第16話 黒翼の剣士

 ザシャの所有する幽霊空船ゴーストスカイシップに乗り、クロキ達はモードガルを目指す。

 コロネア達は乗っていない。

 ザシャを捕らえたので、彼に案内させればバレずにモードガルまで行けそうだからだ。

 機会を見てニーゼンの街から捕えられていた人達と共に撤退をする予定だ。

 クロキは幽霊空船ゴーストスカイシップの船室から外の様子を見る。

 淀んだ雲が船の周囲を流れている。

 この船もアンデッドなので太陽の光に弱い。

 そのため日の光を遮る雲の中か、夜の間でなければ航行できない。

 船の中には水夫の青き死者ドロウナーが働いている。

 ザシャの力なのか、青き死者ドロウナー達はクロキ達を気にも留めない。

 こうして幽霊空船ゴーストスカイシップは先へと進むのだった。

 

「全く辛気臭い船だね。どうにかならないのかい?」


 船長の部屋でアルフォスが嫌そうに言う。

 辛気臭いのは仕方のない事だ幽霊空船ゴーストスカイシップはアンデッドであり、船の中は瘴気で満ちている。

 居心地が悪いのは仕方のない事であった。

 

「いや、それなら、乗るな……。嫌何でもないれす……」


 ザシャが不平を小声で言いそうになるが、アルフォスに睨まれて黙る。

 かなり不満を持っているだろう。

 いつ反乱するかわからない。

 だが、ベーラと違い、神族である死の御子を操るのは難しい。

 そのため、力で屈服させるしかないのだ。


「おい、いつまでかかるんだ? 本当に死の都に向かっているんだろうな」


 レイジがザシャの首を掴み持ち上げる。


「痛い!! 痛い!! やめて!! もうすぐですよう!!」


 ザシャは泣きながら言う。

 ザシャも神族であるので、かなりの力を持っている。

 しかし、レイジやアルフォスを前にしたら霞む。

 

「いや、ザシャの言う事は正しいよ。一度行った事があるからわかるけど、動いていなければこの先だったはず」


 クロキはザシャを擁護する。

 前にモードガルに行った事があり、この船が向かっている先にあるはずだった。

 クロキの言葉を聞いたレイジはザシャを放す。 

 ザシャは這いつくばりながらクロキの元に来る。


「えへへへ。助かりました。暗黒騎士閣下。ええと、もちろんモードガルに辿り着いたのなら解放してくれるのですよね」


 ザシャは卑屈な笑みを浮かべて言う。


「ええと、それは……」


 クロキはレイジとアルフォスを見る。

 実は案内させた後のザシャの処遇を考えていなかったのである。

 これまでのザシャのしてきたことを考えると助ける気が起きない。

 しかし、誠実に案内した相手を殺すのもためらわれる。

 かなり迷う案件であった。


「よろしく、お願いしますよ、閣下。もうすぐ着くはずです。あれ……?」


 そう言ってザシャは外を見る。

 そして、変な声を出す。


「どうした? どこに死の都があるんだ?」


 レイジも外を見るがそこには都市らしきものはない。


「モードガルがない? もしかして動いたの?」


 同じように窓の外を見たクロキは眉を顰める。


「動くってどういう事だ? もしかして死の都は移動する事ができるのかい?」


 アルフォスは怪訝な表情を浮かべる。


「その通りだよ。モードガルは都市そのものがアンデッドだ。動くことができるんだよ……。ザシャ。君はモードガルが移動した事を知っていたのかい?」


 クロキは鋭い視線を向ける。


「い、いえ!! そんな事は!!? 知らないです!!?」


 ザシャは後ろに下がる。

 嘘を言っている様子はない。

 本当に知らなかったのかもしれない


「待て!! 囲まれているぞ!!」


 レイジが窓の外を見て言う。

 淀んだ雲の中を複数の鳥人が飛んでいるのが見える。

 キソニアの上空でも見かけた種族だ。

 ハゲワシ型の鳥人はザシャの船を取り囲むと攻撃を開始する。


「ちょっ!!? これは僕の船だぞ!? 公子である僕を攻撃するのか!!?」


 ザシャが怒ったように言う。

 

「どうやら、俺達がいる事がバレたか……」

「まいったね。気付かれるとは……。死の都も移動したみたいだね?」


 レイジとアルフォスが外を見て言う。

 ザシャと違って慌てていないのは流石といえるだろう。


「強い瘴気の流れを感じる……。北へ向かったみたいだな」


 クロキは眉を顰めて言う。


「北か……、という事はレーナのところに向かったのか? これはまずいね」

「おい!! 急いで船を北に向かわせろ」

「ちょっと待ってよ!! こっちは攻撃を受けているんだよ!!」


 レイジがザシャに命令するがザシャはそれどころじゃないようだ。

 そんな時だった。

 

「まずい!! 何か来る!!」


 クロキは叫ぶ。

 次の瞬間、衝撃が船を襲い。 

 一瞬で船がバラバラに壊される。

 クロキ達は空中に投げ出される。

 

(何!? 今のは斬撃!? 一体誰が!?)


 幽霊空船ゴーストスカイシップをバラバラにしたのは斬撃である。

 遠くから何者かが斬撃を放ったのだ。

 空中で落ちながら、クロキは斬撃を放った相手を探す。

 すると遠くから黒い翼の鳥人が向かってくるのが見える。

 数秒の後、クロキ達は地面へと着地する。

 かなりの高所であったが、クロキ達なら問題はない。

 地面に叩きつけられた幽霊空船ゴーストスカイシップ青き死者ドロウナーの残骸が転がっている。

 黒翼の鳥人はクロキ達の前に転がる船の残骸の上に降り立つ。


「久しぶりですね。アルフォス。やはり、この船に乗っていましたか」


 黒翼の鳥人はアルフォスを見て言う。


「はは、誰だったかな。悪いけど思い出せない。どこかであったかい?」


 アルフォスはとぼけた調子で言う。


「ふふ、相変わらずですね。ですが、別に構いませんよ。貴方とどちらの剣が上か勝負したい。私はそれだけですよ」


 黒翼の鳥人は腰から剣を抜く。

 その動きはかなりの使い手のように思えた。


「放せ、アシャク!! 貴様!! 僕を誰だと思っている!?」


 少し離れたところでザシャが双頭のハゲワシ人に押さえつけられているのが見える。

 アシャクの持つ杖は先端が二又になっていてそれがザシャの首を押さえているのだ。

 双頭のハゲワシ人アシャクは神族であるザシャを押さえつけられる程の実力者のようだ。


「申し訳ございません。公子様。貴方には謀反の嫌疑がかかっています。私と共に来ていただきましょうか。さてハーパス様。私は行きますが、本当に加勢は必要ありませんか? アルフォスだけでなく光の勇者もいるのですよ?」


 アシャクはアルフォスと光の勇者を見て言う。

 クロキの事は特に気に留めていない。

 前に会った事があるがその時は兜を被っていたのでクロキを暗黒騎士と認識していないようであった。


「心配には及びませんよ。ザシュスス殿にお礼を言って下さい。私の我儘を聞いてくださってありがとうございますとね」


 ハーパスは嬉しそうに言う。


「そうですか……。それでは私は行く事にしましょう。貴方達行きますよ」


 ザシャを捕らえたアシャクは飛び去って行く。

 クロキ達はハーパスと対峙する。


「へえ、中々の自信だな。お前だけで勝つつもりか?」


 レイジが不敵な笑みを浮かべる。


「さて、どうでしょうね? さあ勝負です」


 ハーパスはつばの広い帽子を取り、頭を下げる。

 中々優雅である。

 かなり腕に自信があるようだ。


(少し興味があるけど、今はそれどころじゃないな


 クロキは興味が出て来るが、それを抑え込む。


「あのハーパスさん宜しいですか……。あのモードガルは死の都はどこに行ったのです?」


 クロキは一応尋ねる。


「うん? 何者です? アルフォスと一緒にいるところを見ると只者ではないのでしょうが? ザシュスス殿なら北に向かいましたよ。貴方達がいない間にレーナを捕らえるためにね」


 ハーパスが笑って言う。


「そうか、だとしたら君と遊んでいる暇はないな。僕は行かせてもらうよ」

「その通りだ。俺は行かせてもらう」


 レイジとアルフォスはハーパスを無視して北へ向かおうとする。

 しかし、どこからか飛んできた矢がレイジとアルフォスへと飛んで来る。

 両者はその矢を防ぐが、そのため行動を阻害される。

 どうやら、来ているのはハーパスだけではないようだ。


「私だけでと言いたいのですが、そこまで自惚れてはいないのですよ。貴方達は戦うしかないのです。まあでも私に感謝をしなさい。本当ならもっと巧妙な罠を仕掛ける事もできたのですよ」


 ハーパスは剣を構える。

 

(さて、どうしようか? 自分は警戒されていないようだけど……)


 クロキはどうこの状況を打破しようか考えるのだった。


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 そして、お知らせです。

 ごめんなさい、来週休みます。

 ネクストの話数のストックが切れたのでちょっとそっちを書きます。

 もう少し筆を早くしないと……。

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