忍者修行は楽じゃない？！〜普通ライフを送るために修行せざるを得ませんでした〜

29話 宣戦布告

　 「おい！嘘だろ…？！師匠！起きてくれ！誰があいつを倒すんだよ！」

　 俺は師匠を無理矢理起こそうと師匠の体を揺さぶる。起きる気配がしない。

　 くそっ！

　 『おい！嘘だろ…？！師匠！起きてくれ！誰が…俺を倒すんだぁ…？ゲハハハァ！！』

　 「……てめぇ！」

　 『……どけ…！そいつ殺せねぇだろ…？』

　 「……っ！？」

　 悪魔の殺気にあてられた俺は一気に縮こまってしまう。

　 ……怖い。こいつが怖い！俺に勝ち目はないのか…？畜生！

　 『キヒヒッ！お前からの悪感情はやっぱうめぇなぁ！』

　 「………」

　 俺は刀に手をのばす。そして鞘から抜き、刀を悪魔に向ける。

　 『なんだてめぇ？俺とやろってかぁ？今の俺とぉ…？』

　 「くっ……！」

　 悪魔から湧いてくるマナの量が半端ない。歪んだ笑みが怖い。俺に向ける殺気が怖い。でも、俺だって修行をしたんだ。師匠が目覚めるまでの時間稼ぎになるかもしれない。

　 『キヒヒッ！じゃあ、やってみろよ。まぁ、無理だと思うがな…？』

　 悪魔は紗由理がいるところまで下がり、指をくいくいと曲げ、挑発のポーズをとる。

　 「どりゃぁぁああ！」

　 俺は悪魔に向かって猪のごとく突進する。しかし、

　 「がはぁっ！！」

　 また同じ衝撃が腹部に走る。

　 くそっ！どうすりゃいいんだよ！これじゃあ、小4の時と同じじゃねぇか！

　 『まさに滑稽だなぁ！ゲハハッ！』

　 俺はすぐに立ち上がり、また突進する。俺も馬鹿じゃない。さっき殴られたとこのギリギリで刀を振るう。

　 「どりゃああ！」

　 ガリガリッ！と火花を散らしながら、音が響き渡る。

　 くそっ！これじゃあ駄目だ！

　 『それ』

　 「ガッ！」

　 今度は顔面に衝撃が走る。俺は地面を擦りながら後方に吹っ飛ぶ。

　 『わりぃな…俺のバリア、変形できるんだぁ…！これじゃあ、あの時と同じだな！ゲハハハハッ！』

　 「く、くそぉぉおお！」

　 俺はよろよろと立ち上がり、鼻血をたらたらと出しながら、左手からマナを放つ。しかし、

　 『お前、本当学習能力あんのかよぉ…？』

　 悪魔はそれを当然のように食べてしまった。

　 『所詮、お前は誰も守れやしないってことなんだよぉ？』

　 「……！」

　 『俺がちょっかいを出してる時もそうだ。自分のことしか考えてねぇ。紗由理を助けるだぁ？どうせ紗由理になんかあったら自分に責任がいくからとか考えてたんだろぉ？なぁ？』

　 違う！そんなじゃない！俺は友達として親友として助けなきゃと思ってた。

　 『おい、誰よりも俺が一番近くにいたんだぜぇ？俺がお前の気持ちがわからないわけないだろぉ？もうやめねぇか？善人ぶるんじゃねぇ、偽善者が！』

　 「俺は偽善者なんか…」

　 『偽善者だ。紗由理が危険な目にあわないようにするために自分と遠ざけたぁ？違ぇだろ？……お前は自分がまたあの時のように痛い目にあいたくないと思ったから遠ざけたんだろぉ？紗由理に憑いててわかったんだがよぉ。現に紗由理の約束破って傷つけたじゃねぇか』

　 「……！」

　 『その時の悪感情は最高に美味かったがな！要するにお前は自分が可愛いんだよ。悲劇の主人公ぶってんじゃねぇぞ』

　 「……」

　 悪魔は俺に指をさしながらそう宣言する。

　 何も言い返せさなかった。もしかしたら、俺の心の端でそう思っていたんじゃないかって微かにも感じてしまったから。

　 「……そ、そんなこと……ないよ…！」

　 「……紗由理！」

　 「浩介は……そんな人なんかじゃない…！だったらあの時、あんなにボロボロになってまで助けようなんて思わない！あそこまで……独りでいようなんて思わない！」

　 紗由理は俺に訴えかけるようにそう叫んだ。

　 俺は本当に紗由理を助けようと思っていたのだろうか。俺は自分が可愛いだけなんじゃないだろうか。そう思わざるを得なかった。

　 『あ……そうだぁ！キヒヒヒヒッ！！』

　 そう気色悪い笑みを浮かべると、縛られてる紗由理に近づき、紗由理の顔面近くでマナを溜める。

　 「ひっ！」

　 『今こいつを殺して、お前の最上級の悪感情をいただくとしようかなぁ！』

　 「紗由理ぃ！」

　 紗由理が危ない！けど、足が…動かない！俺は強く足を叩く。

　 ……くそっ！なんで動かないんだ！

　 「だ、大丈夫。私は知ってるよ？浩介。浩介は強いって」

　 「紗由理……俺はそんなんじゃないんだ！俺は……自分のためにしか動けない…！」

　 くそっ！動け！動け！

　 『さて、そろそろいきますよぉ！！』

　 「ねぇ、浩介、小さい頃言ったと思うんだけど、もう一度言うね」

　 紗由理はそう言うと瞑っていた目を開け、俺を真っ直ぐに見て懐かしい言葉を放った。

　 「自分のことで迷ったら、私を信じて！」

　 その時、俺の頭の中でカチッ！と音が小さく響いた。あの時と同じように。

　 足が動く！けど、届かない！

　 『いただきまぁ……』

　 「アマ、頼んだ！…こんちくしょおぉぉぉおお！！」

　 早口でそう刀に伝え、刀を思いっきし振るう。

　 すると、とてつもない乱風が悪魔目掛けて飛んでいく。

　 『ぐっ！なんだ！』

　 悪魔が放とうとしたマナが消え去る。

　 良かった、間に合ったようだ！

　 「はぁ……はぁ……はぁ…！」

　 『な、なんだ……それは…？！』

　 悪魔は俺の額らへんに指をさしながら驚いていた。

　 どうやら俺の額に角が生えたみたいだ。

　 俺はそんな悪魔の声を無視し、刀を悪魔に向け

　 「てめぇ……紗由理や師匠に手ぇ出したこと、後悔させてやる…！」

　 と宣戦布告をした。

　 『キヒッ！角が生えたぐらいで良い気になってんじゃねぇぇえぞぉ！！』

　 激戦の第2ラウンドの幕が上がった。