第10話 教授の御使い

カーテンの隙間から伸びる白い朝陽がベットの縁に差す。

チチチと鳥の鳴き声が部屋に聴こえて、パーサーはまだ半分閉じている眼を擦りながらそっとベットから起き上がる。

カーテンを開け、朝陽を感じながら身体を伸ばすと机の端に置いてある水差しの水を洗面器へ移して顔を洗った。


「フゥ~」


 完全に目が覚めて、タオルで顔を拭いてパーサーはダイニングへと向かった。


「・・・よぅ、おはよう」

「へぇ、起きれたんだ。おはよう」


 ダイニングにはテッキリまだ、部屋で熟睡していると思っていたジェームズが起きていた。

 ただ、起きているだけでテーブルに突っ伏している状態で完全に二日酔いのようだったがパーサーは珍しいなと思った。


「珈琲でも、飲むかい?」

「水で頼む」

「ハイハイ。朝食はいるかい?」

「今日はいらない」


 パーサーが水をコップに入れてテーブルに置いてやるとジェームズはグッと一気に飲んでしまった。


「はぁ~。生き返る!ウッ、やっぱ、まだ気持ち悪い。パーサー、俺は今日は休むわ」

「二日酔いなんて、自業自得だろ。バカ言ってないで準備して来いよ」


 お前は俺の母親かよと愚痴りながら、ジェームズはのそのそと洗面所へ行く。

 ジェームズが出ていった後にパーサーは珈琲を容れてトーストと目玉焼きを焼くと手早く朝食を済ませると自身も洗面所で身嗜みを整えて制服に着替えた。


「ジェームズ、早く行こう。遅刻するぞ!」

「頭が痛いんだから、大声出すなよ。あと、遅刻って、まだ時間は余裕あるだろ?」

「今日はウィルソン教授の共同研究者の工房にクラーディのパーツを取りに行くんだったろ!しっかりしろよ!」

「そうだったな、教授から貰った住所を見せてみろよ」


 パーサーは昨日、上着のポケットから手渡された住所の書いたメモを出すとジェームズに渡した。

 ジェームズはメモを一瞥すると、俺は今日パスと言ってきた。


「なんだよ?行かないの?教授の共同研究者だよ!きっと、凄いゴーレムがあるんだぞ!例えば、クラーディ達みたいなwaxworkとか、最新の小型ゴーレム"ピクシー"とかあるかも!いやッ、もしかしたら、軍が研究しているって噂の"ガーゴイル"なんてあったり!」

「只でさえ、二日酔いでキツいんだ。大声出すなよ!教授の共同研究者の住所って、クレメント区って書いてるんだぞ。そんなの乗り合い馬車で行かないと行けないだろ?だから、パス。吐く、今の状態でそんなのに乗ったら絶対に吐く!それに下手したら、遅刻する」


 成績の良い誰かと違って俺は危ないんだと言ってジェームズは部屋の玄関に向かった。


「先に学校に行って、お前がウィルソン教授の用事で遅れると伝えておいてやるよ。一応な」

「そっか、ありがとう。ジェームズ!」


 ジェームズは気にすんなと手を振り、玄関の扉を開けた。

すると玄関の外に先客がいた。

ノックの体制で片手を上げて、停止しているwaxworkが立っていた。


「クラーディ?」


クラーディは名前を呼ばれた事に反応して軽く会釈し、手を前に出した。

手には手紙があり、ジェームズはとりあえず手紙をもらい読んでパーサーに渡した。


『朝早くにすまないね。実は昨日、君達に馬車の事を伝え忘れてしまっていた。馬車については私が手配したので、それを使ってくれたまえ。ついでにクラーディを連れて行って修理を終わらせてもらいたい。朝の講義は私の方から遅れる事を調整しているから、心配は無いのでゆっくりと行ってくれたまえ


 ウィルソンより』


「わざわざ乗り合い馬車を待つ必要は無くて、良かったな。それじゃ、俺は先に行って来るからな。お前は気をつけて行ってこい」

「ああ、わかった。ジェームズも気をつけて」


 ジェームズは階段を降りて行った。


「さて、僕たちも行こう。クラーディ、手を貸そうか?」


 パーサーはクラーディに近づいて手を差し出したがクラーディは首を振り、扉のそとがわに立て掛けた棒を指差した。


「これは、松葉杖?君って松葉杖なんか使えるの?」


 ゴーレムが松葉杖を使うなんて見たことがなかったので、パーサーが問い掛けるとクラーディはコクりと頷いた。


「ゴーレムが松葉杖を使えるなんてしないのにやっぱり君は普通のゴーレムより、遥かに凄いな!本当に君の命令文を分析してみたいな!ねぇ、ちょっとだけで良いから君の頭の命令文を見せてよ!お願い!」


 ゴーレム相手にパーサーは熱い視線を送り、頭を下げた。


 クラーディはそんなパーサーを見ながら、困った様に首を横に振っり、早く行こうと言うように先に玄関へと降りていった。


「おい、待ってよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る