3つのチーム


「まずは大きく分けて3つのチームに分ける。ギルド待機組、ネーモの調査組、そしてハイエルフの郷攻略組だ」


 待機組は主にギルドの守護で、調査組はネーモの動きを警戒、調査をするんだって。攻略組は言わずもがな、だ。


「サウラ、ルド、ジュマ。お前らは待機組だ」

「えーっ!? オレも戦いてぇよ頭領ドン!」


 名前を呼ばれたジュマくんが不満の声をあげた。確かに、特攻隊長って感じのジュマくんが守りだなんて不思議。


「お前なぁ、表向きは戦争じゃなくて話し合いなんだぜ? お前みたいなすぐ戦おうとする戦闘狂連れて行けるかっ! 調査なんか以ての外だし、残るは待機組だろうが」

「そ、そうだけどよぉ……」


 確かにその通りだ。ジュマくんを連れて行ったら今から喧嘩売りますって言ってるようなものだしね。事実そうではあるんだけど、侵略ではなくて目的はイェンナさんを連れ戻す事だもん。無闇に戦う必要はないのだ。……ハイエルフの郷からハイエルフを連れ出すのだから、どちらが悪者かわからないけどね!


「ま、戦闘になったら頼りにしてっから。ギルドをしっかり守れよ、ジュマ?」

「お、おう! 任せとけ!」


 なんて扱いやすい男なんだ、ジュマくん……!


「次。調査組はケイ、シュリエ、あと俺だ」

頭領ドンも、ですか?」


 シュリエさんの疑問は誰もが思ったことだと思う。てっきり攻略組でハイエルフの郷に行くんだと思ってたからね。


「ああ。ついでにそろそろあのギルドの裏を暴いてやらねぇと。随分前に国からも頼まれてたんだよなぁ。いい加減本腰入れてやらなきゃとは思ってたんだ。ちょうどいい機会だからな」


 国から頼まれてたのかいっ!? 口振りから察するに、暫く放置してたっぽいけど……それって大丈夫なの? きっとダメだよね、普通は。どうせ特級ギルドの頭領ドンという立場を盾に先延ばしにしてたんだ。そうに違いない。


「で、最後に攻略組が、アーシュとクロン、それにニカだ。うちからはニカを出してやるよ。頑丈で誠実でいい奴だぞ。ちょっとばかり豪快だけどな」

「照れるぜ、頭領ドンよぉ!」


 なるほど、ハイエルフの方は魔王さんが行くのか。魔王さんは自分の奥さんを迎えに行くわけだし、クロンさんは魔王さんについて行くだろうしね。問題はないはず。


「仕方がないとはいえ、ああっ……! また仕事が滞るのですね……っ!」


 クロンさんが頭を抱える以外は。


「最後にギル。お前は別件だ」


 そういえばギルさんに指示がなかったね。なんだろう? 別件?


「メグを守れ。死ぬ気で、な。正直他のメンバーはそれぞれの任務で手一杯になるはずだ。だからお前だけはメグの護衛にだけ集中しろ」

「……引き受ける」


 私の、護衛だったか……確かに、ギルさんがいるなら私も安心だ。護衛はいらないだなんてそんな事は言えない。私は誰よりも弱いし、ちんちくりんだし。それでいて狙われているんだもん。そして、みんながそれを阻止したいと思ってくれてるんだから、ちゃんと守られたいって思う。


「ギルしゃん、よろちくお願いしましゅ」


 だから私が言うべきは、これだよね。ギルさんも少しだけ微笑んで任せろ、と頭を撫でてくれた。えへ。




「だけどなぁ。肝心のハイエルフの郷への行き方がな……」


 お父さんが腕を組んで唸り始めた。そりゃそうだよ。20年ほどかけて調べた結果、入り口さえ見つけるのは不可能だって結論が出たんだもん。今更パッと出てくるわけがない。


 でも、ここをどうにかしないと3つに分かれた意味がないよね。


「シェルメルホルンが郷から出てくるのを待つ、か」

「それしかねぇよなぁ。郷から出てくるだろうハイエルフはアイツしかいねぇし。まぁ、それが分かっただけでもジュマが吹っ飛ばされた価値あったな」

「でも、いつになるかわからない上に、シェルメルホルンだってそうとバレるような行動はしないわよ、きっと。とっ捕まえた所で郷に素直に入れてくれないし、まずとっ捕まえる事が難しすぎるわ」


 ルド医師とお父さん、サウラさんが意見を交わし合っている。このままではいつまでたってもイェンナさんに会えない。


 皆が黙りこくって考え始めてしまった。


 ……もう、みんな優しいね。ううん、わかってて避けてる。私を守るために。

 だってわかるでしょ? その問題を解決する1番簡単な方法があるじゃない。でもみんなは優しいから言い出せないんだ。どうしても切り出せない。私が、危険だから。

 だからここは、私が言うべきなんだ。


「私を、連れてってくだしゃい」


 静まり返る会議室に、私の声は確かに響いた。部屋中に、みんなの心に。それぞれが悲しそうな顔で、そして息を呑む。ふふ、やっぱりわかってたんだよね?


「ハイエルフである私がいれば、入り口が見つかるはずでしゅ。簡単でしゅよ! 血筋の問題ならそれで簡単解決でしゅよね?」


 ジッとお父さんの目を見つめながらそう問いかけた。お父さんの瞳は揺れている。よぉし、もう一声!


「どこにいたって狙われるんでしゅ。それに、私のことはギルしゃんが死ぬ気で守ってくれるでしゅ!」


 ね? と今度はギルさんを見れば、困った奴だとでも言いたげに眉尻を下げたギルさんが頭を乱暴に撫でてくる。当たり前だ、と。ふふ、私の言ったことはサウラさんの受け売りだけどね!


「生まれ育った場所をちゃんと見たいでしゅ。母しゃまに、会いたいでしゅ」


 最後の一押し、とばかり私は言葉を続けた。そしてにへらっと笑う。怖くないよ、大丈夫だよ、って伝えたくて。


「……お前はちっこいのに、立派なギルドメンバーだなぁ。だが、俺はお前に似た子を知っているだけに心配だ。みんなの為に、自分を犠牲にする子なんだ」


 お父さんが私の前にしゃがみ込んでそう言った。ああ……それは、環の事だね? 同じ事を直接言われた事があるもん。それで、その時の私はこう答えたんだ。


「……犠牲じゃないでしゅ。私は私に出来る事をしゅるだけ」


————だからお父さんは、私の心配して労ってくれればいいのっ!————


 お父さんの目が、微かに見開いた。


「君は……いや、何でもない」


 そして何かを言いかけて、やめた。うん、それでいいよ。この一件が落ち着いたら、ちゃんと言うから。それまで待ってて、お父さん。


「ギル。お前はそれでもメグを守れるか」

「愚問だと思わないのか? 頭領ドン、俺を誰だと思ってる」


 うひょーっ! 痺れるやり取りだ! さっすがパパ! カッコいい!


「決まり、だな。メグはギルと共に攻略組だ! それぞれヘマすんなよ!」


 お父さんの締めの一声に、みんなが各々の返事を返す。本当はすごく怖い。足とかきっと震えちゃう。でも、みんなが私や母親のために動いてくれるんだもん。ギルさんや仲間を信じて、自分の事も信じて。


 頑張ろう。ただ、そう思った。

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