1-3【最初の1人 6:~VSアントラム 後編~】



「グルルルルルル」


 魔獣化したアントラムがこちらを睨みながら唸る。

 やはり通常の連中と比べると遥かに大きくそして強そうだ。


 それでもこの前のと比べるとまだ小さいが、この前のと違ってその目に油断はない、俺達の体躯に惑わされず群れを一掃した俺達に対して脅威を感じているようだ。


 正直やりづらい。


 試しにとばかりにフロウを構えて砲撃魔法を発射しようとすると、即座に横方向に移動した。

 間違いなく俺達がこれで離れた所にいるやつを仕留めたことから学習している。

 こうなるともう砲撃は使えない。


 もともと森の木々で射線が遮られるので使えるタイミングが限られており、相手も狙いをつけられないようにランダムで動いていた。

 恐ろしいことにあの巨体でこの森の中を縦横無尽に動き回っている。


 どうやらこの森は完全に向こうのフィールドらしい。

 この前のように開けている土地ならば全力で距離を取って長距離砲撃で仕留められるのに、こう木が邪魔では上手く狙いも付けられない。


 こうなれば接近戦で倒す他ない。

 だが俺達の近接攻撃は薙刀状のフロウによる切りつけくらいしかなく、魔獣を一撃で仕留められるような強力な技は隙が大きかったり展開に時間がかかったりと接近戦では使いづらい。

 それに相手の方が速いので切合で倒そうにもなかなかつらいものがある。


 モニカが距離を維持しようと牽制のために砲撃魔法を連射する。

 だが相手が止まる様子はない。


 あっという間に距離が詰まり猛烈な殴りつけが飛んできた。

 後ろにジャンプしてそれを躱す。


 恐ろしいことに空を切ったアントラムの腕が木を直撃しなんと根本から吹き飛ばしてしまった。


 何というパワーか。

 あれを喰らう訳にはいかない。


 その後も連続で殴りつけてくるのを必死で躱し続ける。

 時折隙を見て砲撃魔法を叩き込もうとフロウを向けるもその瞬間横に高速で移動される。


 非常にやりにくい。


 距離を取れば詰められるし、ならばと接近を試みるも今度は後ろへ逃げられる。

 こいつは自分の殴りが届くギリギリの所でしか勝負する気はないようだ。


 確実にこちらの手の内を把握してそれに対して対策を取ってきている。

 この状況を打開しようにも避けるのが精一杯で攻撃できず、更に速度でも負けているので間合いも取れない。

 そして相手もそれを理解しているのか無理な攻撃はしてこないでいる。

 殴りつけてくる拳を切りつけようにもそれを察知した途端に殴る手を変える。


「こいつ、頭いい!」

 どうやら反応速度でも向こうは互角らしい。

 思考加速系のスキルを使っているのにも関わらずだ。


『こうなりゃヤケだ!』


 鎧用のフロウをまわし即座に魔力ロケットを展開する。

 そしてそこに全力で魔力を注ぎ込んだ。


 高熱の暴風がアントラムを包み込み、それと同時に俺達が凄まじい勢いで後ろへ吹っ飛んだ。

 手に持っている方のフロウが自動防御を展開して木々をなぎ払いながら突進していく。


 見れば流石にこれは熱かったようでアントラムがやけどした腕を地面の雪に当てて冷やしている。

 やっぱり間合いが遠くて腕が限界だったか。


 せめて音に驚いてくれればよかったのだが仕方ない、これでも距離は取れた。

 弾丸のように森を駆け抜け最後に大きな木にぶつかって止まった時に、既に次の攻撃の準備はできていた。


 防御に回していたフロウを使い即座に体を固定し体を覆っていた方で砲身を作る、名付けてロケットキャノン!目標は猛スピードで迫ってくるアントラムだ。

 ここから見ると迫ってくる迫力が凄まじい。


 だがわずかに俺達の準備の方が早かった。


 フロウ製の砲身から巨大な炎をともに魔力を固めて作った砲弾が打ち出される。

 

 それが高速で宙を掛け・・・・アントラムに当たらなかった。

 なんと発射する直前に横っ飛びに逃げられたのだ。

 慌ててその後を追ったのだが木々の影に隠れられる。

 

 それでも目標を駆逐するべく発射された砲弾が真っ直ぐにアントラムの方向へ向かってはいたのだが、幾つもの木をなぎ倒すうちに向きが変わってしまった。


 だったら数だとばかりに連射する。


 魔力ロケットを利用した砲撃魔法の利点として、魔力ロケットがエネルギーを持っている限り砲身内に魔力砲弾を作るだけで連射が可能になる。

 それこそ機関銃も霞むような勢いで連射できる。

 だがこの森の中では真っすぐ飛ばない。

 結局、高速で移動し続けるアントラムに当てることはできなかった。


 遂に相手の間合いに再び入ってしまった。


 慌てて拘束をといて攻撃を避ける。

 

『くそっ、折角のチャンスを・・・』

 

「あいつ・・のほうが・・・戦い慣れてる!」


 モニカが眼前に迫った腕を躱しながらそう告げる。

 実際、最大攻撃力ではこちらが圧倒的に優勢なので完全に向こうの戦闘技術に圧倒されている形だ。

 こっちは俺がいるのにも関わらずだ。


 何とかしなければ・・・だがこうなると俺に出来ることは少ない。

 筋力強化や思考加速などの補助は行えるが、それでも近接戦闘はモニカの”センス”に頼り切りになってしまう。

 

 ええい、俺、しっかりしろ!


 こうしてモニカを信じて我慢するのも俺の仕事だ。

 

 俺は次にチャンスが来たときのために大技の準備を始める。

 これがうまくいくかどうかは分からないが、準備しているのといないのとでは大違いだ。


『気をつけろ動きが単調になっている』


 だんだんと避けられる距離が短くなってきた。

 これはまずい。

 


 



ヒュッ、ドッ!


「ウガアアアアアアアアアア!!!!」


 突然、アントラムが悲鳴を上げた。

 目に矢のようなものが刺さっている。


 何かよくわからないがこれはチャンスだ。

 既に大技の準備に入っている。

 

 痛みに釣られたアントラムが矢の飛んできた方向へ一瞬気が散った。

 アントラムの視線の先に・・・・なんとリコがいた。


 ボウガンのようなものを構えてアントラムを睨んでいる。

 恐怖のためか大量の冷や汗が吹き出していた。

 

『ロケットキャノン!』

  

 時間がないので技名の指示だけだす。


 急いでフロウを砲身と固定具に振り分けなければならない。

 ”ガワ”の準備が整うと即座に送り込まれてくる大量の魔力をフロウの砲身の内部に向かわせる。

 これ地味なようで色々と考えなければならないものが多くて大変なんだよな。


 カチリッ


 頭の中で何かが嵌まる音がして思念が一部乗っ取られるような感覚になる。

 あ、これは


『”使用しているスキルパターンを確認 現在使用中のパターンを【ロケットキャノン】としてスキルを登録します”』

 

 どうやらこれもスキルとして登録されたようだ、よかった今後は展開が早くなる。


『撃て!!!!』

「くっ」


 モニカが襲ってきた反動に耐える。

 砲身から吹き出した炎がまるで太陽のように周囲を照らし、薄暗い森が一気に明るくなった。

 そして飛び出した真っ赤に輝く魔力砲弾が凄まじい勢いで飛翔し目標に向かって飛んでいく。


 今度は射線上に木はない。


 アントラムがこちらに気付いた時にはもう砲弾が命中する直前だった。


 凄まじいエネルギーでアントラムの上半身が膨らんだかと思うとそのまま花火のように弾けた。

 初めて見る光景では無いが何度見てもグロい。


 こりゃあ、食べる所残ってないな・・・

 おっと、感想がモニカみたいなことになってるな・・・・



「はあ、はあ、、、勝った・・・・」


 緊張が解けたモニカが肩で息をしている。

 代わりに俺が周囲の確認を行った。


 どうやら他にアントラムはいないようだ。

 

『よくやったなモニカ、久々の激戦だった』

「森って・・・戦いにくい・・・」


 たしかに今回の苦戦は相手が前回のよりも頭を使うタイプだったとはいえ、根本的にはこの森というフィールドによるものが大きい。

 やはり俺達の能力には何らかの偏りがあるのだろう。


 そういえばリコは大丈夫か?


 モニカもそう思ったのかリコのいたあたりを振り向くと、顔が真っ青になったリコが膝をついていた。

 ちょっと心配になるくらいの汗をかいて、ちょっと震えている。


 大丈夫かな?ちょっと心配になってきた。


「リコ大丈夫?」


 心配になったモニカが声をかける。

 すると突然震えが大きくなった、本当に大丈夫か?


「この・・・・」

「この?」


「このバカヤロオオオがあ!!!死んだらどうすんだあああああ!!!」



 怒られた・・・・



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る