第24話 勝者と敗者

 コウキとケンタウロス達が地上で争っている頃。

 上空には瘴気の風が吹き荒れている。

 クロキはクーナと共に魔竜グロリアスに乗り、そこへ近づく。

 そこにいたのは頭が禿げた鳥人バードマンの群れであった。

 アンデッドではなく、初めて見る種族である。

 だが、この種族の事は聞いていた。


 ヴァルチャグ。

 

 そう呼ばれる種族だ。

 ヴァルチャグはハゲワシ型の鳥人バードマンである。

 本来は南の荒野地帯に住み屍肉を食らう死神の眷属である。

 なぜ彼らがここに来ているのかわからなかった。


「ほう、まさかナルゴルの暗黒騎士殿がこのような場所にいるとは? 何用ですかな?」


 ヴァルチャグの中でもっとも大きな個体がクロキの側にやってくる。

 そのヴァルチャグは他の個体と違い頭が2つある。

 さすまたのような道具を右手に持ち、体には魔法のアクセサリーのようなものを身に着けている。

 笑っているような声を出しているが、本当の感情は読めない。


「それはこちらが聞きたい事だよ。君達こそ何をしているんだい?」


 クロキは油断なく双頭のハゲワシ人を見る。


「それはもちろん。死んだケンタウロスの中で我らの兵士となるに相応しい者を探すためですよ。これから忙しくなるので増やさなければならないのですよ」

「そういう事だぜ。暗黒騎士……。ククク」


 それぞれの頭が勝手に喋り始める。


「忙しくなる? 何をするつもりなのかな?」

「決まっています。この世界を新たな冥王であるザシュスス様のものにするためですよ」

「そうだぜ。俺達はそのために周辺を見て回っているんだ。どうだ暗黒騎士。御前も俺達の仲間になれよ。俺がザシュスス様に口を聞いてやるよ」


 双頭のハゲワシ人は言う。


「それはできないな……。ザシュスス? 聞いた事がない者の下に付くなんてできないよ」


 クロキがそう言うと双頭のハゲワシ人から笑みが消える。

 少し機嫌を損ねたようだ。


「それは残念。ザシュスス様はすばらしい御方。知れば配下になりたくなりますよ」

「そうだとも。あの裏切り者のなんかの下にいねえで。こちらに来いよ」


 双頭のハゲワシ人はなおもクロキを誘う。


「悪いけどそれは出来ないよ……。さて、どうする? このまま帰るか? 戦うか? 選んでよ」


 クロキは魔剣を呼び出し手に取る。


「それは怖い。……おそらく私では貴方に敵わないでしょう。帰る事にいたします。ですが、忘れないでください、私達は貴方を待っています。私は偉大なる冥王様に仕える刑務官アシャク。いつかまた会いましょう」

「またな~。待ってるぜ~」


 アシャクと名乗った双頭のハゲワシ人はそう言うと消える。

 後ろにいたヴァルチャグもいない。

 逃げたようだ。 


「やはり幻影だったな、クロキ。ふん、こちらに気付いて逃げていたようだぞ」


 クーナはアシャクが消えた空間を見て言う。

 先程会ったアシャクは幻影であった。

 クロキが近づいた事に気付いて幻影を残し、本体は逃げていたのだ。

 当然クロキも気付いていたが、相手から情報を聞き出したいからあえて接触した。

 おそらく向こうも同じだろう。

 幻影から得た情報は本体も得ているに違いない。


「そうだね。それにしても新たな冥王か……。何者だろう? ザルキシスと関係があるのかな?」


 クロキは遠い西の地を見る。

 かつて訪れたワルキアの地。

 そこで何かが起きているようであった。


 


 コウキは東へと走る。

 もはや、後ろから来るものはいない。

 独走状態であった。

 

「うん、何だろう? 誰かが先回りしている」


 コウキは先に誰かがいるのを感じ立ち止まる。

 先程ケンタウロス達と遭遇した時に遠くから見ていた者達だ。

 コウキはゆっくり進むとそこには馬に乗った女性達が待っている。

 色鮮やかな衣装を着て全員が弓を持ち武装している。

 武装しているが特に弓を構えたりはしていない。

 特に敵意も感じない。

 武装しているのは護身用であり、コウキと戦うつもりはないようだ。


「ええ!? 一番がこんな子なの?」

「間違いないわ……。遠くから見ていたもの。様子から一番はこの子よ」

「あのバサーシが遅れをとるなんて……」

「まさか? こんな小さい子が?」

「この子が嫌がっているけど、どういう事かしら?」

「頭に白い犬みたいのを乗せているけど何なのかしら?」


 数名の女性達はコウキを見て話し合う。

 コウキの事が気になるようだ。

 もっとも乗っている馬が嫌がるので近くには来る事ができないようだ。


「あの、先に行かせてもらいますね」


 何のために待ち構えていたのか、気になったので立ち止まったが特に意味はないように感じたのだ。

 コウキは彼女達を避けようと横に動く。


「待って!」

 

 しかし、それを察した女性の一人がコウキを呼び止める。


「ねえ、名前は?」

「あなたが勝者なのよね? 私を選ばない?」

「あっ、ズルい! 抜け駆けはやめてよ!」

「良く見たら可愛い顔をしているわね。将来有望だわ」

「ねえ、私なんてどうかな? 沢山子どもを産んであげるわよ」

「私も! 私も!」


 女性達は馬から降りるとコウキを取り囲むように動く。

 はっきり言って邪魔をしているが、彼女達のそんなつもりはない様子だ。

 純粋に自身をコウキに売り込んでいる。

 コウキにとっては良い迷惑であった。


「ええと、ごめんなさい……。退いて下さい」


 コウキは一応お願いする。

 敵意を持った相手を力で退かせる事にためらいはないが、好意を持った相手だと少し勝手が違い、コウキは戸惑ってしまう。

 彼女達は真剣であった。

 夫によって彼女達の運命は決まるのだ。

 勝者の妻にならなければみじめな人生となる。

 だからこそ、誰よりも早くコウキに接触してきたのである。

 だが、コウキはそんな事を知らない。ただ迷惑なだけである。

 そんな時だった唸り声が聞こえたのは。


「何よ!? あの唸り声?」

「ちょっと見て! あそこ!」

「嘘! 雪豹スノーパンサー! 何でこんな所に!?」

「そうよ! ここから離れた高地に住んでいるはずでしょ!」


 彼女達はある一点を指して言う。

 そこには白い毛並みの豹がいる。

 それも1匹ではない、数にして10匹はいるだろう。

 雪豹スノーパンサーと呼ばれる豹であり、白い毛並みが特徴だ。

 氷の魔法を使う魔獣であり、その毛皮には冷気を防ぐ力がある。

 そのため商人が毛皮を求め自由戦士に依頼をする事もある。だが、強力な魔獣であり、命を落とす者の方が多いと聞いていた。

 本来はキソニアにある高地に住み、滅多に平地には降りてこないはずだが、何故かここにいる。 

 その雪豹の群れは少し高い所から見下ろしている。


「逃げるわよ!!」

「ええ!!」

「待ってよ!!」


 コウキを囲んでいた彼女達は自身の乗って来た馬に戻り乗るとすごい勢いで逃げて行く。


「はあ、なんだろう? でも、どうしてだろう? 敵意はないみたいだけど自分に用があるのような気がする」


 コウキは雪豹を観察する。

 そして、気付く。

 一番後ろの雪豹に誰かが乗っている。

 知っている者だった。


「コウ!」


 誰かを乗せた雪豹がやってくる。

 他の雪豹は


「えっ!? サーナ様!? どうしてここに?」


 コウキは驚く。

 雪豹に乗って来たのはサーナであった。


「迎えに来たよ、コウ!」



 


 先ほど大勢いたケンタウロス達がいた場所。

 そこにいるケンタウロスはボルツだけであった。

 先ほどまで勝負していたバサーシは行ってしまった。


「俺もここまでか……」


 ボルツは足を引きずりながら歩く。

 バサーシとの戦いで足に傷を負い、走れなくなってしまったのである。

 怪我をしたのは足だけではない。

 全身傷だらけである。

 バサーシに負け、ボルツが属していた部族はバサーシの部族に吸収された。

 部族の仲間達のようにバサーシに忠誠を誓えば生きる事もできただろう。

 しかし、ボルツはそれが出来なかった。

 そのため、ボルツはただ1匹の部族になったのである。

 だが、その部族も、もうすぐ消える。

 ボルツは足を石に取られ倒れる。 

 起き上がる事はできそうにない。


「くくく、これで最後か……。バサーシよ。先に行っているぞ」


 ボルツはそう呟く。

 周りには誰もいない。

 これが敗者となった男の末路であり、誰にも知られる事なく土へと消える。

 それが世界の理なのであった。





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 限定近況ノートによるシェンナ外伝の最終話も更新しています。

 余裕がある方は見に来てくれると嬉しいです。


 そして、ヴァルチャグ。

 ハゲワシ型の鳥人バードマン

 これは自分のオリジナルモンスターだったりします。

 名前はヴァルチャーから。

 屍肉を好むところがグールと似ています。

 元ネタは色々あり、混ぜ合わせました。


 本来ハゲワシは生態系を綺麗に保つ重要な存在らしいですが、屍肉を食べるところから忌み嫌われた過去があるそうです。

 

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