{第百十二話} オレは2児の父

カーテンの隙間から射す朝日をみて朝になったと理解し実感した昌は体を起こそうとするが、抱きしめているミイは昌の手をつかんでいて抜ける様子は全くなく、例えそれがなくともネイの抱き枕になっているので寝返りすら出来ない。

ネイに抱きしめられて背中が幸せなのはいいとして、さすがにこの体制で数時間が経過しているのは肉体的疲労がとんでもないことになっている。

この状態から脱出すべく、まずはミイを小さくした。

これで両手の自由が利くようになったので、次はネイに抱き枕にされている状況から脱出しなければならないが、これも特に難しいことはない。

上と下を開けた筒状の物で自身の体をGOSで覆い、中で体の自由か利く程度に広げて、あとは匍匐で下から出れば脱出完了。

最後に2人を起こさないように、脱出に使った筒を自分に見立てた形に変形させて、もとの少女サイズに戻したミイを抱きしめる形にすれば、昌とGOS人形が入れ替わっただけで最初となんら変わらりの無い状況が完成した。

あとは、静かに部屋から出れば、脱出はより完璧な物になる。

枕元に置いておいた腕時計とスマホとメガネを回収して、一歩一歩、足を上げ下げする動作にも細心の注意をし、足元に小枝やビックリチキンが落ちてないかを入念に確認してその場を後にすると、すぐさま着替えて部屋の扉を静かに閉めて部屋を出た。

廊下に出ると、昌はネラが朝食を作っているであろうキッチンに向かった。

向かう途中、こちらに歩いてくるネラに会ったのでそのまま一緒にキッチンへ向かった。

昌を起こしにでも来たのだろう。

「おはようございます、マスター」

「おう、おはようさん。ネイとミイならオレの人形を抱きしめて、抱きしめられて寝てるよ。流石にあのままこの後もと思うと勘弁だな」

昌は首や肩、腰を動かして骨を鳴らした。

「それはごくろうさまです。姉さん、いえ、ネイの罪滅ぼしに付き合ってあげてください」

「それくらいお安い御用だ。それに...」

昌はネイに抱きしめられたりするのは役得だといった趣旨の言葉をグッと飲み込んで、話を変えた。

「昨晩ネラは何をしていたんだ?」

「昨晩はこの屋敷の戸締りをして、それ以外にとくにやることもなかったので早めに寝ました」

「そうか、ありがとな。そういった雑務をネラ1人にやらせてしまって申し訳ないとおもってる。なにかオレに出来る事があったら何でも言ってくれよ」

「はい、その時は頼みます」

そう胸を張る昌にネラは軽く微笑みながら返事をした。


キッチンに着くと、ネラから最初の頼みが。

「早速ですが、朝食を作りの手伝をお願いできますでしょうか?」

「了解」

昌をネイはジャケットを脱いで椅子に掛け、袖を捲ると手際よく朝食の支度をした。

切ったレタスときゅうりに刻んだ玉ねぎを加えたチョレギ系ドレッシングを掛け、軽く混ぜたサラダ。

玉ねぎとコーンの食感がおいしいく、溶けたバター風味が香る食べ応えのあるコーンスープ。

カリカリに焼いたベーコンと、ふわふわのスクランブルエッグ。

ブルーベリージャムを加えたヨーグルト。

最後は適度に焦げ目の付いたトーストにバターを乗せれば朝食の完成だ。

飲み物として、ネラと昌にはコーヒー、ネイには紅茶、ミイはには牛乳をを用意すればあとはネイ達を起こしに行くだけだ。

料理の盛り付けと机に並べる作業をネラに任せて、昌はネイ達を起こしに部屋へ向かった。


部屋に入って、ネイとミイの元に行くと、2人は静かに寝ていた。

2人の寝顔、特にミイのかわいらしい寝顔を見ていると、とても心が痛むがここは心を鬼にして起こさなければならない。

まずは、起きた時に驚いて騒ぎでも起こされたら困るのでGOS人形を消した。

ネラは肩を軽くゆする程度で簡単に起きてくれた。

「あ、おはよ~。起きるの早いね」

「ネイが遅いだけだけどな」

「そういう事言わないでよ~、ふぁ~あ」

ネイは少し機嫌悪そうにベットから立ち上がるとあくびをしながら体を伸ばした。

次はミイだが、軽く体をゆすった程度では起きてくれない。

「ミイ、朝だぞ~。起きろ~」

耳元で声をかけると、ようやく目をうっすらと開けた。

「マ、スター?」

目をこすりながら昌の顔を確認する。

「おう、もう朝ごはんが出来ていま~す!」

「連れて行ってください」

ミイはそういうと、昌に抱き着いた。

「はいはい、わかったわかった。おんぶしてあげるよ」

「お姫様だっこがいいです」

「お、おう」

一瞬戸惑った昌だったが、すぐに承諾してミイを抱き上げた。

「どったの?」

それにたいしてネイからの視線を感じた。

「うらやましい~!私もお姫様だっこして欲しい~!」

子供のように駄々をこねるネイ。

「そんないい歳にもなって駄々をこねるんじゃないよ、まったく子供じゃないんだから」

お母さん風な口調で注意する昌に対して「子供だもん!」とミイと同じ少女姿になるネイ。

「おいおい」

「子供だからお姫様抱っこして!」

「ミイを抱っこしてるから無理だろ。2人も抱っこできない」

駄々をこね続けるネイを冷静になだめるがうまくはいかない。

「じゃあミイどいて!」

「いやです」

ミイもどくわけもなく昌を抱きしめてはなさい。

「む~」

ネイはそんな姿をみて頬を膨らませてるが、状況は変わらない。

そこへ、遅いと様子を見にネラがやってきた。

「どうかしたんですか?」

ネラはミイをお姫様だっこする昌と駄々をこねている少女姿のネイをい見て状況を理解したのか、ネイを抱き上げた。

「さて、行きましょう」

「いや~だ~」

ネイはネラの腕の中で暴れている。

仕方がないのでミイに代わってもらえるか頼んだが、断られてしまった。

「ネイ、貴方の方がお姉さんなんですから少し我慢をしてください」

「む~、分かったわよ」

少し納得いかない様子だったが、落ち着いたのでネラはミイを床におろした。

「じゃあ、一緒に歩いてもいい?」

ネイは昌のジャケットの裾を引っ張った。

「それくらいならいいぞ」

ようやく事態が落ち着いた所で昌はミイをお姫様だっこしてネイにジャケットの裾を引かれ、そんな昌の横をネラが歩いている。

「オレは2児の父か!」と心の中で叫んだが、実際傍から見ればそう見える光景だった。

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