第20話 テリオン対ギルフォス


 

「ぐわああああああああああ!!!」


 ギルフォスが叫び声を上げて吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたギルフォスはそのまま背後の壁にぶつかるとそのまま床に落ちて倒れる。

 レーナや騎士達は信じられないという表情で倒れたギルフォスを見る。

 ギルフォスとテリオンは互いに剣を抜き、剣を交えた時だった。

 ギルフォスはテリオンの剣を受け止めきれず吹き飛ばされたのである。


「えっ!? それで終わりなのか? 嘘だろ……」


 驚いているのはテリオンも同じのようだ。

 追撃せずに呆けた表情で立っている。

 レーナも驚いている。

 ギルフォスはアルフォスの最近の子の中で特に優秀である。

 アルフォスも期待しているのか魔法の剣をギルフォスに授けている。

 それが、簡単に吹き飛ばされたのだ。

 ギルフォスはここにいる騎士達が束になっても敵わない腕力を持っている。

 そのギルフォスを吹き飛ばしたのは同じような少年の姿をした者だ。

 巨大な剣を片手で軽々と振るっているところから見ても普通の少年ではない事がわかる。


「ぐ……。まさか、これ程とはね……。油断したよ」


 ギルフォスが立ち上がり、前へ出てくる。

 戦意はまだなくしていないようだ。

 だが、その表情には少し焦りが見える。

 実はレーナはギルフォスを子どもの頃から知っていた。

 

 神の子ギルフォス。


 聖レナリア共和国の西にあるアルク王国の王妃メネリアの子である。

 ただし、父はアルクの王アムピスではなく歌と芸術の神アルフォスであった。

 メネリアは人の身でありながら女神のように美しかった。

 そんなメネリアが神の目に留まらないはずがなく、アルフォスに言い寄られ一夜を共にして身ごもった。

 神を前にしては夫のアムピスもどうする事もできず、自身の子として育てる事になった。

 ギルフォスは幼い頃から美しく、腕力、魔力も強く、5歳の頃には誰も彼に敵わなかった。 

 騎士団に入る前には既に凶悪な魔獣を1人で倒し、従騎士になってからは騎士団で彼に勝てる者は最初からいなかった。

 そんなギルフォスに女神として加護を与えてくれとアルフォスから頼まれているのである。

 この世界はエリオスの神々が支配するべきであり、眷属である人間が地上を支配する。

 それがエリオスの神々の目指すべきことであり、レーナは知恵と勝利の女神として数々の勇者を支援してきた。

 ゴーゴンの首を落とし、海の魔獣ケートスを倒した勇者、竜を倒した不死身の英雄等、手を貸した勇者は数知れない。

 ギルフォスも勇者の資質があり、育てば人々の守り手となるだろう。

 性格がアルフォスに似ているのが問題だが、歴代の勇者は大体同じような性格をしているので、問題にするつもりはなかったりする。


「そうか、油断か? だったら本気で来いよ。後ろで見ている奴らにわかるようにな」


 テリオンは挑発すると仲間達に後ろに下がるように言う。

 一騎打ちをしてくれるようだ。

 白鳥の騎士達も後ろに下がる。

 再びギルフォスとテリオンが向かい合う。


「もちろんだとも、ここからは本気だ! 出て来い、シルフ達よ!」


 ギルフォスが叫ぶとその体から風が吹いてくる。

 風の下位精霊シルフを呼び出したようだ。

 力で敵わないので速さで勝負するつもりのようである。


「行くぞ! 加速!」


 ギルフォスは動く、風に乗り、その速度を目で追うのは難しい。

 テリオンの部屋を縦横無尽に駆けるとテリオンの後ろから魔法を仕掛ける。 


「七列風刃斬」


 7つの風刃ウインドカッターがテリオンを襲う。

 だが、その刃はテリオンを前にして霧散する。


「悪いけどよ。こちらも呼ばせてもらったぜ」


 テリオンがそう言って笑うと冷気と共に雪狼スノーウルフが現れる。

 テリオンは氷の精霊である雪狼スノーウルフを呼び出して周囲に透明な氷の壁を作っていたようだ。

 

「今度はこちらから行くぜ!」


 テリオンが大剣を掲げてギルフォスに向かう。

 

「ふん、そんな物が当たる……、何!?」


 ギルフォスが驚く。

 距離を取ろうとしたが、氷の結晶によって後ろを塞がれたのである。


「おらああ!」


 テリオンは大剣を振るう。

 ギルフォスは身を屈め何とか躱す。

 

「くそ! こんな事でこの僕が! やられてたまるか! シルフ達よ!」

「させるかよ! 行け雪狼スノーウルフ共!」


 ギルフォスはシルフ達に攻撃させようとするが雪狼スノーウルフに阻まれる。


「くっ! ならば望通り正面から戦ってやる! 氷が使えるのは君だけじゃないぞ!」


 ギルフォスの剣が光る。

 氷の魔力を帯びた剣はテリオンの氷の壁を打ち消しながらテリオンに迫る。


「ほう、向かって来るかよ! その方が楽しいぜ!」


 ギルフォスの剣をテリオンは迎え撃つ。


  剣戟の音が鳴り響き、ギルフォスとテリオンの攻防は続く。

 明らかにギルフォスの方が劣勢であった。

 ギルフォスの方が手数が多い。

 しかし、その全ては防がれている。

 

「くそ! くそ! くそ! 獣風情が!」


 ギルフォスは剣を素早く何度も振るう。

 アルフォスの剣に似ている剣技は鋭い。

 だが、テリオンの守りを破る事は出来ない。

 テリオンの様子から見ても余裕のようだ。


「この程度か! 今度はこちらから行くぜえ!!」


 テリオンが大剣を振るう。

 ギルフォスは何とかそれを受け止めようとする。

 しかし、テリオンの一撃はかなり重たいらしく、後ろに吹き飛ばされる。


「があっ! はあ!!」


 ギルフォスはレーナ達を飛び越えそのまま後ろの壁にぶつかり、そのまま倒れる。


「ギ、ギルフォス……?」


 騎士達が驚きの表情で倒れたギルフォスを見る。

 ギルフォスは白目になって倒れている。

 今度は起き上がる気配はない。

 ギルフォスの負けであった。


「少しはやるようだが、ここまでだったなあ。それじゃあ巫女は貰っていくぜ。この俺の為に働いてもらう」

  

 テリオンがこちらに近づく。

 

「み、巫女様を守れ!」


 白鳥の騎士の隊長が叫ぶと盾を構えてテリオンを防ごうとする。

 そんな時だった。


「お待ちくださいでしゅ!!」


 小さな影がテリオンの所へと走ってくる。

 影は途中で躓き、転び、滑りながらテリオン前へと来る。


「うん、何だ? お前?」


 テリオンは小さな影を見下ろして言う。

 影は真っ白い髪をした少女のような姿だ。

 ただし、普通の人間とは違い、狼の耳が生え、狼の尻尾が生えている。

 明らかに狼の眷属であった。

 

「わ、わちきはハヤと申しますでしゅ! 獣神子様! 遠いネウロイの地からカジーガのお婆様の言いつけて迎えに来たでしゅ!」


 ハヤと名乗った少女はガバッっと起き上がるとそう言う。


「何!? あのカジーガの? 若、どうやらこのちっこいのは我らの同胞のようですぜ」


 テリオンの後ろにいた狼人が前に出て来て言う。


「カジーガ? 聞いた事があるな……。確か優秀な白狼の巫女だそうだな?」


 テリオンはハヤを見て言う。 

 その瞳はかなり懐疑的であった。 


「そうでしゅ! そんな人間ヤーフの巫女なんか必要ないでしゅ! このハヤが獣神子様を導くでしゅよう! 後、ちっこいは余計でしゅ」

 

 テリオンの懐疑的な瞳には気付かないのかハヤは胸を張って言う。

 ハヤの背丈はテリオンよりもさらに小さい。

 ちっこいと言われても仕方がないだろう。

 

「巫女様! みんな!」


 ハヤが駆けて来た方から誰かがレーナ達の方へと来る。

 レーナが見間違うはずがないコウキであった。

 実はコウキとハヤは少し前にこの広間に辿り着いていたのだ。

 しかし、テリオンとギルフォスが激しく戦っていたので近づけなかったのである。


「従騎士コウキ!? 無事だったか!?」


 騎士の1人が声をかける。


「はい、何とか追いつきました。早く脱出しましょう。ここは魔物の巣窟です」


 コウキは辿り着くと報告する。

 騎士達は顔を見合わせる。

 狼人達の狙いは巫女であった。

 しかし、新たな狼の巫女が現れたのなら、もはやこちらを襲う理由はないはずであった。

 トールズの戦士ならば魔物を相手に逃げる事はしないが、レーナ信徒は無駄な戦いはしない。

 必要なら撤退だってするのだ。

 

「あの、隊長殿……。奴らの狙いが、巫女様でなくなったのなら……。退却も可能かも」

「それは難しいぞ、フリョン。目の前にいる奴らだけならな……。だが、やるしかないな」


 隊長は周囲を見る。

 その通りだ、敵は狼だけではない。

 すでにかなりの数に取り囲まれている。

 そして、やっかいな事に蛇の王子も来ているのだ。

 脱出は難しいだろう。


「待ちな!」


 突然テリオンがレーナ達を見て言う。

 その表情は笑っている。


「確かコウキだったよな。お前もう一度俺と戦え。もし、俺に勝てたならここから出るのを手伝ってやる」


 



★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 日曜日中に更新間に合いませんでした……。

 次回はもう一度コウキ対テリオンです。


 限定近況ノートによる外伝も更新しました。

 ゴズのイラスト付き。でもゴズのイラストには不満点がいっぱいあるので後で差し替えるかもしれません。

 





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