Ch4.りんり


「そんな、曖昧なもの、信ずるに足るわけが、ないでしょう」

 彼女は言った。

 なぜか言葉を変なところで区切った。わからない。

「私は人の良心は尊ぶけど、倫理観なんてクソ食らえだと、思っている」

 とても反社会的な思考だと私は思った。

 けーさつに突き出すべきではなかろうか。

「倫理とかいうのは、秩序あってこそのものだと思う。ルールとか法とかがなければ、倫理なんてそもそも意味ないじゃん」

 そんな気もする。

「だからようするにてめーの倫理は山に人工的に植え付けられた樹木みてーなもんなんだよ」

 もう少しわかりやすく言ってもらいたい。

「天然素材じゃないってこと」

 理解した。

「ところでさぁ」

 なんだろう。

「君に倫理はないわけ?」

 どうだろう。よくわからないけれど。

「誘拐なんてして、楽しい?」

 まぁ、楽しい。こうやって会話できるのはいいことだ。

「……あ、そう。変態なのね」

 そうかもしれない。

 まぁ、どちらかといえば、けーさつにご厄介になりそうなのは、わたしの方かな。

 なんでもいいけど。

 さて。

 おしゃべりはこの辺にして。

「わたしに倫理は、ないんだろうね」

 ぼぐっ、と鈍い音がした。

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