{第百二十七話} 被験者4869
何も考えていなかった昌だったが、ミイからブルーキャッツが閉まっている事を聞き、先日の出来事を思い出していた。
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命かながら逃げ出し、下水道の出口である公園にたどり着いた昌達は、一旦息を整えつつ状況を整理する。
「クソッ!ルキャメラめ...」
「これからどうするんだ、ソアリン」
握った自身の拳で公園の木を殴りつけるソアリンにリツカが話しかける。
「ルキャメラは神聖スパークと共に、昌のGOSも狙ってくるはずた。アネイアスに向けた作戦を練らなければ...」
「クエリーの立て直しはどうする!今のままではルキャメラには対抗出来ない、それはお前も分かっているだろ!」
「しかし、昌達だけでは...」
「オレ達なら大丈夫ですよ、ルキャメラなんかに絶対に負けない。アネイアスはオレ達で戦い抜いて優勝してみせる」
「昌...」
「だから、オレ達の心配はせず、クエリーを!」
昌の気遣いに気づかされ勇気づけられたソアリンは少しの沈黙の後に、笑顔で答えた。
「分かった。昌、GOSは頼んだ!」
「もちろん!」
ソアリンに肩を叩かれ、託された昌は自信に満ち溢れた表情で答えた。
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「そう言えば、ブラッドは?」
「この町では確認していません。所在は不明です」
回想の中で、ふとブラッドの事を思い出した昌は、ミイにブラッドに関する情報を聞くが、冒険者組合にも顔を出していないらしく、居場所はわかっていないが、ブラッドの最後の様子からアネイアスには現れるだろうと昌は考えていた。
家に居ても特にやることもない昌達はベックに会って、何か情報がないか聞く為に、彼らが溜まり場にしているバラスクの廃倉庫へと向かった。
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大きな倉庫の扉を開けて中に入ると、ボロボロの寂れたソファーの上でベックが寝転がっていた。
もちろん、その手下である三人組も一緒だ。
それに、どこから嗅ぎ付けたのか、情報屋が気づけば昌達の後ろに立っていた。
「あ、どうも」
「驚かすなよ」
「これは失礼」
昌達の会話に気づくと、ベックは起き上がりソファーに座った。
「よく来たな」
「何か連絡は?」
「ねぇよ、しばらくは待つしかないだろうな」
諦めた様子で、再びソファーに寝転がってしまったベックに昌は反論した。
「そんな事はない。多分、な...」
「それはどういうことですか?」
「ネラさん、説明おねがいします」
情報屋の問を昌はネラに丸投げして、説明を任せた。
「では、私から説明します。マスターがBCの優勝賞品として手に入れたアネイアスの特別出場枠ですが、大会規定によれば「本大会に出場する権利を持つ者は、メンバーとして最大二人まで自身のチームに加えて、出場する事が出来る」とあります」
「まさか」
「はい、アネイアスにはマスターと私達を含めた三人で出場します」
「と、言うわけで、あります。つまり、オレ達が優勝すれば、問題は解決するってことよ」
「すごいですね、相手はルキャメラと言うのに」
ネラの説明と、昌の言葉に情報屋は驚いた様子で、話をちゃっかり聞いていたベックは笑っていた。
「邪魔したな、オレ達は大会に向けて特訓を始めるから」
そう告げると、昌達は足早に倉庫を後にした。
自宅に帰る道中。
「え、そうだったの?」
「はい、私とネイも参加します」
「私に頼ってね」
昌は適当な発言をして、ネラに丸投げしただけで、この事実を全く知らなかったが、その場しのぎで知った風を装っていただけだった。
「世界大会って言うから不安だったけど、二人が一緒なら負ける事はないな」
そこからは毎日大会へ向けた練習を始めた。
色々な状況を想定し、ダミーを相手にした戦闘を繰り返した。
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レクトロは店が繁盛したお陰で、店の規模を大きくし、弟子達に現場は任せて少し離れた位置からアドバイスをする程度にしていた。
そんなある日、レクトロが店の二階にある自室で色々な資料に目を通しつつ、妻と話していた。
「昌達は今日も特訓か...」
「すごいわよね、彼ら。ルキャメラの恐怖に怯むことなく、真向から挑んでいるんだから」
「タバレ達は?」
「特に何も聞かないわね」
「分かった、昌達の様子を引き続き部下に調べる様に言ってくれ」
「分かったわ」
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アルキメデス邸のとある一室。
部屋の中央に書かれた魔法陣の上であのアルビノの少女が寝かされている。
その周りで複数の男達が魔道具等を用いて彼女の様子をモニターしている。
その中にはアルキメデスの姿もあった。
「今の所問題はありません」
「被験者4869、実戦行けます」
部下からの報告を聞いた、男達のリーダーと思われる男がアルキメデスに不敵な笑みを浮かべながら実践へのGOサインを出した。
「これでデーダクリスタルと神聖スパークは手に入ったも同然」
「そう言うことになりますね」
彼らよそに、4869は目を閉じたまま静かに寝ている。
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昌達はこの日の特訓を終えると、窓からは夕焼けが射していた。
「いや、オレも手伝うけど?」
「ありがとうございます。ですが、マスターもお疲れでしょう。お風呂の用意をしておきましたので、湯舟にゆっくり浸かって今日の疲れをいやしてください。その間に私達で片付けと夕食の支度をしておきます」
「わかった。頼んだよ」
「はいお任せください」「任せてちょうだい」
昌はネラ達に見送られて、自室に帰ると、自身のスマホに電話がかかってきた。
「はい、どちら様でしょうか?」
「昌、俺だ」
声の主はリツカだった。
「リツカ?なんで電話なんか」
「京一から色々とな。そんな事より、ベック達が溜まっている廃倉庫に来てくれ」
「今から?」
「ああ、今からだ。場所はわかるな」
「はい」
電話が切れると、昌はリツカの番号を電話帳に登録して、そのままリツカのいる倉庫へ向かった。
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