第16話 蛇の罠

 スノビヘ王国に来た白鳥の騎士達は一時くつろぐ。

 巫女を休ませる必要があり、目覚めるまでは休む予定であった。


「良いのでしょうか? こんな事をしていて」


 白鳥の騎士団に所属する従騎士ネッケスは騎士ホプロンに聞く。

 ネッケスの目の前では半裸の女性が躍っている。

 実はネッケス達はスノビヘ王国の女王ビヘンナの歓待を受けている最中だ。


「仕方があるまい。ネッケスよ。断れば礼を失する事になる」

「はい、確かにそうですが……」


 ホプロンの言葉にネッケスは納得できない。

 任務中だが折角の歓待の申し出であり、断れば失礼にあたる。

 そのため、隊長のヒュロスは受ける事になったのだ。

 仕方のない事なのかもしれないが、ネッケスは楽しむ気になれない。

 なぜならコウキを置いて来てしまった事が心に残っているからだ。

 そのため宴が楽しめないのだ。


「だが、それよりも、このような国があった事が驚きだ。街道から外れているからあまり来る者が少ないらしいのだが……。それにしても妙だ」


 ホプロンは考え込む。

 基本的に主要な街道は全てのバンドール諸国が共同で出した基金で整備され、そうでない街道は必要とする国が整備する事になっている。

 スノビヘ王国に繋がる道はスノビヘ王国のみしか必要としない。

 街道の整備には資金が必要であり、その資金が捻出できず街道の整備が遅れ、あまり人が寄り付かなくなったそうだ。

 そのため、この国を知る者は少ないそうだ。

 だが、それが変なのである。

 見た所スノビヘ王国はそこまで貧しい国に見えない。

 城壁も整備され、中の建物も立派であり、出されている食事もかなり豪華だ。

 これで金がないのというのは奇妙であった。

 閉じられた国でこれだけの豊かさを持つのは変でありホプロンを悩ませる。

 だが、考えても答えはでないようであった。

 ホプロンが悩んでいる時だった美しい女性が近づきネッケス達に寄り添いお酒を注ごうとする。


「申し訳がないが、今は任務中です。酒は遠慮いたします」


 ホプロンはそう言って酒を注ごうとする女性の手を止める。

 もちろんネッケスも同じようにする。

 ネッケスはホプロンの従者だ。主が断っているのに従者が飲む事はできない。


「まあ、それは奥ゆかしいのですね。うふふふ」


 女性は笑う。

 自身の酒を断られたのに怒る気配はない。

 女性は媚びるような瞳を向けるがホプロンが動じる気配はない。

 それを見てネッケスはホプロンをますます尊敬する。


(さすがはホプロン様だ……。皆がホプロン様のような騎士だったら良いのに)


 ネッケスは他の騎士達を見る。

 酒を飲む者の方が多い。それは隊長のヒュロスも同じ。

 また、同じ従騎士でも酒を飲み。だらしなく鼻の下を伸ばしている。


(ここに巫女様がいたらどんな顔をするだろうか?)


 ネッケスはそんな事を考える。

 巫女とその御付きの者達は別室にいる。

 参加しているのは男だけだったりする。

 ネッケスはこんな事をして良いのだろうかと思う。


「あのホプロン様。デイブス殿とノッポス殿を手伝いに行きたいと思うので行ってもよろしいでしょうか?」


 ネッケスはホプロンに聞く。

 この場に従騎士のデイブスとノッポスはいない。

 物資補充のため交渉に行っている。

 もしかすると何か役に立てるかもしれない。

 ネッケスはそう思ったのである。


「そうか、それは良い事だ。隊長殿には私から言っておく。行ってきなさい、ネッケス」

 

 ホプロンは優しく微笑むと了承する。


「ありがとうございます。ホプロン様」


 ネッケスはそう言うとこっそりと抜け出す。

 目指すは馬がいる厩舎だ。

 その近くに馬車があり、物資の搬入が行われているのならデイブス達はそこにいるだろう。

 ネッケスは廊下を歩く。


(それにしても変だな……。この城には女性ばかりだ)


 ネッケスは首を傾げる。

 女王が住む城は女性ばかりであり、男の姿が見えない。

 入って来た時に男の姿が見えたので男がいないという事はないだろう。

 どうも、男性は女性よりも下の地位にいるような感じだ。

 ネッケスはやがて厩舎の側まで来る。

 

「あれ、誰もいない……。どこにいるのだろう?」


 厩舎には誰もおらず馬がいるだけだ。

 また、城の外には誰もいない。

 もうすぐ夜になるためか人々は家へ帰ったようだ。

 だが、城を守る警護もいないのは奇妙だ。

 ネッケスは不思議に思いながらもデイブス達を探す事にする。

 篝火が焚かれているので何とか探せそうであった。

 

「うん? あれは? ノッポス殿?」


 そして少し歩いた所でネッケスは同じ従騎士であるノッポスらしき者を見かける。

 ノッポスはどこかの建物の中に入って行く。

 ネッケスはノッポスが入った建物の中へと入る。

 わずかに窓から光が入っているのである程度は中を見る事が出来る。

 かなり広く、色々な物が置かれているようであった。


(色々とあるな。物資を置かれている倉庫だろうか。)


 ネッケスは置かれている物を見る。

 物資が入っている袋や箱に交じって石像のような物がいくつかある。

 美術品となる石像がある事は不思議ではない。

 神々の石像が作られるのはよくある事だ。

 しかし、目の前の石像は神々の姿を模した物ではない。

 普通の人、それも多くは旅人を模したもののように見えた。

 

「えっ!? あれこれは!?」


 ネッケスは思わず声を出す。

 石像の1つが知っている顔だったのだ。

 デイブスの石像。

 着ている服もそのままのデイブスの石像がそこにある。

 

「なんで、デイブス殿の石像がここにどういう事だ……」


 ネッケスは驚いてデイブスの石像を見る。

 どうしてデイブスの石像が作られているのかわからない。

 不思議であった。

 そんな時だった後ろから誰かが近づいて来るのを感じネッケスは振り向く。


「ネッケス? なぜ、ここに君が?」


 近づいて来たのはノッポスであった。


「えっ、あの手伝いをしようかなと思いまして……」


 ネッケスは後ろに下がりながら答える。


「そうか、良いこころがけだね……。でも、君が手伝う事はないよ」


 ノッポスは首を振って答える。


「あの……、その……。なぜ、ここにデイブス殿の石像が? それにデイブス殿はどこに」


 ネッケスはノッポスに聞く。

 ノッポスの様子がおかしい。

 ネッケスが知るノッポスは物静かな男だ。

 淡々と自身の仕事をする。

 残念ながら騎士になってはいないが真面目な男のはずだった。


「何を言っているのだね。その石像がデイブスだ。全く頭の固い奴だ。まあ、あの御方の力に触れれば考えも変わるだろう。それとも君もデイブスのようになるかね」


 ノッポスはそう言って笑う。

 

「ノッポス殿……?」


 ネッケスの目の前でノッポスの身体が変化していく。

 細長い体さらに細長くなり、首が伸びていく。

 顔がまるで蛇のようになりネッケスを見下ろす。


「何……。驚く事はない。我々の仲間になれば君もこうなる。それとも丸呑みにされるのがお好みかな? まあでも、今は石になって考えておきたまえ」


 ノッポスはそう言うと短剣を取り出すのであった。




「まさか、こんな所に道があるなんて……」


 コウキは驚く。

 普通に街道を歩いていたら気付かないような場所に道があったのだ。

 道につながる場所が藪に覆われ気付かなかったのだ。

 

「ふふ、ハヤにかかればこんなの簡単にわかるでしゅよ」


 コウキの側にいる狼少女が胸を張って言う。

 

「はあ、ありがとう。おかげで助かったよ」


 コウキは素直に礼を言う。

 探索はあまり得意ではないのでコウキとしては助かったのは確かであった。

 良く見ると馬車が通った後がある。

 白鳥の騎士団の仲間達はここを通ったようであった。


「ええと、それから危険な感じがするでしゅ……。出来れば近づきたくないんでしゅが……。ええと気を付けて行くでしゅよ!」


 ハヤはそう言うとコウキに先に行くように促す。

 どうやら、コウキを盾にするつもりのようだ。 


「はあ、まあ別に良いけど……。じゃあ行くよ、ハヤ!」

「はいでしゅ!」


 コウキとハヤは共に走り始める。

 スノビヘ王国はもうすぐだった。

 


 

 






★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

限定公開ノートでの外伝3話も何とか今月中に間に合いました。

リジェナとゴズが登場しています。

またリジェナのイラスト付きです。

読みに来て下さると嬉しいです。



実は今週はかなり厳しかったです。

法事が重なり、実質今日しか執筆する暇がありませんでした。

限定公開ノートと合わせて2話分の小説を書いた事になります。

頑張ったね自分、ほめてほめて(#^.^#)

……冗談はここまでにして、かなり文章がおかしいので誤字脱字等があったら報告してくださると嬉しいです。


さて連休ですが、特にやる事はないです。仕事から解放されるので休みます( ;∀;)

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