第41話 再生の卵(3)
「ブラン?! どうして君がこんなところにいるんだ!」
「話は後。とにかく、問題だけ述べようか。今から儂がドラゴンの姿に戻るためには、この狭苦しい人の皮を剥ぐ必要がある。その為には、お前が儂を殺さなければならない。……言っている意味が分かるか?」
「意味が分からないよ。……つまり、死なないんだよな? ドラゴンは簡単に死ぬはずが無い、って言ってたよな?」
「死にはしないよ。死は連続性を断つだけに過ぎない。そして、生は連続性の繰り返しに過ぎない。繰り返しが続けられるならば、永遠に人間もドラゴンも、どのような生き物でも生き続けることが出来る。それが、この世界の仕組みだ」
「何を言っているんだ! さっきから……さっきから、ブランの言っている話が分からないぞ。俺にも、人間にも分かることを言ってくれ」
「ああ、もう、面倒くさい! 時間が無いんだ! こちらには自死プロテクトがかかっているから勝手に死ぬことは許されない! そして、一度人間の身体を殺すことで精神をドラゴンである儂と入れ替える! そういうことで、一度お前が儂を殺さねば話は始まらない。分かったか!」
「……、」
「ああ、もう、面倒だ!」
今度は、ラインハルトに無理矢理ナイフを握らせて、そのまま刃を立てる。
「お、おい、何を……!」
そして、その刃をアダムの身体に突き刺した。
「アダムっ……!」
「ありがとうよ……ラインハルト……。こうして俺を、儂にすることが出来る……」
そして、ゆっくりと目を瞑るアダム。
倒れゆく彼の身体。そしてその背中がぱっくりと開き、そこからずるずると何かが出てきた。
それがドラゴンの――ブランの姿であるということに気づくまで、そう時間はかからなかった。
「……ブラン。君は……!」
「今、それを嘆いている場合ではあるまい。再生の卵、と言ったな。あれは嘘だ。あれは破壊の卵。孵化することで、世界を破壊へと導く混沌の卵、混沌の化身! その名前は……ノワール!」
ぴしっ。
ぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴし!
ひびが入り、さらにそのひびは卵の殻を走って行く。
そうして、卵は大きく割れると、中に入っている黒い何かがどろりと出てきた。
「そして、彼奴を倒すのは今しか無い! 行くぞ、ラインハルト!」
未だ、ノワールはその姿を形成させていない。
確かに狙うなら今が一番だ。
しかし、それよりも早く――ノワールを守るように、シンギュラリティが囲い始める。
都合六機のシンギュラリティが、ノワールがドラゴンとして生きていけるまでの時間を見守っている。
「くそっ! このドラゴンもどきが!」
炎を吐き、爪で攻勢する。
しかし、シンギュラリティも負けていない。レーザーを放ち、ブランの身体を抑え付けて逃げないようにしていく。
さすがに一対六ともなれば、ドラゴンの力がいかに偉大だろうと、敵うことは無かった。
「ぐっ……!」
そして、ブランは、ついに五体のシンギュラリティに抑え付けられて、一体のシンギュラリティがにらみ付けていた。
笑みを、浮かべていた。
「ブラン……! 逃げろ……!」
ラインハルトの言葉も空しく――ブランの身体は、シンギュラリティによって引きちぎられた。
「ぐあああああああああっ!」
噛み千切られ、引きちぎられ、臓物を引っ張られ、どこからか取り出した槍を突き刺していく。
そのたびにブランは咆哮を続け、抵抗を繰り返すも、徐々にそれも弱々しいものになっていった。
シンギュラリティの身体は徐々にその身体を肥大化させ、やがてプロテクターが外れた。
まるでシンギュラリティの身体は何らかの拘束具であったかのように、そこからドラゴンの姿が目の当たりになった。
「シンギュラリティは……未だドラゴンを使っていたというのか……!」
「ここまで人間に従って、何を望む! 名も無きドラゴンよ!」
最後の力を振り絞って、ブランは告げる。
しかし、ドラゴンたちは笑みを浮かべているだけに過ぎない。
そして、臓器が引きちぎられ、腹部が空っぽになってもなお、ブランは未だ動いていた。
最後の力を振り絞っていたのかもしれないけれど、それは、ブランにとっての最後の足掻きだった。
そして、ゆっくりと、ブランの身体は地面に沈んでいくのだった。
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