第10話 レーススタート
スタート地点に多くの
いずれもそれぞれの部族の英雄であるためか強そうであった。
そんな中にいるとコウキは華奢である。
並んで走れば小さなコウキは踏みつぶされてしまいそうな印象すら受ける。
だが、コウキは周囲を恐れる事すらなくケンタウロス達の中で堂々としている。
チユキはそんなコウキを少し離れた丘の上から見守る。
コウキがいる位置はレースに参加する者しか入ることができず、ここから先は見守るしかない。
「大丈夫かな? コウキ君?」
戻って来たシロネがコウキを見て言う。
レーナとの会談ではこのキソニアの向こう側にあるワルキアの地での異変が起きたようだ。
だが、明確に何が起きたのかわかっていない。
エリオスの天使達が調査中であり、それがはっきりわかってから動いても良さそうだ。
もしかすると酷い事になっているかもしれない。
だが、チユキとしては仲間の安全が大事であり、すぐに動くべきではないと判断したのである。
「確かに心配ですわね。怪我をされるかもしれませんもの」
キョウカも心配そうに言う。
キョウカはいつもと違い、このケンタウロスの妻や娘が着る伝統的な衣装を着ている。
他の地域と同様に女性は縫物をするのが一般的である。
ケンタウロスは服を着ないが、装飾品は身に着け、また自身や子どものためにケンタウロスの妻となった人間の女性は衣服を編む。
そして、結婚等の大事な時の衣装も自身で作ったりする。
結婚衣装は金糸や銀糸を使われたりしてかなり豪華である。
また、結婚衣装程ではないが、外貨を得るために豪華な毛織物を編むこともある。
キョウカが着ているのはそんな外貨を得るためにケンタウロスの部族の女性が編んだものだ。
キョウカは気に入りかなり買い込んだようだ。
「確かに心配ですね。このレース、武器を持っても良いらしいので途中で襲ってくる者もいるかもしれません」
キョウカの後ろにいるカヤも頷いて言う。
このレースは他者の力を借りず、空を飛ばなければ途中で何をしても許される。
キソニアには危険な地域もあるので武器の携帯も許される。
道中何をされるのかわからなかった。
「むう、コウ……」
言われてサーナが心配そうな声を出す。
その表情を見てチユキはしまったと思う。
サーナを心配させてしまったようであった。
「大丈夫だろう。何と行ってもリノが大丈夫と言っていたのだからな」
レイジは串焼きを食べながら言う。
この地域は農業が発展しておらず、ケンタウロスは遊牧をしながら生活をしている。
家畜としているのは主に羊と山羊であり、その肉はケンタウロスの重要な食事となる。
つまり、ケンタウロスは馬と違い雑食なのである。
ただし、食べるのは馬を除く草食動物だけなので人を食べる事はない。
馬は家畜ではなく、部族の仲間であるので肉を食べる事はない。
だが、肉は食べないが乳は別であり、加工して酒にする事はある。
それが、ケンタウロスの食文化であった。
レイジが食べているものは羊肉を焼いたもので、この祭りで供された物だ。
レースに出場した者達が戻るまで、ここで様々な催し物が開かれる。
屋台もその一環であり、レイジはその催し物を楽しんでいる。
欠片も心配している様子はない。
その姿を見てサーナは少し安心する。
「サーナ。大丈夫よ。コウキ君は必ず無事に帰ってくるわ」
サホコがサーナの頭を撫でる。
「そうっすよ。大丈夫っすよ。コウキ君は」
ナオも頷く。
「そうそう。それに、もしあのケンタウロスが何かするようなら、リノがひっどい呪いをかけて上げるよ」
リノが笑って言う。
チユキはそれを聞いて苦笑する。
リノは可愛い顔してかなりえぐい事をすることがある。
ケンタウロスが可哀そうになりそうだった。
(まあ、多分大丈夫だろうけど、私も少し心配かな。何事もなければよいのだけど)
チユキはコウキを見て無事に帰ってくることを願うのだった。
◆
多くのケンタウロスが集まる中でコウキは静かに始まりを待つ。
(折角ここまで連れて来て下さったのだ。全力を出さないと……)
馬に乗れないコウキのためにチユキ達はわざわざキソニアまで連れて来てくれたのだ。
だから、何としても黄金馬を見つけようと思ったのである。
ケンタウロスはこのキソニアの事をよく知っているはずである。
黄金馬の居場所を知っている者やまたはもしかするとケンタウロスの部族の中には黄金馬がいるかもしれない。
この競争に勝てば情報や黄金馬を要求できるだろう。
だからこそコウキはこの催しに参加したのである。
絶対に勝たねばならなかった。
コウキは周りのケンタウロスを見る。
いずれもそれぞれの部族の英雄だ。
部族で参加出来るのは最大5名までであり、それぞれ協力して進むことも許される。
コウキには仲間がいないのでその手を使う事はできない。
そもそもバサーシの計らいでコウキのみ参加が許されている状況だ。
それを受けたのはコウキであり、その事を卑怯とは思わない。
競争自体に不正がないのなら受けてたつだけだ。
そんな時だったコウキの周囲が騒がしくなる。
振り向くと特に大きなケンタウロスがこちらに歩いて来ているのが見える。
間違いなくバサーシであった。
ケンタウロス達はバサーシが来るとその場を退き、コウキまでの道を作る。
バサーシは前回の優勝者であり、他のケンタウロス達が畏れを抱いていることがよくわかる。
「どうやら逃げずに来たようだな。まあ勇者の仲間であるのなら当然か、それにしてもその姿は? 魔法か?」
バサーシはコウキを見下ろして言う。
「そうだよ。問題ある?」
「いや、ないな。二本足だと勝負にもならないだろうから、これで少しは楽しめるだろう」
「そう、それなら良かった」
コウキは少し安心する。
これでケンタウロスの姿になった事で後から文句は言わせない。
「しかし、これで俺が勝ったら、貴様から何を貰おうかな? そうだな勇者の娘が良い。きっと大きくなったら美しくなるだろうな」
バサーシは意地悪そうに言う。
「それは無理だよ。サーナ様は自分のものじゃない。渡すことはできないよ」
コウキは眉を顰めて言う。
「それはどうかな? 貴様を打ち負かせば勇者も俺に娘を与えようと思うかもしれん。まあ、無事に帰ることができないお前には関係ない事だがな」
「どういう意味?」
「ここから出発したら、誰もお前を守る者はいないという意味だ。ここから出発したら勇者達はお前を助ける事はできんからな。果たして生きて帰れるかな?」
そういうとバサーシは周りを見る。
ケンタウロス達がコウキを見ている。
それは獲物を見ている眼であった。
「さて、これで貴様と話すのはこれで最後だ。安易に参加した自身を呪うのだ」
そう言ってバサーシは去る。
コウキは腰の剣に手を添える。
この剣は唯一コウキが持っている武器だ。
ここから出たら、何が起きるかわからない。
チユキ達の助けも借りられない。
コウキは覚悟を決めるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新。
さあ、スタートです。
馬乳酒を飲んでみたいですが、近くで売っているところがないので通販に頼るしかなさそうです。
とりあえずカルピスで代用。
実は色々とモンスターのイラストをAIで作成しています。
暗黒騎士物語のイラスト入りモンスター図鑑等を作りたいのですが、いつカクヨムはイラスト挿入ができるようになるのでしょうかね(-_-;)
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