第26話 英雄達の師
クロキは魔竜グロリアスに乗り遠くから地上を見下ろす。
地上ではコウキがサジュタリスと対峙している。
「サジュタリス殿……」
サジュタリスがコウキに勝負を挑んでいる。
さすがにサジュタリスも本気ではないだろうとクロキは推測する。
サジュタリスが本気ならコウキでは絶対に敵わない。
なにしろ、クロキでもサジュタリスに勝てるかどうかわからない。
コウキがこれまでに戦ったどの強敵よりも強く、蛇の王子や獣神子だってサジュタリスには敵わないだろう。
サジュタリスはあらゆる武芸に秀でていて、弓の腕前はアルフォスすら超える。
そもそも、サジュタリスはアルフォスの弓の師である。
他にもサジュタリスから武術を学んだ者は多い。
オーディスすら彼に武術を学び、その影響からエリオスの神々はこのキソニアに手を出さない事に決めたのだ。
エリオスの神々だけでなく他の神や半神の英雄も育てた事があり、多くの者から一目置かれた神、それがサジュタリスなのである。
その彼がコウキに手合わせを申し込む。
つまり、それはコウキを英雄になりえる者と認めたという事だ。
「ふん、クロキの子だ。英雄と認められて当然だな」
後ろにいるクーナが呟くとクロキは頷くのだった。
◆
草原に風が強く吹いている。
「私は遠くから貴方達を見ていました。その中で一番目を引いたのが貴方ですよ。特に剣技にはあの暗黒騎士殿に似ています。非常に興味が惹かれました。さあ剣を抜きなさい」
そう言うとサジュタリスは剣を向ける。
剣を向けられた時だった。
強い圧力を感じる。
この感じは今まで感じた事がないものであった。
「ええと……」
コウキはどうすべきか迷う。
コウキにはサジュタリスと戦いたくない。
しかし、サジュタリスを無視して先に進めるとは思えなかった。
「お待ちください!! サジュタリス様!!」
そんな時だった。
後ろから声がかけられる。
コウキが振り向くとそこにはバサーシが立っている。
「バサーシ……。あそこから追いかけて来たのですか? かなり無理をしましたね」
サジュタリスはバサーシを見て呆れた顔をする。
サジュタリスの言う通り、バサーシはかなり無理をして追いかけて来たのだろう。
かなり、疲れているようだ。
「サジュタリス様! その者の相手は私です! 譲れません!」
バサーシはサジュタリスに向かって言う。
自身が仕える神を相手にそんな事を言って良いのか逆に心配になる。
「ほう。私に対し、そこまで言うとは……。嫌いではありませんよ。良いでしょう。譲ってあげますよ」
サジュタリスはそう言うと剣を下げる。
こちらの意思に関係なく、物事が進むのはどうかとコウキは思うが、受けざるを得ないようだ。
戦うしかない。
「ありがとうございます。サジュタリス様……。コウキ!! 今度は逃がさん! 勝負だ!」
「はあ、わかったよ……。でも良いの? 少し休んでからでも良いよ」
コウキは剣を構えて言う。
バサーシは無理をして来たため疲れている。
最初の時と同じように戦えるとは思えない。
別に休んでもらっても良いとコウキは考えている。
「優しいのですね……。どうします、バサーシ?」
「手加減は無用!! これは意地です!!」
バサーシはそう言ってコウキを睨む。
それは覚悟を決めた目であった。
(別に優しくないんだけど……)
コウキはバサーシを舐めているわけではない。
バサーシの腰に下げた矢筒には矢がなくなっている。
前に戦った時と同じように遠くから矢を射かける事はできないだろう。
つまり、接近戦で戦うしかない。
剣で負けるつもりはない。
それに相手が疲れていたから勝てたとは言われたくない。
だから休むように言ったのだ。
「そうですか、ですが少し手助けしてあげましょう」
そう言うとサジュタリスの手が光る。
するとバサーシの顔から疲労が取れる。
サジュタリスは疲労回復の魔法をかけたようだ。
「おお、ありがとうございます。サジュタリス様! 卑怯とは言うまいな! 行くぞ! コウキ!」
バサーシは両手の剣を高く掲げるとコウキに向かってくる。
その動きは遅い。
前は魔晶石を使い肉体を強化していた。
しかし、魔晶石を使い切ってしまい素の動きしかできなくなっていたのだ。
コウキも剣を構えバサーシを待ち構える。
バサーシは右に向かうと見せかけて直前で体を捻り、左の飛びそこからコウキの側面を狙う。
コウキは冷静にバサーシの剣を受け流す。
バサーシは勢いつけて向かってきたが、剣を受け流された事で体勢が崩れる。
コウキは体勢が崩れた所を体当たりしてバサーシを弾き飛ばす。
「ぐっ!!」
バサーシは強く地面に叩きつけられ呻き声を上げる。
「自分の勝ちだよ」
コウキは剣をバサーシに向けて言う。
「そうか……。そのようだな。俺の負けだ。殺せ」
そう言うとバサーシは目を瞑る。
「そんな事しないよ……」
コウキはそう言うと剣を下げる。
無駄に殺す必要はないとコウキは思う。
「そうか、成程。俺の前で妻と娘を色々と〇◆□×するのか……。確かにそうする方が燃えるな。わかるぞ……。それもまた勝者の権利だ。好きにするが良い……。甘んじてその恥辱を受けよう……」
バサーシは悔しそうに言う。
途中何を言っているのかわからなかったが、多分ろくでもない事だけは推測できた。
「あの何を言っているのかわからないんだけど……。多分そんな事しないよ……。いや本当に……」
コウキは本気で否定する。
「さて、思ったとおり相手になりませんでしたか……。それでは次は私の相手をしてもらいましょう」
勝負が終わったと見たサジュタリスが再び剣を構える。
コウキはサジュタリスを見る。
「ラシャ……。離れていて」
コウキは頭にいるラシャに離れているように言うと剣を構える。
本当の勝負はこれからであった。
◆
目の前にいるサジュタリスがコウキに剣を向ける。
とんでもなく長い剣で槍のようだ。
「さて、行きましょうか」
サジュタリスはそう言うと向かってくる。
その動きは速くない。
コウキはその斬撃を受け流し、懐に入ろうとする。
「えっ!?」
コウキは驚き、横に飛ぶと斬撃を受け止める。
受け流したはずのサジュタリスの剣が軌道を変えて、コウキに向かって来たのである。
「なかなかの反応です。少し甘すぎましたか……。では次に行きましょう」
サジュタリスが少し駆けると突然消える。
(消えた? 違う? 高速で動いているんだ!)
コウキは右から圧力を感じるとそちらに剣を向ける。
剣を向けた瞬間だった。
コウキは剣に強い衝撃を受けて体勢を崩しそうになる。
「何の!!」
コウキは下半身の蹄を上手く滑らせ追撃を防ぐために剣を振るう。
サジュタリスの剣が流星のごとくコウキに降り注ぐ。
コウキは全身全霊の力でその一つ一つを迎撃する。
(強い!! 少しでも集中力を乱したら、やられる!!)
サジュタリスの剣は見事であった。
通常長い剣は使いにくい。
しかし、サジュタリスはその剣を自身の手足のごとく使う。
前に長い槍を使う蛇の王子と戦った事があるが、明らかにサジュタリスの腕が上だ。
コウキは後ろに飛び、サジュタリスから逃れる。
「ふむ、さすがです。幼いながらその剣技。かなり練習したのでしょうね。貴方の師は剣の乙女殿? いや、むしろ暗黒騎士殿の方に似ている」
サジュタリスは追撃せずに言う。
コウキはそのサジュタリスの言葉に驚く。
それは事実だったからだ。
「やはり興味深い……。それに貴方の力を封印しているレーナの枷。それを外せるようになった時、きっと貴方は真の勇者となるのでしょうね。その未来の勇者の力。試させてもらいますよ」
サジュタリスはそう言うと再び消える。
(そっちがそう来るのなら!!)
コウキも同じように動く。
サジュタリスが消える瞬間の動きをよく見て、それが過去に暗黒騎士が使ったのと同じ動きだとわかったのだ。
自身もできないか練習し、完全ではないがコウキも同じ動きができる。
「ほう!?」
間合いを崩されたサジュタリスがコウキの剣を受ける。
「まだだ!」
コウキはそこから体を捻り、一気に突きを繰り出そうとする。
しかし、その突きは繰り出される事はなかった。
サジュタリスから強力な圧がコウキの動きを封じたのだ。
「ふん!」
サジュタリスの一撃がコウキを振り下ろされる。
(ダメだ! 避けられない!!)
コウキは何とか突きを繰り出そうとした体勢から元に戻そうとするが間に合わない。
しかし、サジュタリスの剣はコウキに届く事はなかった。
その剣はコウキの顔の寸前で止められる。
「勝負ありました。最後の動きは見事でしたよ。コウキ。一時的とはいえ私に本気を出させるとはね」
そう言ってサジュタリスは剣を後ろに下げる。
それを聞いたコウキは膝を地面に付ける。
全身から汗が噴き出す。
完敗だった。
しかも、サジュタリスは全ての力を出していないだろう。
コウキは高みがある事を知る。
突然歓声が聞こえる。
いつの間にか周囲にケンタウロス達が集まり、大きな声を上げてサジュタリスとコウキを讃えているのだ。
コウキはケンタウロス達を見る。
最初に会った時のような敵意や嘲りは感じない。
本心からコウキを讃えているようだ。
「さあ、立ち上がりなさい。小さな勇者。あともう少しですよ」
サジュタリスは手を差し伸ばし、コウキを立ち上がらせる。
まだまだ、祭りは終わらないのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
さて、草原編ももうすぐ終わりです。
ここでコウキを覚醒させても良かったのですが、サジュタリス相手だと命の危険はないので、もう少し後にしようと思います。
またAIで思い出したのですが、もう一度英語版に挑戦したいなあと思っています。
良い翻訳ツールはないですかね?
長文が翻訳できると嬉しい。
最後にバサーシが何を言っていたのか……。作者にもわかりません……。
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