第13話お前たちだけいればいい

離婚した直後、自分に言い聞かせるためなんだかなんなんだか、母はよく「お前たちだけいればいい」と言っていた。何とも思わなかった。ご飯があって眠れて、殴られなくて怒鳴り声が聞こえなければそれでいい。

中2のある日、メモ用紙を探していた。ノートがあったのでそれを使おうと思ったら母の日記だった。そこにも子供たちがいればいいと離婚当初は書かれていた。母が突然「鳥取とか西のほうの遠くに行く気はない?」と聞いてきたときがあった。もちろん嫌だと答えた。「お母さん、旅館の仲居さんとかやってひっそり暮らしたいなぁ」と話していたが無視した。その日前後の日記に「この子を連れて西の方で暮らしていこう」と書いてあった。恐らく妊娠したのだろう。が、その話をすることはなくなり、母はお腹が大きくなることもなかった。

そこからまた数ヶ月位経った頃、またノートを破ろうとしたら新たな日記が追加されていたのに気が付いた。「お腹のこの子さえいればいい。この子だけでいい」

前後の内容は忘れたが、自然と声が出てしまうくらいに私は泣いた。狭い家なので妹たちにバレないように声を懸命に殺すのだけど漏れてしまう。止まらなかった。こんな風に泣いたのは初めてだった。また置いて行かれると思った。捨てられたと思った。結局やっぱり私なんかはいらない存在だと確認できた。

運が良かったのは私は次の日から修学旅行で家にいなかった。母と顔を合わせなくて良かった。友だちと騒いで遊んで母のことなど考えずに済んだ。3日経ち家に帰る途中、珍しく母が迎えに来てくれた。気まずかったが普通に接した。「お母さん赤ちゃん出来たんだ」突然母から切り出した。そんなのは知っていたけどなんて言えばいいの?咄嗟に「なんだー、早く言ってくれたら修学旅行で安産のお守り買ってきたのにー」我ながらよく交わしたと思う。そんなこと、これっぽっちも思っていなかったけど、他に言葉が見つからなかった。

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