第18話 蛇の巣
部屋の中でルクレツィアは倒れた巫女メリニアを見る。
メリニアは倒れたまま目を覚まさない。
しかし、このまま目を覚まさない方が良いかもしれない。
今ルクレツィア達が置かれている状況は良くない。
ルクレツィアは部屋の外にいる者の気配を感じる。
外にいる者達はルクレツィアを監視しているようであった。
扉も締められ外に出る事は出来ない。
メリニアを休ませるために部屋に案内された。
そこまでは良かった。
しかし、その後、アソヴィアが騎士の様子を見に行くために部屋を出ようとしたら、扉が締められ出られないようにされていたのだ。
理由はわからない。
だが、良くない企みだろう事は想像できる。
武器は取り上げられていないが、窓もなく壁も強固だ。
人が通れない、小さい窓があり、厠があり、食べ物を差し入れるための小窓が部屋にある。
最初から閉じ込めるために作られた部屋のようであった。
部屋には同じように御付きの女性たちがいる。
彼女達も不安そうな顔をしている。
「全くいつまで閉じ込めておくのよ? はああ」
アソヴィアが不満そうに言う。
そう言いたくなるのも無理のない事であった。
彼女は他の御付きの女性よりも大丈夫そうであった。
モブーナ等はかなり不安そうにして顔が青ざめている。
騎士達とも別れ、戦闘訓練を受けていない者の方が多い。
まともに戦えそうなのはルクレツィアぐらいだろう。
どうにもならない状況である。
そんな時だった。
突然メリニアが上体を起こす。
突然メリニアが目覚めたのでルクレツィア達は驚く
「あまり、良い依代とはいえないけど……。まあ、仕方がないわね。結界で外からだと中の様子がわからないし。入ると気付かれるし。また、あの子の邪魔をするわけにもいかないものね」
メリニアはそう言うと自身の身体を見る。
明らかに様子が変であった。
「あ、あの……。メリニア様」
ルクレツィアはおそるおそる声を掛ける。
「ええと……。前にも見た顔ね。確か……ルクレナだったかしら?」
メリニアはルクレツィアを見て言う。
ルクレツィアはそれを聞いて驚き、少し間を置いて気付く。
目の前にいるのはメリニアではない。
いつも一緒にいるメリニアがルクレツィアの名前を間違えるわけがないからだ。
ではメリニアでないなら誰か?
それにも気付く。
「私の名前はルクレツィアでございます。ルクレナは私の祖母の名です。女神レーナ様」
ルクレツィアは跪いて答える。
周りの女性達は驚いた表情でルクレツィアを見ている。
ルクレツィアにはわかる。
目の前の女性は自身が仕えている女神レーナだと。
たまに神殿にいる時に感じる事がある圧倒的な気配。
それと同じものをメリニアの身体から感じたのだ。
女神レーナがメリニアを依り代にして降臨したのである。
「そうですか、ごめんなさいね、ルクレツィア。それでは行きましょうか、ギルフォ……騎士達と合流しなければなりません。支度をなさい」
レーナは寝台から出ると周りの者達に言う。
「は、はい。ただいま!」
世話係のモブーナが慌てて動き出す。
メリニアとは違う。
彼女もそれに気づいているはずだ。
しかし、逆らう事はできない。
女神の言葉には力があった。
モブーナは寝かせる為に脱がせていた上着を着させる。
「さて、行きましょうか」
外出用の格好になったレーナが扉へと向かう。
「えっ、あの巫女様……、扉は締まっているのですけど……」
事態が飲み込めていないアソヴィアが言う。
「構いません。こじ開けます」
レーナはそのまま扉に向かうと手をかざす。
すると、大きな音を立てて扉が吹き飛ぶ。
「な、何だ!?」
扉の外にいた者達が驚いて部屋に入ろうとする。
しかし、レーナの身体から出た電撃により一瞬で倒される。
「ひいっ!?」
モブーナと御付きの者達が小さく悲鳴を上げる。
倒れた者達の首から上が蛇になっている。
そう呼ばれる魔物だ。
蛇の女王を崇める種族であり、人に化ける事もある。
つまり、ルクレツィア達は蛇人達に閉じ込められていたのだ。
「ここは蛇の巣よ。貴方達は誘い込まれたの。驚いている暇はないわ行くわよ」
そう言ってレーナは歩き始める。
ルクレツィア達はそのレーナの背中に付いて行く。
「す、すご……。巫女様……。あんな力を持っていたの?」
アソヴィアが驚いた表情で言う。
そんなわけがない。
さすがにそこまでの力があるわけではない。
全ては降臨した女神の力である。
「うっ……」
突然レーナが膝を床に付ける。
「レーナ様!」
慌ててルクレツィアは駆け寄る。
「貧弱な身体……。少し力を使っただけで……。全くもう……」
レーナはルクレツィアの手伝ってもらいながら立ち上がる。
「あ、あの……。だ、大丈夫ですか、レーナ様」
「大丈夫です……。ルクレツィア。行きますよ……。あの子がここに来てしまった。まあ、クロキがいるから大丈夫でしょうけど……。とにかく私の目で見ないといけないわ」
レーナは立ち上がるとそう言って歩き始めるのだった。
◆
テリオン達は1の首の所へと来る。
だから実態は
その蛇の巣の奥へと通される。
石造りの強固な場所だ。
もっともテリオンならばぶち破る事も可能だろう。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたよ」
1の首は頭を下げる。
「ほう、そうか。俺はあまり来たくなかったがな」
テリオンはいやそうな顔をして言う。
先程から嫌な匂いがする。
その匂いはとても危険だ。
しかし、いきなり襲って来ることはないだろう。
間違いなくこちらよりも強い。
そんな相手がこんな回りくどい手を使ってくるのだ。
何か企みがあるに違いなかった。
「
「ただ、ですが? 何だ?」
「その御付きの護衛の
1の首は笑う。
その言葉にテリオンは嘘の匂いを感じる。
1の首は護衛とテリオンを戦わせたいのだ。
テリオンは面白くなかった。
戦うのは別に構わない。
だが、あくまで戦いは自身のために仲間のためにやるものだ。
誰かに戦わされるのは違う。
その誰かが何者か?
それを見極めるために来たと言って良いだろう。
「なるほどな……。案内しな」
テリオンは答える。
「ふふ、それでは案内いたしましょう」
1の首はそう言ってテリオン達を案内するのだった。
◆
「ここから入れそうだな……」
コウキは城壁が壊れている個所を発見する。
壊れている個所は小さいが、通れなくはない。
ここからなら、何とか入れそうだ。
「そうでしゅね。早く行くでしゅ。同胞の匂いを感じるでしゅよ」
ハヤはそう言ってさっさと中に入る。
どうやら大丈夫のようだ。
コウキは中に入る。
中には誰もいない。
見張りがいても良さそうなのにだ。
「何だろう……。誰かが助けてくれているみたいだ」
コウキは何者かの作為を感じる。
コウキとハヤは先へと進む。
「あれ、これは?」
そんな時だった。
コウキは厩舎に繋がれた馬を発見する。
「どうしたでしゅか?」
ハヤがコウキに近づく。
「仲間の馬だ。やっぱりここに皆がいるんだ。大丈夫だろうか……。探さないと。行こうハヤ」
ここは間違いなく危険な場所である。
コウキとハヤは互いに仲間の安否が気になる。
そして、周囲を警戒しながら先へと進むのだった。
★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
レーナも登場ですね。
さてお知らせがあります。
何とマグネットマクロリンクが2023年7月10日にサービス終了するようです。
最初にweb小説に投げ銭を実装し、書籍化しなくても作家になれる道を切り開いてくれたので、自分としては感謝しているサイトだったりします。
どこかでマグネットマクロリンクについてエッセイを書きたいと思います。
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