禁書庫

「闘技大会?」


首を傾げるアイリ。

仕事が終わってから直行でアイリの家に行き、そこからクリアバードで二人で夕飯を食べにきた。

店の中は賑わっていて、声が声でかき消されるくらいの反響っぷりだ。

店主のリュドはてんやわんやで厨房に入りっぱなしで、ホールは雇っている女の子が上手く回している。


「そう、一応去年は優勝してるんだよ僕。すごくない?」

「凄いとは思いますけど、今年も出るんですか?」

「気分は乗らないけど、団長命令だからね」


お待ちどうさまと忙しいにも関わらずマスターが直接注文した料理を持ってきてくれた。

ただ喋っている余裕はないみたいですぐに厨房に戻っていった。

今回注文したのはミートパスタと海鮮サラダだ。

本日のおすすめだとの事なので注文してみたのだがアイリが料理に手をつけると美味しいと呟き、次々と食べ始めた。


「それで優勝商品が金貨1000枚なんだけど...」

「金貨1000枚!?」


急に大声でアイリは叫ぶ。

しかし、周り客の声に掻き消され、その声は店に響きわたることはなかった。


「何でそんな貰えるんですか!?」

「さあ?国王が太っ腹ってだけじゃないかな」


確かにこんな喧嘩祭のような大会の商品にしては大金だ。

普通の家庭がこれだけのお金を貰えれば5年くらいは苦なく暮らせるのではないだろうか。


「団長にそれじゃあモチベーションが上がらないって言ったら金以外に商品を用意してくれるみたいでさ、金貨1000枚で可能なことなら何でもいいって言ってたけど」

「金貨1000枚でモチベーションが上がらないってあなた....」

「いや言いたいことはわからないでもないけど、今はアイリといたいし」


ちょっとふざけた感じでそういうと、アイリは一瞬固まって、それについては言及せず黙々と料理を食べ始めた。


「けど何かないかな。金貨1000枚と同等の物って何か思いつかない?」

「例えば旅行とか?」

「旅行か、それ結構ありだね」

「金貨1000枚あれば普段いけないようなところに行けると思いますけど」

「普段行けないところか」


確かに金貨1000枚もあれば、海を渡り、別の大陸まで行けると思う。

大陸間の移動で大体金貨400枚くらいだと聞いたことがある。

なかなか簡単に行けるところじゃないし、一考の余地はある。


「ちなみにアイリは行きたいところとかある?」

「自然が多い所だったら行ってみたいですね」


もともとアイリは王国出身ではない。

エルフ自体その一生を森の中で過ごす。

ごく稀にアイリのように森の外で暮らすエルフもいるようだが、僕はアイリ以外にそういうエルフを見たことがないから本当に稀なだろう。

出来る事なら故郷の森までアイリを連れて行ってあげたいのだが、

アイリ自身も自分の故郷が何処にあるか分かっていないと前に聞いた。


次の日。

普段と同じように職場である騎士団の駐屯所へ向かう。

中へ入ると団長一人が机に座っていた。


「おはようございます」

「おう」

「団長いいところにいた。実は闘技大会の話なんだけど」

「ああ、それな。俺からも提案があるんだ」

「え」

「お前以前王都の図書館で死ぬほど本読んでたろ?」

「ああ、あったねそんな時期も」


騎士団に入る前の事だ。

騎士団に入団するために、王都学院という学校に通っていたのだが、ある時、ひたすらに本にはまっていた時期があった。

腕っ節が強くても知識がなければそれは暴力だという教師がいた。

その時何故だがすごく共感したのだ。

それからというもの拾える限りの知識を拾い集め、いつのまにか学院の首席にまで至ったのだが、それはまた別の話だ。


「王宮の中にある禁書庫に入ってみたくないか?」

「禁書庫?」


王宮にある書庫の一つだ。

なんでも王国騎士に団長クラスと王族しか入れないとかなんとか。


「俺も一度しか入った事がないが、そこらじゃ見かけない本が結構あったぞ?確か宙に浮かぶ都市への行き方だとか、不老不死になる薬の作り方とか」

「不老不死?」

「なんだハルト。お前不老不死に興味があるのか」


不老不死というワードに反応してしまった。

アイリより生きるために、エルフと同じくらいの寿命を手に入れたい。

しかし、不老不死はちょっと求めているものと違うなと感じる。

だって不老不死になったら、アイリが死んでからもずっと生きていくことになるんだ。

それはそれで魂を賭けた誓約を破るよりも辛い。

というかアイリが死ぬのを前提で考えるのがつらい。

うん。却下。

そんな事を思っていると団長もやめとけやめとけと手を振りだした。


「不老不死なんて望むもんじゃねえぞ。大抵そういうのを欲しがるやつは酷い死に方をするもんさ」

「まあそういうものですかね」

「しかし、禁書庫にはそういう系統の本がわんさかあるぞ。中にはお宝が眠っているかも知れん」

「禁書庫っててっきり国の秘密とかが書かれた本とかが置いてあると思ってたのに意外とオカルトチックなものが多いの?」

「いやそういうのも探せばあると思うぞ。けど先先代の王がそういう話が好きだったそうでな。何でも世界中からそういう書物を集めてたそうだ」


世界中からそういう本が集められたのならば、もしかするとエルフと同じ長寿を手に入れる方法が見つかるかも知れない。


「団長。優勝商品は禁書庫の閲覧権で頼むよ」

「おう、そのかわり金貨はねえぞ」


ごめんアイリ。

旅行の話は無くなったよ。

ああ、なんて言って謝ろうか。

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