第4話 キソニア平原へ

 キソニア平原は中央大陸で最大の平原である。

 広大なミノン平野とバンドール平野よりもはるかに広く、中央大陸でもっとも広い地域である。

 だが、ミノン平野やバンドール平野と違って人はあまり住んでいない。

 広大な草原地帯であり、農業に向かず、また城壁を作れる場所も少ないからだ。

 このキソニア平原に多く住む人型種族はケンタウロスやサテュロス等の蹄の民と狼人等の牙の民である。

 特にケンタウロス達の勢力がもっとも大きく、キソニア平原でもっとも繁栄した種族といえるだろう。

 ケンタウロスは人間と交易する事もあれば略奪をしにくる事もあり、常に友好的とはいえない。

 彼らはエルフを超える弓が得意な種族であり、平野で戦えば人間は敵わない。

 草原が広がるキソニア平原で人間が少ないのもそれが理由の1つだったりする。

 しかし、それでもキソニア平原にはわずかだが人間の国がいくつかあり、コウキ達はまずそこに向かう事にするのだった。



 コウキは空舟スカイボートに乗り空を行く。

 空舟スカイボートは速度が遅く、高く飛べないが鷲馬ヒポグリフと縄でつなぐ事で高さと速度を出す事ができる。

 この空舟スカイボートはかなり大きく、コウキとサーナだけでなく、サホコとキョウカとカヤが乗ってもまだ余裕があった。

 ちなみにナオはこの空舟スカイボートを引っ張っている鷲馬ヒポグリフに乗り、同行しているレイジは天馬ペガサスに乗り、チユキとリノは鷲獅子グリフォンに乗っている。

 シロネは自前の天使の翼で飛び、全員で空舟スカイボートを囲むように飛んでいる。

 久しぶりの勇者達の全員での外出であった。

 最近のエルド周辺の魔物はギルフォス達の活躍でほぼいなくなり、エルドの運営も部下に任せても大丈夫のはずであった。

 もちろん、何かあったら転移魔法ですぐに戻るだろう。

 空舟は屋形舟のような作りであり、コウキは窓から外を見る。

 今飛んでいるのはカウフ山地の上空らしかった。

 カウフ山地は聖レナリア共和国やエルドがあるバンドール平野とキソニア平野の間にあり、キソニア平野に行くにはこの上空を通るのが一番の近道であった。

 またカウフ山地はドワーフが沢山住んでいる地であり、良品を求めて多くの商人が訪れる。

 その商人の中には良馬を求めてキソニア平原に向かう者もいたりする。

 まずはその馬商人が集まる数少ない人間の国に行く予定であった。


「ううん」


 コウキの太ももに頭を乗せ寝ているサーナが動く。

 移動中は退屈なので寝てしまったのだ。

 そんなサーナの様子をサホコは微笑ましく見ている。

 サーナはサホコがいるのにコウキの所に来る事が多い。

 サホコはそれを特に問題だと思っておらず、コウキを信頼しているのか任せている。


「カヤ。目的地はあとどれくらいですの?」


 同じように退屈に思っているのかキョウカがカヤに聞く。


「お嬢様。今はカウフ山地の上空です。もう少しでキソニア平原の東端にあるスーファ湖に到着しますよ」


 カヤはそう説明する。

 すでにバンドール平野を出てかなりの時間が経過している。

 カウフ山地を超えるだけでも数カ月かかる事を考えたら、かなりの速さであった。

 途中何度も休憩を入れていても、この速さである。

 これなら長期間騎士団を離れる事もないだろう。


「スーファ湖? そこが目的地ですの?」

「いえ、正確にはその沿岸にある国です。確かサホコ様は何度か行った事があるのでしたよね」


 カヤはサホコを見る。


「う~ん、そうよね。レイ君達と何度か来たわ。一番最近は鷲獅子グリフォンを捕まえる時かな? でもそれも結構前かも」


 そう言ってサホコは懐かしそうにする。

 勇者レイジが来てからかなりの時が流れている。

 コウキは何年前の事だろうかと考えるのであった。



 ナルゴルの地、魔王の住居の近くにはクロキのために与えられた館がある。

 クロキはそこで火ねずみのナットと会う。


「まさかディアドナがここに来るなんてね……」


 ナットから報告を聞いたクロキは驚く。

 ディアドナはモデスと敵対こそしていないが、方針の違いから友好関係でもない。

 ディアドナはこの世界の破滅を目的としていて、モデスはこの世界の破滅を望んでいないからだ。

 そのディアドナがモデスと友好関係を結びたいと言う。

 どういうつもりだろうか?

 世界の破滅をさせる事をやめたのだろうかとクロキは考える。

 正直信じられないはなしである。


「はい、そうでヤンス。この話を聞いた方々は皆閣下と同じように信じられないという感じでヤンス」


 ナットはそう言って頷く。

 確かにそうだろう。

 にわかに信じられない事であった。

 

「そうだろうね。おそらく何か企んでいるじゃないかな」

「はい、そんな感じがするで、ヤンス。それでなので、ヤンスが、閣下にも蛇の女王が来た時に同席して欲しいとの事でヤンス」


 ナットはそう伝える。


「わかった。日時は決まっているのかな?」

「はい、2カ月後に来るらしいでヤンス。少し時間があるそうなのでもし気になる事があったら教えて欲しいでヤンス。調べてみるのでヤンス」

「ああ、わかったよ、ナット。何か気になる事があったら教えるね」

「はいでヤンス。それではお暇するで、ヤンスよ」


 ナットはそう言って館から走りさる。

 ナットが去り、館の部屋にはクロキとクーナのみが残される。 


「まさか、ディアドナがね、どう思うクーナ?」


 クロキはクーナを見る。

 クーナはこの館にずっといる。

 子どもであるリウキに会いに行く気はないようだ。

 モーナもそうだが、それがクーナの特性でどうしようもない事なのだとクロキは気付く。

 愛する対象が絶対に定められているため、どうしてもそれ以外の愛情が薄くなるのだ。

 また、リウキには多くの者が付いているので問題はないとクーナが思っているのかもしれなかった。


「間違いなく何か企んでいるだろうな。来たら殺しておいた方が良いぞ、クロキ」

 

 クーナは物騒な事を言う。


「いや、さすがにそれはしないだろうね」


 クロキは苦笑する。

 敵対しているエリオスの神々すら見逃している。

 友好を求めてきた相手を殺すような事をモデスはしないし許さないだろう。


「そうか、それでは後で問題が起きるぞ」


 クーナは眉を顰めて言う。

 確かにそうだろう。

 彼女は何かを企んでいるだろうと思うのだ。

 もちろん、世界の破滅を諦めて普通に友好を求めて来ている可能性もある。

 しかし、用心はしておくしかない。


「確かにそうだろうね……。でも友好を求めて来た相手を殺すのは自分もしたくない」


 クロキは窓から外を見て言う。

 常世のナルゴルの地の空。

 今日は月が瞬いている。


「そうか、クロキがそう言うのなら、クーナは従うぞ……」


 クーナは少し不満そうに言う。

 だが、クロキはそれを変える事はできなかった。


「そう、ありがとう。クーナ」

「はあ、それも含めてクロキだからな……。ああ、そういえば、クロキ。話は変わるが実は気になる事が別にあるぞ」


 クーナは今思いついたように言う。


「気になる事。何? クーナ?」

「勇者達が動いている。既にバンドール平野を出たようだぞ。しかも、コウキも一緒のようだ」


 それは気になる情報であった。

 しかも、コウキも連れている。

 どこに向かっているのだろうか?


「えっ、レイジ達が? コウキも連れて? どこに行っているの?」

「行き先はキソニア平原のようだな。つい先ほど連絡が来た」


 クーナはそう伝える。


「キソニア平原? 何をしに向かったのだろう?」

「それはまだわからない。蛇の女王が来るまで少し時間がある。どうする、クロキ?」

「う~ん。どうするかな。 確かめる必要もあるかもしれないし……」


 キソニア平原は人間があまり住んでいない土地であり、エリオスの神々の支配下にない。

 あの地のほとんどを支配しているのはケンタウロス達が崇める馬の神達だ。

 その中にはモデスの盟友もいる。

 ディアドナが来るまで時間がある。

 様子を見に行くべきかもしれなかった。

 クロキはどうすべきか迷うのだった。

 

 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 久しぶりのナット登場です。

 もっと、登場させてあげたいとも思っています。

 

 明日限定公開ノートによる外伝を上げる予定なので見に来て下さると嬉しいです。

 

 

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