」
隣に立っていた、付き添いの忍者に命じるとその忍者が懐から何か大きく黒い布を取り出す。封印布に似ている。
「これは『転移布』というものだ。これをお主に被せる」
「おぉ……」
バサッ!と布で覆われると目の前が真っ暗になる。
「そして、ここでマナを儂のマナを注ぐと……!」
「……?」
突如、俺の体が光だした。
ビーンッ!と俺の頭の中で危機察知能力が発動した。
「ちょっと待っ……!」
「ハァッ!!」
ボスの雄叫びが高らかに響き渡ると、俺の視界がぐらつき、そのまま気絶してしまった……。
〜〜〜
「んっ……!待て!……あれ?」
俺は上半身だけ反射的に起き上がると周りはのどかな草原や畑が広がり、奥には大きな街が見えていた。
空気は確かに美味しいがさっきまでの場所とは違う美味しさを感じていた。
もうやめよう。現実逃避は長くなるほど現実に戻った時が辛くなる。だって、さっき『転移布』って言ってたもんな、あのボス。てことは、これはよくラノベとかで見る展開だ。間違いない……!そう、これは……
「異世界に転移しちまったぁぁああ!!」
俺の声は、何もないこの田舎っぽい場所でも響き渡るのであった。
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