その2

 さて、文芸部というものが、どの高校にも必ずあるかというとそうではない。例えば文化部の王道の1つ、軽音楽部がこの気良にないことからも推測できよう。

 因みに、わたしは高校の願書提出の締切前日にようやく気良に決めた。候補はもう一つあった。

 ”久羅くら高校”。選択の基準は偏差値ではない。


「お前、ケラクラか」


と語感もあって常にセットの固有名詞として扱われる2校は、近隣で”五十歩百歩”の代名詞に使われるくらいで、学力はどっこいどっこいだ。ついでに、”平凡”、の意味でも使われる。

 では、気良高校の制服がかわいいから?

 いいえ。服を替えたところで見栄えがよくなるような顔ではないって自覚あります。

 では、何が気良高校受験の決断を促したのか。

 それは、気良には文芸部があり久羅にはなかったってこと。

 いや、正確に言おう。

 久羅には軽音楽部があるが文芸部はなかった。逆に、気良には軽音楽部は無いが文芸部があった。

 

 ややこしいね。


 そもそもわたしが本を読むようになったきっかけは大好きなとあるロックバンドの存在にある。

 仮に、”EK”、というそのバンドの曲の中に、「散らかすように本を読んだ」という感じの歌があった。そして、EKのヴォーカルは凄まじい読書家だったのだ。


「そっか、読書だよね!」


と、中2だったわたしは文字通り病にかかった。ただ、さすがに、「ナガイカフウって誰?」という状態だったので、種類構わずつらつらと読み重ねた。

 その結果、”急性文学少女”、となったのだ。


 けれども、本当の野望は別にあった。


「女子だけでEKのカバーバンドやろう!」


と、わたしと趣味を同じくする3人の女子に夢を語った。

 最初の内は「いいね!」とみんな乗り気だったが、冷静になってはたと気付いたのだ。


「誰がヴォーカルやるの?」


 EKのヴォーカルを誰かにたとえようとしても、現代の中では見当たらない。過去も含めて無理矢理に挙げるとすれば、ヴェートーベンしか思い浮かばない。

 つまり、よく言えば、”天才”で”純粋”。悪く言えば、”変人”で”偏屈”。

 わたしたちはEKの曲だけでなく、その生き様に憧れていた。

 ステージ上で髪をかきむしり、ある曲の中では客に向かって、「死ね!」とまで怒鳴りつけるヴォーカル。

 病にかかったわたしたちは当然そのスタイルまでカバーするつもりだったが、一応は女子、である。


「ごめん、無理・・・」


全員諦め、軽音楽部の無い高校にめいめい願書を出した。



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