第25話 嵐の剣

 凄まじい嵐の中心は静かで風が吹かない。

 コウキは過去にそう聞いた事がある。

 バンドール平野の遥か東には嵐の海があり、そこから嵐は来るらしく何度かエルドを襲った事がある。

 大きな嵐に中心があるとかコウキはあまり考えた事がない。

 なぜ、今そんな事を思い出すかと言うと

 目の前の暗黒騎士の戦い方がそんな感じだからだ。

 暗黒騎士と蛇の王子ダハーク、そして鮮血の姫ザファラーダとの戦いは今も続いている。 

 中心にいる暗黒騎士の動きは小さく、ほとんど動いていない。

 それに対して周囲を動くダハークとザファラーダは激しく踊るように攻撃している。

 まさに嵐のようであった。

 その戦いの衝撃波により、屋根は吹き飛び、柱は壊れ部屋は崩壊している。

 コウキはテリオン達と共に何とか部屋の隅へと移動して戦いを見守る。


「何だ! ありゃ! あの蛇野郎が全く歯が立たねえじゃねえか!?」


 テリオンは驚いた表情で言う。

 テリオンの言う通り、戦いは一方的だ。

 ダハークとザファラーダの猛烈な攻撃は暗黒騎士に届いていない。

 暗黒騎士は時々軽く反撃して、相手を突き飛ばしたり、地面に叩きつけたりしている。

 圧倒的な実力差があった。

 コウキとテリオンが共闘しても勝てなかったダハーク。

 そのダハークが全く敵わない相手がいる。

 驚くのも当然であった。

 驚いているのはテリオンだけではない。

 周囲の狼達も驚いている。

 

「獣神子様~。まだ動いちゃダメですう~」


 ハヤがテリオンを止める。

 テリオンは足を撃ち抜かれ、ハヤの治癒魔法を受けていた。

 かなりの怪我だったのでまだ動くべきではない。


「ふん、これぐらい、大丈夫だ! もう動ける!」


 そう言うとテリオンは立ち上がる。

 見ると足の怪我が完全に治っている。

 とんでもない回復力だ。


「もう大丈夫なの……? テリオン」

「ああ、もう大丈夫だ? しかし、なぜ暗黒騎士は本気を出さない? 何故だ?」


 テリオンは不思議そうな顔をする。

 テリオンの言う通り暗黒騎士は本気を出していない。

 暗黒騎士はダハークやザファラーダの遥か上を行く力を持っている。

 簡単に両者をすぐに倒せるだろう。

 戦いが続いているのは暗黒騎士が本気を出していないからだ。


(どうしてだろう。あの動きは……。似ている……)


 コウキは暗黒騎士の動きを見る。

 前にも同じような動きを見た事がある。

 コウキが理想とする剣。

 どうして、暗黒騎士が同じ技を使えるのか不思議に思う。


「やばい! 避けろ!」


 イカヅチが突然叫ぶ。

 衝撃波で崩れた柱の残骸が飛んで来たのだ。

 だが、コウキは動かない。

 避ける必要がないからだ。

 コウキ達に飛んで来た大きな柱の残骸はぶつかる寸前で黒い炎によって塵となって消える。

 柱が瞬時に消えた事で狼達は驚きの声を出す。


(蛇の王子達と戦いながら、こちらも守ってくれている……)


 コウキは暗黒騎士の背中を見る。 

 その背中に過去の事を思い出すのだった。



 レーナは暗黒騎士であるクロキとダハーク達の戦いを見る。

 一応離れているが、先程のコウキとダハーク達との戦いよりも衝撃波はこちらに来なくなった。

 クロキはダハーク達と戦いながらレーナやコウキ達に被害が出ないように立ち回っている。

 かなりの実力差がなければ出来ない事だ。


(さすが、クロキね)


 レーナは心の中で笑う。

 クロキならダハークとザファラーダが共に向かって来ても問題はない。

 別にダハーク達が弱いわけではない。

 ダハークは神々の中でもかなりの実力者であり、あのアルフォスでも今の彼に勝つのは容易ではない。

 つまり、クロキが強いのだ。

 さすがと言うべきであった。


「巫女様。ど、どうにかして脱出しないと……。私達も巻き添えになります」


 後ろにいるルクレツィアが不安そうに言う。

 不安になるのも仕方のないだろう。

 先程のコウキ達との戦いよりも激しくなっている。

 屋根は完全に吹き飛び、柱が壊れ、壁もなくなっている。

 普通なら巻き添えになると思うだろう。

 側にいる騎士達も不安そうにしている。

 レーナが依り代にしている巫女を守るためなら命をかけるだろう。

 だが、その必要はないとレーナは断言できる。


「そこまで心配する必要はありません。これだけ離れていれば大丈夫でしょう」


 レーナはクロキから目を離さずに言う。

 実は先程よりも安全なのである。

 何しろクロキが表に出て来たのだ。

 先程までは隠れて力を使いダハークの動きを制限していた。

 ダハークも普段より体が重く感じていたであろう。

 しかし、表に出て来た以上は全力で力を使えるはずであった。

 

(だけど、ちょっと気になるわね……。何でダハークやザファラーダを殺さないのかしら? クロキなら簡単にやれるはずなのに……)


 レーナはもどかしく思う。

 クロキはダハークとザファラーダをなるべく傷つけないように戦っている。

 それが不思議であった。


(もしかして、何か別に理由がある? うん、あれは?)


 クロキ達が戦っている後方にいる者の存在にレーナは気付く。

 仮面で顔を隠しているが、仮面の奥から発せられる眼光は隠しようがない。


(嘘……? あれが来ているの? だから、本気が出せない?)


 いくらクロキでも、あの女が相手に加わったら厳しい戦いになるだろう。

 場合によっては後ろの騎士達を犠牲にコウキを連れて逃げる事を考えるのだった。



 クロキは剣を振るう。

 ダハークとザファラーダはコウキとテリオンのように連携が取れていないので、思った以上に戦い易かった。

 問題なのは離れてみている、あの者である。

 後ろから鋭い眼光でクロキを睨んでいる。

 ダハークとザファラーダを殺す素振りを見せれば速攻で参戦してくるだろう。

 そこにダハークとザファラーダを加えたら勝つのは難しい。

 あくまで言いつけを守らなかったダハークに対するお仕置きに留めなければならない。

 クロキは出来る限り力を使わずに、ダハークの槍を受け流す。

 ダハークの槍は鋭く、鞭のように曲がって動く。

 しかし、正確にクロキを狙っているので予測は可能だ。

 小さく動き間合いを誤魔化す事でダハークの槍はクロキに当たる事はない。

 ザファラーダは近接戦が苦手なのか、少し距離を取って魔法で攻撃してくる。

 だが、中途半端な魔法程度なら簡単に防げる。

 強力な魔法はダハークを盾にするように動く事で使わせないようにする。

 

「ザファラーダ! どこを狙ってやがる!」

「そんな事を言っても! ダハ君が邪魔で狙いにくいのよ!」

 

 ダハークとザファラーダは罵りあいながら戦う。

 結果としてさらに連携が取れなくなっているのをクロキは感じる。


(まだか? いい加減面倒臭くなってきたんだけど……)


 クロキは後ろにいる者の事を考える。

 彼女はずっと様子を見ているだけだ。

 もしかするとクロキを殺すつもりなのかもしれない。

 もし、そうなら全力を出さなければならないだろう。

 クロキは策を巡らせる。

 外に待機しているクーナとグロリアスを呼び。

 この国を覆っている魔法の結界を打ち破る。

 そうすればエリオスの神々が動く。

 すると彼女にとって危険な状況になるだろう。

 だが、それは最終手段である。




「やめよ!!! ダハーク!!!」





 クロキが策を巡らせている時であった。

 後ろから鋭い眼光を放っていた者が大声を出す。


「えっ……、その声は……?」


 その声を聴いた瞬間ダハークは手を止めると声を出した者を見る。

 ザファラーダも信じられないという目で声の主を見る。


(やっと……。出て来たか……)


 クロキも魔剣を下げる。

 まだまだ気は抜けないが、おそらく戦いはこれでおわりであろう。


「母の言いつけが聞けなかったようだな……。残念だぞ! ダハーク!」


 歩いて近づいて来る鋭い眼光を放っていた者の身体が大きくなる。

 仮面は外れ、床に落ち、衣服が破れ落ちる。

 その場にいる全員が変わっていく様子を驚きながら見守る。

 青白い肌に髪は蛇、頭の左右に角が生え、下半身は巨大な大蛇へと変わり、鋭い邪眼を持つその女性が姿を現す。


 蛇の女王ディアドナ。


 そう呼ばれる異形の女神が姿を現したのであった。



 

 

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 限定近況ノートで暗黒騎士物語の外伝も更新しています。

 見に来て下さると嬉しいです。


 最後に【推しの子】も1期が終わり、次は何を見ようか迷います。




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