土地レベル


「気にしなくていい。部屋を変わった奴も全く気にしてないから」


 ギルさんのフォローに力なく頷く。まぁ、私が気にしたって仕方ない事ではあるけど。もし、追い出された人に会うことがあったら一言お詫びくらいは言いたいと思う。サウラさん……思い立ったらすぐな上に容赦ないタイプよね。尿路結石の件をしっかり覚えている私としては全く何にも、これっぽっちも文句なんかありませんけどね!!


「では、次の工房に行くとしよう。カーター、邪魔をした」

「カーターしゃん、色々とちゅくってくれてありがとーごじゃいましゅ! ジグルくんも、ありがとーでしゅ! またお話ししてくだしゃいね!」

「わっ……まっ……」

『おうおーう! いつでも来るんだぁぜっ!』


 お仕事の邪魔になるだろうし、ここで私たちは鍛冶工房を立ち去ることに。次に会った時はもう少しカーターさん語を自力で理解できるようになりたいな!




 こうして鍛治工房を出たところでほっと胸をなでおろす。だってすごい音だったんだもん! 契約したホムラくんは用があったら呼んでくれと言ってどこかへ消えていった。というかショーちゃんもフウちゃんも、普段はどこかに行ってるみたいで側にはいないんだけどね。名前を呼べばすぐ側に現れてくれる不思議。それが精霊らしいけど、はやく慣れたいなぁ。

 ちなみに工房巡りが楽しいらしく、ショーちゃんは今も一緒にいて、ルンルンしてます。か、可愛いぞっ!


「ここが装飾工房だ。鍛冶に比べればうるさくないが、大きな音を出す事もある。気をつけろ」

「あい。あの、ここのトップの人は……?」

「……すぐに来るだろう」


 すぐに? 約束でもしてたのかなぁ。でもここに来るっていうのはさっき決めた事だし。不思議に思っていると、工房の扉がバァンと開いて、中から煌びやかな長身の男の人がポーズを決めて出てきた。


「ようこそ、我が装飾工房へ。レディ、私がマイユです。以後お見知りおきを」


 後ろで編み込んで尚腰元まである長い髪は輝くプラチナブランド。肌の色は白く、全体的に細身だ。でもなよなよして見えないのは隠れマッチョというやつかもしれない。切れ長の目はアイスブルーで、日本風な美人さんだ。色合いは日本風とは言えないけども。

 その身に纏う服も、日本風と思った理由の1つでもあるんだ。だって、簡単にいうと着物なんだもん! けど、裾や袖が広がっていたり、レースを使っていたり、ベルトは布だったりとアレンジされた着物といった感じでとてもお洒落。和食といい、着物といい、もしかしたらこの世界にも日本に似た文化を持つ国があるのかもしれないなぁ。その説が有力になってきたぞ?


 考え事をしながらじっと見つめてしまったからか、マイユさんが屈んで私に話しかけてきた。あ、挨拶、挨拶!


「どうしたのかな? ……レディ、私に見惚れた?」


 私が口を開く前にそんな事を言われてしまったので、言葉が止まる。も、もしかしてこの人……!


「ふふん、それは仕方ない事だね、レディ。私はそう……美しいからね!! 存分に見惚れてくれたまえ!!」


 ビンゴー!! 装飾担当のマイユさんはナルシストでした!!


「あっ、えと、メグでしゅ。はじめまちて。あの、色々とちゅくってくれて、ありがとーごじゃいましゅー!」


 しかし、気を取り直してきちんと挨拶! 色々作ってくれたのは感謝すべき事だからね。お礼もしっかりいいますよ! ナルシストがなんだというのだ。実際マイユさんは綺麗だし。


「これはこれはご丁寧にありがとう、レディ・メグ。礼には及ばないよ。貴女のような美しいレディが快適に過ごせるように環境を整えるのは当然の事だよ」


 ど、どことなくケイさんに似てるなぁ。でもケイさんが無自覚なのに対してこの人は————


「うーん、紳士な私、実に美しいね!!」


 計算された紳士なんだよなぁ。それさえ言わなきゃ実際完璧な紳士なのに。非常に惜しい。


「あー……マイユのこれ・・は不治の病だと思ってくれ」


 ギルさんが大変言い難そうに耳元でそう告げた。おーけー、私は察しの良い幼女……


「あ、そうだ。レディ・メグに渡すものがあるんだ」


 自己陶酔していたマイユさんが我に返って、思い出した様にそう言った。マイユさんの右手薬指にはめられていた指輪の石がほんのり光ったかと思うと、マイユさんの手には可愛らしいデザインの……たぶんブレスレットが。


「これだよ。耳飾りがシルバーで小花をモチーフにしている、と聞いたからね。お揃いになる様にデザインしたんだよ。実物を見ていなかったから心配だったけど、我ながら見事な出来だね。初めからこの2つのアクセサリーはセットだったみたいだ」

「こ、これ、私にでしゅか!?」


 ブレスレットの乗った手を差し出され、そんな説明をされたけど……いいのかな? 確かに耳飾りと似たデザインだけど。……耳飾りも鏡ごしに数回見ただけだから本当にそっくりなのかまでわかんないけどね!


「もちろんさ。レディ、君のために君を想って作ったんだ。性能は保証するよ?」


 いや、でも正直凄いと思うよ。見てもいないのに説明を聞いて、後は想像だけでここまで寄せてくるなんて。そしてトップ自ら手がけてくれるなんて、贅沢! ん? というか、性能?


「ふむ。亜空間収納魔術か。時間停止、容量も部屋1つ分と悪くない。盗難防止は当然として……簡易結界?」

「おおっ、流石はギルさんだね。そうなんだ、簡易結界を付けたから容量が少なくなってしまってね。でもまだ幼いレディだし、容量はそのくらいあれば十分かと思ってね! 安全には変えられないだろう?」

「ああ、良い判断だ。流石だな」

「いやぁ、それほどでも……あるね!!」


 再び自己陶酔モードに入ったマイユさんを無視したギルさんが、ブレスレットの性能を教えてくれた。簡単に言うと、これはシュリエさんやこのマイユさんが持ってる魔道具と同じって事だね。色んな物を収納できるとても便利な道具。しかも入れた物の時間は経過しないから、食べ物を収納しても悪くならないっていう優れもの。

 加えて所持者の魔力を記憶させる事で、持ち主以外には使えない盗難防止機能。更に、普通は付いていないという簡易結界が付与されてるんだって。なんでも、ちょっとした爆発程度なら、持ち主の危機を察知して結界を張ってくれるんだとか。いや、ちょっとした爆発って何。すごいけど!


 そんな事より大事なのは!


「お、お、おいくらでしゅか……?」


 こーんな多彩な高機能を付与された魔道具、しかも安価な袋タイプではなくブレスレットだなんて……土地レベルでしょ!? 山いくつ買える!?

 涙目になってぷるぷる震えながらも、勇気を出して尋ねたのでした。……聞くのが怖い!!

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