1-3【最初の1人 4:~レンジャーの男~】
まじょ・・?今魔女って言った?
「魔女?」
「おや、自覚はねえのか、それとも最近は魔法師だっけ?そう呼ぶんだろ?」
モニカがキョトンとした顔をする。
たしかにモニカはある程度の魔法を使えるし俺が居るので魔力の扱いは上手いが、この男はなぜモニカを”魔女”と呼んだのかわからない。
この男の前で使った魔法的なものといえば家魔法と、フロウの浴槽を解除したくらいだ。
魔法使ってんじゃねーか!と思うかもしれないがどちらも結構地味で、本の情報で正確かどうかは分からないが専門家でなくても簡単な魔法が使えるこの世界で、ことさら”魔女”と呼ばれるようなことではない。
「なんで魔女だと思ったの?」
モニカもそう思ったようだ。
「なんでって、その目見りゃ分かんだろ?」
「目?」
「目の瞳や髪の色ってのは魔力の影響を受けやすいんだ、そんだけ黒けりゃてっきり魔女かと思ったんだよ、それにそんなでっかいソリを一人で引くっていうじゃないか、筋力魔法は俺でも使えるがこんなものを長時間引っ張り回すなんて想像もつかねえ」
モニカの目が異常に黒いと思っていたがそのような事だったのか、たしかにそれならばモニカの魔力量も含めて色々説明がつく。
それに予想通り筋力魔法自体は珍しくないようで、その使い方がおかしいらしい。
おや、
『モニカ、目をこすっても色は落ちないぞ』
どうやらモニカはこの目がお気に召さないらしい。
目が黒いと言われて少々不快感を感じているようだ。
『気にするな強そうだと思うぞ』
一応フォローしておこう。
「その様子だと、本当に自覚がないらしいな」
男が呆れたような声を上げる。
だがすぐに周囲を伺うように顔を振る。
どうやらよほどここには居たくないらしい。
「まあ引っ張れるならそれでいい、ただし危険な状況になったらすぐに捨てろ」
「わかってる、命と天秤にかけたりはしない」
「ん?さっき大泣きしていたのとは別人みたいだな、てっきりこのソリは捨てられないと泣きつかれるかと思ったぞ」
「さっきはどうかしてた、準備できたから案内して」
ちなみにモニカが命と天秤にかけないのは恐らく後ろのソリだけで、
「それじゃついてきてくれ、くれぐれも勝手な行動はするなよ」
※※※※※※※※
レンジャーの男に先導されながら森の中を進んでいく。
予想した通りかなりの凄腕のようで、かなり手前から大型動物の気配を察知して回避している。
俺達が風呂に入って臭いが消えたことで動物がかなり近くまで来てくれるようになったが、レンジャー的にはあまり歓迎できないだろう。
それにしてもこの距離で目の前に見えているのにも関わらず、時々気配を見失ってしまうのはどういうことだろうか?
臭いが紛れているのは分かるし足音がしないのもそういう技術なのだろうが、振動くらいは伝わるはずだろうに。
「嬢ちゃん、そこで一旦止まれ」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと気になってな」
男が以前モニカがやっていたように地面に耳をつけて何かを探り出した。
なにやら進行方向に気配がしたのでチェックするようだ。
ただ俺達の索敵によるとその正体は1mほどの動物でそこまで脅威ではない。
どうやら索敵の精度はこちらのほうが上のようだ。
そのまましばらくして安全を確認したのかまた起き上がる。
「”プロクロス”か”ラルゴクロス”の若いやつだと思う、問題はない、行くぞ」
さすが本職だけあって何の生き物か判別できるらしい。
こういうところは経験値が生きるので勝てないな。
ちなみに”プロクロス”も”ラルゴクロス”も鹿の仲間のような生き物で、足が早く森の中を高速で移動して天敵から身を守るらしい。
図鑑によると気が弱く人間からすぐ逃げるので、そのせいで捕まえるのが大変難しい生き物だ。
まあ脅威度としてはいちいち気にするようなものではないだろう。
その後も何度か似たような事があり、その度に男が止まって確認をしている。
おかげでかなり歩みが遅い。
『なあ、俺達のほうが発見早いから教えたほうがよくないか?』
「教えても確認はすると思うよ?」
『それでも手間は減るだろう』
「ううん、ここの生き物の判断がつくほど知らないもん」
『大きい小さいくらいは分かるだろう?』
「大きさなんて関係ないよ、手よりも小さくて人間よりも強い生き物だっていっぱいいるんだって」
『それは誰から聞いたんだ?』
「カシウス」
『ああ、カシウスか』
モニカの中での大スターことカシウスがそういうならばそれはそうなのだろう。
となるとソースは本になるのかな、確認してみると確かに物語に出てくる小動物でとんでもなく恐ろしいのが何匹か登場している。
しかも図鑑にも名前が載っているので、たしかにモニカの言うとおりこの世界の生き物の危険度を大きさだけで判断するのは止めたほうがいいのかもしれない。
他ならぬモニカ自身がその最たる例なわけだし。
どうもモニカはこの男の動きについてかなり納得しているようだ。
しかも、どことなくそこから学ぼうという気概が感じられる。
何かハンター魂に火が付くような要素でもあるのだろうか?
正直オレにはわかりかねる部分が多いが。
「おじさん」
突然モニカが話しかけた。
「なんだ?」
「名前教えて、私はモニカ」
「嬢ちゃん、名前を聞く時に自分から名乗るのは感心するが、そうやって気軽にホイホイ聞くもんじゃないぞ」
あれま、拒否された。
「俺の名前は”リコ”だ、曾祖父の代からこのへんでレンジャーをやっている」
わけではなかったようで、単純に忠告してくれただけのようだ。
「やっぱりこの人、悪い人じゃない」
モニカが俺に聞こえるだけの小声でリコの感想を告げる。
『それを判断するにはまだ早すぎないか?俺もモニカも人を見るには経験が少なすぎる』
「リコはさっきからずっと私の事を守ろうとしてくれているよ」
『そうなのか?』
「動きを見ればすぐに分かる」
『ふーん』
「それに、ソリを引いている私が通りやすいような所を無理して選んでくれている、だからいつもよりもずっと気を使って周りを見ているんだと思う」
『そういえば確かに空間の広い所を選んで通ってくれているな、本当は隠れたいだろうに』
そう考えると本当にいい人なのかもしれないな。
これまでの言動からこの男が”アントラム”をかなり恐れていることは知っている。
それでもなお多少の危険を取って助けてくれようとしているのだ。
せめて村までの案内は信用したほうがいいかもしれない。
それにこれは慢心かも知れないが、この男であればどうにか出来るという考えもあった。
※※※※※※※※※
風呂に入るまでと違い森は鳥や小動物の出す音でかなりうるさい。
リコも俺達も極力気配を小さくしようと努めているせいかもしれないが、小動物たちが俺達を気にする様子がそんなにない。
向こうもまさか自分のような小物を襲うとは考えていないのだろう。
まあ、たまにソリの中身狙いのやつは追い払うが、基本的にほのぼのとした空気の中で旅は進んでいた。
突然モニカの足が止まる。
「どうした?って!?」
どうやらリコも気づいたらしい。
それと同時に鼻の中に強烈な獣臭が飛び込んでくる。
そしてそれに反応したように森の中が水を打ったように静かになった。
明らかにおかしい、俺はモニカの感覚情報にアクセスしてそこから”目標”の位置を割り出し脳内マップにマークする。
これはまずい、大型の獣が複数体それも囲まれている。
俺は急いでその情報をモニカに送った。
「右、3、左、4、、たぶん後ろにも一匹」
「すげえな、俺は数はわからねえがこの臭いは間違いねえ」
そのリコの表情を見るに、どうやら俺達が今ここで一番出会いたくない獣のようだ。
「アントラムだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます