伝言/sideケイ


「ギル、大丈夫かぁ?」


 遅れてやってきたニカさんが心配そうに声をかけながらこちらに近付いてきた。そうだ、目眩しをしてくれたんだったよね。どんな風にしたのか少し気になるけど、見たと同時に目がやられるだろうから私に知る術はない……


「問題ない。そっちは?」

「数秒の時間稼ぎくらいは出来たがなぁ……ちとまずい状況になってきたぞぉ」


 まずい状況? 首を傾げているとニカさんが説明してくれた。


「相変わらず魔王と族長の戦いは続いてるんだがなぁ、魔王があの時みたいになっちまってる」

「……戦争の時、か?」

「どういう事かしら?」


 戦争の時。魔王としての力が大きすぎて制御しきれず、力に飲み込まれて破壊を繰り返していたあの時って事だよね……? え、それってもしかしてもしかしなくても。


「イェンナリエアルのお墓を破壊されて、怒りに染まってしまったのね。まさに200年前の戦争が起こりそう、という事かしら」


 あまり詳しくはわからないけれど、と言いながらもマーラさんは眉根を寄せた。そんな……どうしたらいいの!?


「想定外の事が起きたなぁ。こいつぁ仲間たちに知らせにゃならん」

「え、えと! シュリエしゃんとカーターしゃんにならすぐに伝言届けられましゅ!」


 フウちゃんにネフリーちゃんへ、ホムラくんにジグルくんへ伝言を頼めば確かすぐに伝わる、はず。同じ系統の精霊だからね!


『主様っ、お仕事っ? アタシすぐ行くよっ』

『ご主人、オレっちは他の奴らより少し時間かかるかもしれないんだぞ。でもやるぞ!』


 自然に存在する風や、所々で燃えている火を伝って言葉を届けるそうだから、確かに火は風より遅そう。それでも精霊たちが直接移動するより遥かに早いから十分だよ! ……ショーちゃんの移動速度は例外ね。ショーちゃんに頼んでもいいんだけど、ちょっとお仕事頼みすぎると負担になっちゃうし、何かあった時に側にいて欲しいので今回はお休みである!


「頼めるか?」

「あいっ! 魔王しゃんが怒りで我を失って暴れてましゅ、でいいでしゅか? あんまり長いと精霊が覚えられないんでしゅ」

「それでいい。……頼んだぞ」


 くしゃりとギルさんに頭を撫でられた私はさらにやる気に満ち溢れた。単純である!


「任しぇてくだしゃい!」


 拳で胸を1つ叩いて早速フウちゃんとホムラくんに伝言を託したのだった。




「メグ。謝らなければならない事がある」


 伝言を頼んで、返事を待つ間にギルさんがこう切り出した。謝りたい事? ギルさんが? 何だろう……


「本当は、お前の母親がもう生きていない事、その可能性が高いことを知っていたんだ」

「え……?」


 私をダンジョンで発見した時。ギルさんは私の耳飾りから守護の魔術が発動していた事に気付いていたそうだ。そして、その魔術が私を見付けた時には綺麗に消えていた、と。魔力が耳飾りには残されていなかったんだって。その意味するところは……術者の絶命。きっと私を守ろうとした誰か、恐らく母親がその時亡くなったのではないか、って予想してたのだそう。

 その事は頭領ドンであるお父さんも聞いていたし、知っていたけど、ハイエルフの郷という特殊な場所にいるから魔術が途絶えた可能性があったのと、術を施したのが別の人物だった可能性があったから、結局黙っている事にしたのだとギルさんは話してくれた。たぶん、お父さんも魔王さんにそれを話せてはいなかったんじゃないか、とも。


「不安を煽るような事は避けたかったんだ。事実がハッキリするまで、言えなかった。……悪かった」


 当然、私はその事について怒ったり悲しんだりしないよ! だって、私を思って黙っててくれたんだもん。だから私はブンブンと頭を横に振った。


「今、教えてくれたでしゅ。だから、いいんでしゅ」


 そう。結果として教えてくれたんだもん。文句を言う事など何もないのだ。私が笑顔を向けていると、優しく頭を撫でてくれた。えへへ。


『主様っ! お返事きたよっ』


 そこへ、フウちゃんからの声があがる。わ、早い! 流石は風だね。私はギルさん、ニカさん、それからマーラさんにも声をかけて、フウちゃんからの伝言を聞いた。



※ ※ ※ ※ ※




 2日間ほど、ボクらネーモ調査組は順調に情報を集めていったんだ。いやー、なかなかスリル満点だったけどね、やり甲斐のある仕事だったよ? このスリルがまた興奮しちゃうしね。癖になりそう。

 まぁ、ネーモのボスであるらしいハイエルフが不在だったからわけなかったよ。余裕で重要書類がある部屋とかボスの部屋とか侵入出来ちゃったしさ。まぁ、2回くらい見つかって10人ちょっと眠ってもらうことになっちゃったけど。流石は特級ギルドってとこかな。あ、もちろん記憶の改竄は抜かりないよ? オルトゥスが不利になる情報は消しておかなきゃね。……ボクらと同じように記憶を探られたらバレちゃうけどさ。ま、些細な事だよ。ボクが捕まらなきゃいいのさ。


「何というか、やってくれるだろうとは思っちゃいたけど。まぁよくもここまで集められたな……」


 あは、少し呆れられちゃったよ。でもいいでしょ? 仕事に手抜きはしないよ、ボクは。


「流石はケイですね。こちらもかなり情報が集まりましたよ。ネーモは貧困地域のいくつかの村に金銭的援助を行なってますね」


 ふぅん、ギブアンドテイクって事かな。上手いことやってるんだねぇ、ネーモは。ただの悪どいだけのギルドじゃないって事か。ま、特級だし当たり前だけど、頭領ドンの顔から言っても釈然としないというのが本音だね。


「ただ、泣く泣く能力の高い人物を渡しているみたいではありますね。能力の高い者を引き抜いていくからこそ、村の貧困が変わらないというのに。目先の収入に目が眩んでその事に気付かないようですね」


 まさに悪循環。ネーモだってその点には気付いてるはず。なのにそこは指摘せずにただ人材を確保して援助だけをする。……悪い事をしているわけじゃないし、それに見合った、むしろそれ以上の金銭的援助をしているから英雄扱いですらあるという仕組みかぁ。根本的解決にならない事に気付く者は、その引き抜かれた優秀な人材だけ。あーモヤモヤするね、全く。


「めんどくせぇな。もう、潰しちまうか」

「短絡的かつ過激ですが、一理ない事もない意見ですね」


 結局、何かをキッカケにしてネーモという組織を一度ぶっ壊しちゃうのが楽っちゃ楽だよねぇ。不幸な事故とか、自業自得の喧嘩とか、ね?


「さて、そろそろネーモもうちのギルドに……!?」

「どうしたシュリエ」


 シュリエレツィーノが途中で言葉を止めた。何だろう。精霊から連絡でも来たかな? ボクの予想は的中した。


「……頭領ドン。メグからです」

「メグちゃんから……?」


 ギルド待機組かと思ったらまさかのメグちゃんからだった。ハイエルフの郷で何かが起きた? 心配だな……


「聞かせてくれ」

「はい。『ハイエルフの郷にて、魔王が怒りで我を失っている』と」

「あいつ……!!」


 これは、ちょぉっとまずい事になってる? ギルがいるから大丈夫だろうけど、みんなメグちゃんの安否が気になるところだと思う。


「……言っても仕方ねぇ。こっちをサッサと片付けねぇ事には駆けつける事も出来ないからな」

「……つまり?」


 そういう事、だよね? ふふ、武者震いしちゃうよ。


「乗り込むぞ」

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