{第七十九話} 自走出来る馬車

冒険者とそんな話しをしつつ、地下ダンジョンを出て、ショップ街を抜け一階にある換金所へ。

換金所へ向かう道中、出会う冒険者達は皆、おじさんが抱えた大きな二つのクリスタルをうらやましそうに見ながら話しかけてきた。

「どうしたんだ、そのクリスタルは?」

「こっちのと透明な方は、俺の弟子が始めてのダンジョンで一階層のミノタウロスを倒して手に入れた物だ」

「初めての一階層でミノタウロスか、災難だったな。しかも、それを倒すなんてやるじゃないか」

「そうだろ?俺の弟子だからな!」

「オレがはじめてダンジョンに潜った時は確か...」

その度におじさんは自慢げに話し、それを聞いた冒険者達はオレを見て自分が、初めてダンジョンに入った日の事を思い出しているようだった。

換金所のお姉さんにクリスタルを渡すと、クリスタルを持って急いで奥の方に置かれた機械の中に入れた。

数分後、機械に表示された画面を見ておねえさんは電卓を叩いて持ってきた。

その電卓の液晶パネルには「496200」と表示されている。

1ギルと1円は等しいから、496200ギルは496200円?ウォンの間違いじゃないかと疑う金額だ。

「このクリスタルは、形や色合い大きさと言った点は一切文句の付け所がございません。こちらの金額でよろしいでしょうか?」

個人的には大満足な金額だが、ここでおじさんが登場する。

「ちょっと待った、このクリスタルは一階層のミノタウロスからドロップした物だ。そのミノタウロスウをコイツ一人で倒したんだぞ?今日はダンジョンに初めて潜った記念日でもあるんだ。496200なんて言わないで、もうちょっときりのいい数字にしてくれよ」

「そうですね、分かりました。今回は記念日と言う事で特別にきりよくこちらでいかがでしょう?」

おねえさんが打ち直した電卓には「500000」と表示されていた。

「はい、ありがとうございます」

オレはおねえさんから500000ギルの入った袋を受け取った。

「結構重いな、紙幣にして欲しいな」

お金が入った袋はとても重く、片手で持つには少々無理がある。

「確かにそうだな、俺も紙幣化には賛成だ」

どうやらおじさんも同じことを思っているらしい。

「次は俺だな」

そう言うと、おじさんはおねえさんに赤いクリスタルを渡した。

先ほどと同様、クリスタルを機械に入れ待つこと数分、機械で調べたデータを元に電卓を叩いた。

電卓には「1203700」と表示されていた。

「調べた結果、こちらの金額になりますが、いかがでしょうか?」

「おねがします!」

おじさんは即答しお金を受け取った。

「どうするの、そのお金?」

「決まってるだろ?」

おじさんはそう言うとレストランの方へ向かい、冒険者達が食事している前に立ち、言い放った。

「この場の会計はすべて俺が持とう!皆遠慮せず好きなだけお腹いっぱい食べてくれ!」

「おー!!」

その瞬間、この場はお祭り騒ぎで周りにいた冒険者達まで走ってきた。

ついでにオレと姫様も席に着き、軽食をとる事にした。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


このお祭り騒ぎも頂点に達した。

腕時計を見ると、五時を過ぎていた。

「おじさん~?」

コーラの入ったグラスを片手におじさんを探すと、他の冒険者達と肩を組みながらビールが入ったジョッキを振り回していた。

「もう、五時だけど?」

おじさんも腕時計を確認し、五時だと気づいたらしい。

「もうこんな時間か。みんな、悪いが今日はここまでって事で、お会計で~」

店員のおねえさんにお金を払い、冒険者組合を出た。

さっきまでジョッキを振り回していたはずなのに、顔の色一つ変わらないおじさんは本当に酒が強いな。

「姫様、今日はどうだった?」

少し、姫様の存在を忘れてたり、扱いが適当だった気がするが、気のせいだな。

「楽しかったです。普段は行かない場所や色々な経験だ出来てよかったです」

やさしい人でよかった、さすが姫様ですわ。

「少しダンジョンの中で眠ってしまっていたようですが...」

がんばって自分が眠ってしまった経緯を思い出そうとしているところ悪いが、オレから説明しよう。

「それは、ミノタウロスとオレが戦っていて、姫様には見せられないような惨劇が目の前で繰り広げられてたから、そんな惨劇を見ないようにと言ったおじさんの計らいなんだ」

「そうだったんですか。ありがとうございます、キョウイチ様!」

姫様がおじさんに頭を下げると、おじさんは少し戸惑った様子だ。

「いいってことよ。万が一、夜に夢で惨劇のシーンが出て来たら、姫様の睡眠に支障をきたしかも知れない。それに、トラウマにでもなったら大変だし」

さすが、おじさんだ。

少し戸惑っても、いつも通り口は回るらしい。

「この後はどうするんだ?」

「時間も時間だからな、宮殿に変えるか?」

「そうだな」

宮殿に帰る気満々なオレとおじさんをよそに、姫様の表情は少し暗い。

「姫様、どうした?」

「勝手に宮殿を抜け出したので、お父様に怒られそうで...」

そう言う事ね、その点は心配ないと思うけどな。

おじさんが王に言ったらしいし。

「安心したまえ、その時は俺がハネットに言うから」

「はい!」

姫様の心の雲が晴れた所で、おじさんはなにやらスマホで何処かに電話している。


「あ、オレオレ!今、冒険者組合の前にいるから、馬車で向かえに来てくれない?」

「」

「サンキュー、助かる。頼んだぞ」


「何処に電話してたんだ?」

「整備士」

「お、おう」

しばらく待っていると、目の前に馬車が止まったのはいいのだが、オレには馬がジープを引いているようにしか見えなかった。

御者席と言うのだろうが、その御者は完全に車のボンネットの上に座っている。

あまり突っ込まないで置こう。

そう思い、馬車に乗り込んだが、さらなる突っ込み所が。

馬車には車の様に、ドアが四つ付いているのだが、前の席にはハンドルだ着いている。

付いているのはハンドルだけではなく、足元にはアクセルやブレーキと思われるものが付いている。

「これ、完全に車だよね?」

「いや、自走出来る馬車だ!」

それを車と呼ぶのでは?と言う突っ込みを飲み込み、後部座席に姫様と乗り込んだ。

ちなみに、おじさんは運転席に座って腕を組んで、何故か誇らしげだ。

「何してるんだ?」

「これが完全なる自動運転と言う設定で、優越感に浸ってる所だ」

「ちょっと、何言ってるか分からないです」

ネラに運転させたら、完全なる自動運転になるのでは?などと考えつつ馬車に揺られる。

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