20話 その力は誰がために
俺は自らの秘密を打ち明ける為に、メルを公園へと呼び出した。
「付き合ってくれ」
この一言が俺達二人の運命を動かして……いく……?
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「カナデは組み手知らないの? 」
「いや、組み手は知ってるよ! でも神姫と組み手なんてしたら俺の身体じゃ保たないだろ?! 」
いくら魔力を宿したとしても、生身の耐久性までは上がっていない。しょっちゅう戦闘中に気絶してしまうのだからそうなのだと思う。
「ひどーい! 私だって乙女なんだよ!! もう……! しかも、神姫の組み手は生身じゃなくって【魔力組み手】なんだから」
「魔力組み手? なんなんだソレは? 」
魔力で組み手をするのだろうが、一体どうやって……。
「やることは簡単だよ。魔力と魔力を戦わせるのです! 」
「は……? 」
思わず変な声が出てしまった。魔力を戦わせる? 今の俺はそこまで魔力を扱えないぞ……。
「だーかーらー。お互いの魔力を何かしらの形にして、それを戦わせるの。簡単でしょ? 」
いやいやいやいや。簡単ではないだろ。俺の魔法の属性も分かっていないのに、どうやって魔力を具現化するんだよ。
「待ってくれ。まだ俺は魔力を放出しただけで、自分の魔力がどう言う性質なのかすら把握しきれてないんだぞ」
「大丈夫大丈夫ー。そこは私に任せなさい! 」
メルが無い胸を叩きながらどや顔をしてくる。
「んーと、こうかな? 」
メルが考える素振りをすると、手を前に出しソコに火が集まり出す。
「よし、コレでおっけー! カナデもこんな感じでわんこを作ってみて! 」
メルの掌の炎が回転を終えると、20センチくらいの柴犬の様な犬が凛々しく直立していた。
「凄い……。魔力に形をもたせてコントールする技術か……。よし、やってみる」
丹田に魔力を集め、メルと同じように手のひらを上にしソコへと魔力を留める。
しかし。
「うわっ! 」
手のひらに集まりかけた魔力が弾けた。
「まだ難しかったかー」
「いや、大丈夫。もう一回やってみるよ」
簡単な訳ないんだから、集中しろ。魔力を感じて留めるんだ。
「おーーー!! 」
メルが感嘆の声を上げている。それもそのはず、2回目にしてメルと同じ魔力で出来た半透明の白い柴犬を作ることが出来たのだ。
「これで、どうだ! 」
「凄い凄い! カナデは何でも出来ちゃうんだねー」
ニコニコしながらメルが褒めてくれる。そういう仕草が可愛いのが反則だ。
「いや、まだ留めて置くだけでせいいっぱいだよ。はぁっ」
集中が途切れると手のひらの上の白柴は霧散してしまった。まだまだ修行の余地がありそうだ。
「まだ作るだけしか出来ないかー。じゃあ、カナデの当分の目標はわんこ対決をする! だね。それが終わったら私と生身で組み手しながら魔法の戦闘時使用のノウハウでも教えるね」
「わかったよ。これからよろしくね。師匠」
「し、師匠……」
メルが俯きながらぷるぷるしている。お腹でも痛くなったのだろうか。
「メル? 体調悪いのか? 少し休もうか? 」
「おぉぉぉぉぉお!! 」
?! 突如メルが叫び声を上げる。
「カナデ! 師匠って言われるとテンション上がるね!! これからよろしくね! 」
そう言うことか。子供が師匠って呼ばれたら嬉しいに決まってるよな。
「あぁ。よろしくな、師匠」
「うん! 厳しくいくからね! 我が愛弟子よ!! 」
変なテンションに苦笑いしながらも、一回目の修行? は終わったのであった。
「まさかカナデも魔法が使えたなんてなぁー。ARMEDの操縦も上手かったけど、そんなからくりがあったなんてね」
公園からの帰り道、メルと俺は並んで母艦アーク・ジェネラルへと歩を進めていた。
「いや、俺の魔法と操縦技術は別だと思っているよ。メル達みたいに攻撃的なものじゃないし、長年操縦技術を磨いて来てたつもりだからね」
「ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど、気分悪くしちゃったかな……」
「大丈夫だよ。俺自身まだ魔法は使えないようなもんだからつい。ごめんね」
魔法があるから強い。そんな風に言われたように感じてしまったが、子供相手に熱くなるなんて俺もまだまだ子供だな……。
そんな事を話ながら道を進んでいくと、俺の通信端末に着信が来た。
「もしもし、こちらカナデ・アイハラです」
「カナデー。今どこにいる? ちょっと作業場まで一人で来られる? 」
着信の相手は双子の整備士マルタからだった。
「今メルと一緒なんだけど、連れて行っちゃダメか? 」
「うーん。メルはうるさそうだからなぁ……。可能なら一人で来て欲しいね」
「分かった。俺1人で向かうよ。外出してて今から戻るから15分くらいかかると思う」
「りょうかーい」
ブツッ。
「誰からだったの? 」
通信が切れるとメルが尋ねてくる。
「マルタからだったよ。何か用事があるみたいで、一人で来いってさ」
「むー。一人でとか怪しい! 男の子二人で何話すのさ……! 」
「マルタのことだ。俺のウォーリアーの修理でも完了したんだと思うぞ? 」
ぶーたれ始めためるメルに、仕事の案件だと暗に伝えてなだめる。
「確かにマルタならそうかも……。んー。気をつけて行ってきてね」
「あぁ、ありがとね」
肩を落としながら手を振るメルにお礼告げ、マルタの居る作業場へ向かうことにした。
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「お待たせ。俺に何か用か? 」
ヴァーミル王国で俺達の母艦、アーク・ジェネラルが停泊されている工業地区。その一角であるARMED開発区の作業場へと訪れた。
その一室、と言うか区画? には、作業着を着たマルタミルタらしき人影と、ARMEDと思われる布がかかった物が鎮座していた。
「カナデー遅かったね。もっと早くくると思ってたよ」
「ARMEDの事になると節操ないもんね」
資料を抱え兄のマルタと妹のミルタがクスクス笑いながら部屋の奥から現れた。
「メルと一緒だったし、そこまで急ぎの感じはしなかったからな。それで? その資料はなんだ? 」
二人はドサッと資料を部屋の真ん中にある2メートル四方くらいある机へと投げ出した。
「コレ? カナデの新型機のデータとか取説とかだよ」
「ウォーリアーがぶっ壊れちゃったもん、修理は難しいから急造で仕上げたよ」
「新型機……! ちょっと見せてくれ」
新型機と言う響きにテンションが上がる。しかし。
「その前にこの資料の確認だよ」
「だよー」
「分かった……。ッ?! 」
渋々資料を捲っていると驚愕のデータを見つけてしまった。
「おい! 君たちは俺に【魔力】があるのを知っているのか?! 」
思わず机を叩きながら叫んでしまった。ドクターアインの話ぶりでは、この力の事を知っているのはごくわずかだと思っていた……。
「知ってるよー」
「じゃなかったら、ウォーリアーの特別仕様なんて作れないよ? 今更何言ってるのさ? 」
「まじか……。そりゃあ特別仕様を作るのに情報も何も無く作れる訳がないけれど……。メルはこの事を知らなかったぞ? 」
「メルには知らされて無かったはずだけど気付いていたと思うよ。神姫は魔力関知出来るって話だしね」
そうなのか……。では何故ドクターアインは俺にこの事実を隠していたのだろう。いずれバレてしまう事なのに……。
「分かった。納得できないことがまだあるが、今は仕方ない。新型機について教えてくれるか? 」
疑問を解決するより、今は新型機だ。そこから分かる事も多くあるだろう。
「待ってました!
新型機の名称は【バルムンク】
コンセプトは超高速万能機。カナデ用に射撃寄りの調整にしてるけど、なんでもござれの機体さ。
悪天候や高温低温、どんな状況にも対応出来るよう各種装甲に【変異式稼働装甲】を装備。
武器の方は今までの対神姫戦や、ヴァーミル王国から技術協力で得られたデータから開発した【対神姫超振動大剣・バルムンク】
コイツは、今までの振動刀とは一線を架すんだ。これまでの振動刀の原動力はモーターだったものを、AT鉱石を利用することで5倍の出力まで上げられることに成功したよ。並のARMEDの装甲ならは簡単に両断出来るし、神姫にもそれなりにダメージが通る強武器さ!!
そのおかげで製造修理のコストはヤバいんだけどね……。
まぁ、それは置いといて、バルムンクの最大の目玉! それは! 」
「お、おう……」
「【ATドライブ】3基搭載なのだ!! 」
「なのだ!! 」
「は、はぁ……」
マルタミルタがビシッと空に指を指すが、俺にはピンとこず溜息が出てしまった。
「あー。カナデはこの凄さが分からないだねー」
「分からないとはまだまだですなー」
馬鹿にされるのが腑に落ちないが、分からない物は分からない。今何基積んでいるのかもどのくらいの出力なのかも体感でしか知らないしな……。
「すまない。詳しく教えてくれないか? 」
「しょうが無いなー」
「今までは、ATドライブは1基のみ搭載だったんだけど、このバルムンクはメイン動力に2基。補助ブースターに0.5基を2つ搭載している! この補助ブースター。出力自体も申し分ないんだけどそのレスポンスのよさが売りで、狙撃の時の離脱は勿論だけど、ブースターの切り替え次第でトリッキーな狙撃も可能になったんだ! 」
「それに加え、カナデの魔力を効率的に使えるようにAT鉱石との同調率も高めたのだー! 今までの操縦感覚を凌駕する反応速度に最初は戸惑うかもだけど、カナデなら大丈夫だね」
「他にも諸々チューンナップしてるんだけど、とりあえず乗ってみる? 」
かなりのハイスペック……。この機体
は戦争をひっくり返す程のものなのではないか……。
「あぁ。ありがとう。もう試験は終わっているのかい? 」
「最終同期テストが残ってる! 試験場はすぐ裏手にあるから、行ってみよー! 」
そうして、新型機の搭乗試験の為試験場へと足を進める事になった。
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