第9話


 欲しかったものは、いつになったら手に入るんだろう。

 そんなことばかり、考えていた気がする。

 ないものねだりの毎日だった。寄せた期待を取り消して、諦観と憤激に身を任せて、この身を引き裂いて。押し寄せる痛みを抱き寄せて、心が麻痺するのを待ち続けていた。

 幾度となく死を重ねた。そしてその度にコンテニューして何事もなかったかのように振舞って、それが私にとっての平穏だからと言い聞かせて、そうやって生きてきた。

 私と”私”がいて、“私”はいつも私を見ていた。他人事のように、観察して分析して「ああまた死んだのか」とつまらない感想を抱いて、訪れる私に問いかけて、それでもやっぱり“やり直し”を提案する。

 それを無限に積み重ねて、その中で生まれた愛情も信頼もほんの少しの楽しさも、全部ひっくるめて廃棄処分だ。それが、私が決めたこと。彼女がよしとしたこと。それを実行する、私。

 ごめんなさい。

 私は言う。

 何がいけなくて、誰のせいで、どうすればよかったのか、私にはわからない。

 もう嫌だ、と言って私は死んで、生まれ変わってやり直す。それまでの感情の一切を殺して、切り替わる世界に追いつくように、乗り換えて、乗り越えて、それを繰り返してそんな下らないコンテニューを人生と呼んだ。私はきっと愚か者で、より良い方法なんてどうでもよくて、いつしか慣れ親しんだそのやり方を肯定してそれに拘泥していた。

 けれど、それももう終わり。

 そう、終わらせ、なければ。

 なければならない。

 全部を清算しよう。

 なにもかも。

 すべて。


 そうして私は自分を殺す。

 呼吸と言葉を封じ込めて。

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