1-2【新たな世界へ 6:~グルメな無能~】


「・・・・死んだ?」

『やべえって、まじやべえって』


 俺の思考が”ヤバイ”一色に染まる。

 それが、あの化物みたいな・・・というか化物そのものについてなのか、それともそいつを圧倒したモニカについてなのかは定かではないが、とにかく俺はかつて無い緊張のせいでどうにかなってしまいそうだった。


「確かにロンが一番やばいね、こんなに強いとは思わなかった」


 あれま俺までヤバいやつ認定を食らってしまった。

 しかも一番やばそうな子にだ。

 そのことでさらに混乱が膨らむ。


 そんな訳はない、俺は一般人だ。


 確かに子供と獣に対して”喋るスキル”というのは”普通じゃない”度という点で分が悪い気がするが、しかしその子供と獣こそ普通じゃないのだ一緒にしないでくれ。


「最後のアレの威力、とんでもなかった」

『ああ、あれか・・・』


 我ながら恐ろしい攻撃を作ったもんだ。


 俺は恐る恐る、視界の中に映る”それ”の様子をうかがう。


 1km程先で40mを越えようかという、巨大生物が下半身だけ真っ二つになって転がっていた。

 攻撃をもろに受けた上半身は吹き飛んでしまってどこにもない。

 顔面から入った砲弾が尻まで貫通したせいで、残った下半身もバラバラになっているくらいだ。


 何をしたのかというと砲撃魔法の”火薬代わり”の魔力の代わりに、魔力ロケットの機構を採用したのだ。


 いつもより小さめに作った魔力ロケットに蓋をして極限まで圧力を高めて、フロウを展開した筒の中に押し込み砲撃魔法で使う魔力砲弾を筒の内部に展開する。

 あとは狙いをつけて魔力ロケットの圧力を開放してやれば、筒の内部で逃げ場を失った圧力が魔力砲弾を押しながら砲口に向かって殺到する。


 その結果、予想以上に威力が向上した。

 発生した爆炎の大きさは数十mに及び、その反動で固定していた地面に巨大なヒビが入っているほどだ。


 この前のサイカリウス戦のときより使えるフロウが増えたので、地面への固定を強化したのだが、それでもギリギリだった。

 相手が距離を開けてくれたので試しにとやってみたが、いつもどおりスキルが絡むと威力が予想を遥かに超えるようだ。

 

 ただ準備のもたつきと、砲身ごと地面に固定しなければいけないというのは、改善の余地が大きいな。

 今回たまたま相手がモニカに脅威を感じ、様子を窺うことにしてくれたので当てられたが。

 

 仮にあの速度で動き回られていたら、そうはいかなかった。


 それにしてもあいつの速度は凄まじかった。

 とっさにモニカが機転を利かせて、足元に転がり込まなかったら、間違いなく次の瞬間には口の中だった。


 まあその時はフロウの二重防御を全開にして、抵抗するだけなのだが。


 そういえば戦闘開始時にとっさの思いつきで行った、フロウを体の表面に纏わせるというのも今回成功した試みだったな。

 空を飛ぶときに使っているハーネスから着想したものだが、おかげで戦闘時に瞬時に飛行状態に移行できた。


 しかも防御力も中々のもので、怪物の顔面から吹き飛ばされても全然平気だった。

 さながらフロウ製の鎧というところか?

 鎧に比べて軽く圧倒的に頑丈で、しかも多少壊れても魔力を流してやれば元に戻り、変形できるので動きを妨げることがない。

 

 モニカがフロウを構えたとき手持ち無沙汰になった俺が適当にやったことなのだが、今後は服の下に常時展開するというのも一つの手かもな。



 そんな風に戦闘を振り返っている間に、モニカが魔獣の死体の近くまでやってきた。

 近くで見ると本当に惨たらしい事になっているな。

 引きちぎられた皮や肉・・・骨のようなものがそこらじゅうに散らばっている。


『どう思う?』

「食べるところなさそう」


『いやそうじゃなくて』

「足の肉はいけるかな? あ、オスなんだ」

『ちょっとモニカ、、それは捨てなさい、早く捨てなさい』

「なんで?結構美味しいんだよこれ?」

『ギャー、ヤメテー』


「うーん、わかった。それでどう思うって何が?」

『いや強さとか・・・そういうの』


「でかいサイクよりは強い・・・けれど頭が悪すぎて多分もっとでかい方のサイクには勝てないと思う」

『おや、モニカの評価は意外に低いんだな』


 体の大きさにしろ動きの速度にしろ、ついでに防御力もこの前の超巨大サイカリウスより上のはずなのにどういうことだろうか?


「こいつは恐いという気持ちがなさすぎる」

『それは悪いことなのか?』

「多すぎるのはダメ、動けなくなるから、だけど少ないのは論外」

『論外・・・』

「だからこいつは全く考えなしに動いた、それじゃ頭のいいサイクには勝てない」


『はあ、そうですか・・・・』


 こうなるとこいつには少し同情してしまう。

 バラバラにされた挙句、肉にもならないと言われ、最後には論外ときたか・・・・


 そう思うとなんとなく俺までこいつが弱かったような気がしてくるから不思議だ。

 別に俺が新技を開発しなくても余裕で勝てたかもしれない気がしてくる。

 

 まあ、今回は今後のための戦闘練習ということで。

 

 魔法のある世界なのだ、身寄りのない女の子が生きていくにはこの程度の武器があっても良いのではないかな。

 


 ちなみに今回の戦闘の戦利品として、この魔獣の巣から肉を少々頂いた。

 俺としては獣の食いかけなど勘弁願いたいのだが、肉に目がないモニカによると相当に良い肉とのことで、彼女の中での怪物の評価が”無能”から”グルメな無能”に少し改善したことをここに記しておく。




※※※※※※※※※※



 山脈も魔獣を倒した辺りから気候がまた急激に変わった。

 最初はどこもかしこも極地ということで、モニカの住んでいたところに比べたら温かいがそれでも厳しい寒さだったのが、ここ数回分の峠に至っては雪の層が薄く、場所によっては土の地面が露出していた。


 それにともなって気温の上昇が見られた。

 

 早い話しが暑くなってきたのだ。


 特に極寒で育ったモニカにとっては、かつてない気温のようで、すでに上着は完全に脱ぎ捨て、家の中にいたときのような薄い革製の下着姿のような格好をしている。


 一応まだ肉が凍る温度なので、寒いはずなのだが、これは人のいる場所に行ったとき慣れるまで苦労するかもしれないな。


 そうそう、その肉だがすでに凍っている肉が溶け出したりはしていないが、新たに得た肉はほとんど凍っていない。

 これは備蓄の肉が溶け始めるまでそう時間はないだろう。


 できるだけ早く人里について食料を確保できるようにしなければ。


『サイカリウスの毛皮が売れるといいな』


 俺達には暖かいが、それでもまだまだ寒い地域のはずなので、毛が長くとても暖かいサイカリウスの毛皮の需要があるとは思うのだが。


 問題は。


『相場がわからないんだよなぁ』

「相場?」

『物の値段の大体の目安だよ、サイカリウスの毛皮を売ろうにも相手が提示した金額が正しいのかわからない』

「正しくない値段で売っちゃったらどうなるの?」

『最悪の場合、パンすら買えないかもしれない』

「パンか・・・食べてみたいな・・・」

『モニカはお金よりも食い気だね』

「お金がないといけない理由がよくわからない、狩りをすればいいんじゃないの?」


『いいかいモニカ、今後人が増えてくると狩りをするにも許可がいるかもしれない』

「え?なんで?」

『例えばモニカみたいな凄腕の狩人が100人もいて、同じところで好き放題動物を取りまくったらどうなる?』

「うーん・・・・そのうち動物がいなくなる?」


『そう、そうなればそれを当てにしていた人達は困るだろ?』

「困るね」

『だから狩猟に関しては厳しい規制があるかもしれないんだ』


 まあ、実際はないだろうが、可能性の問題としては考えられる。


『そしてその許可を得るのにお金がいるかもしれないんだ』

「なるほどー」

『それにモニカはお金をいっぱい使う予定があるだろ?』

「そうだっけ?」


『魔法知識だよ、古今東西、知識というのは一番お金がかかるものだ』

「そうなの?」

『知識を書いた本はとても高いし、教えてもらおうにもタダじゃない、それに新たな知識を見つけるにはそれこそ無限にお金がいる』

「じゃあ、毛皮でたくさんお金が貰えるといいね」

『いや、毛皮じゃ全然足らない、あれはあくまでもお金を稼げる手段を得るまでのつなぎだ』


「お金はどうやったら手に入るの?売るもの他にないよ?」

『それを知るために相場が重要なんだ、俺達の稼ぎどころはおそらく狩猟になるだろう』

「それなら自信あるよ?まだこの辺の動物についてよくわからないけれど」


『となると、何が高く売れるのか知っているのといないのとでは効率が段違いだ』

「だから相場が知りたいんだね」


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