Ch5.さつい
憎くて、楽しくて、気持ちよくて、許せなくて。
わたしは誰か(あなた)を殺すと決意した。
いろんな理由があったように思う。けれど、どれもこれも適当に言語化してみたものばかりで、真実かどうかはよく分からない。
何が発端だったのか。そんなことは感情の濁流に押し流されて、今はもう跡形もなくなってしまった。探ったところで見当たらず、時の流れに逆らえなかった記憶も、すでにあやふやで覚束ない。
無意味な言葉と不明な感情を織り交ぜて、どれがわたしの殺意なのかと考えてみた。
殺そうという意思。得たいものがあるのか、それとも?
犯罪が悪であるのは秩序を乱すからで、ルールを破るからで、法を犯すからだ。無秩序の不安を煽り、妄想の悪意を伝播させるからだ。そもそも犯罪というもの自体が、法に背いた行いのことであるというのは誰から見ても明らかで、明文化されていることからも窺い知れる。
囚われと糾弾が待ち受けていることを知りながら、それでも人を殺すほどの殺意。わたしはなぜ殺意を抱くのか。何が欲しい? 何を得たい? 何が目的で、その先に何がある?
夜道を歩きながら考える。何が、何が? わたしは、どうして?
「なるほど」
最初の方で、どうやらわたしは間違えたらしい。
満月を見上げるほっそりとした背中を見ながら、わたしは気づく。
殺意とは。
何かを失うためにあるのだ、と。
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