第34話 少年の進む道

「そうか、あの者は死んだか」


 御菓子の城スイーツキャッスルの中庭でクーナは道化師から報告を受ける。

 中庭の真ん中ではクロキが木剣を振るい修練をしている。

 集中しているクロキは危険な事が近づかない限り、気付く事はない。

 だから、そのまま道化師の報告を聞く。

 クーナとクロキは途中で帰ったが道化師はそのまま残り、事の顛末を最後まで見届けた。

 そして、事件が終わり道化師は戻り、今報告を聞いているのだった。


「はい~、クーナ様。あの人間は死にました~。まあ、仕方ないですけどね~」


 道化師は楽しそうに言う。

 クーナは少し前の事を思い出す。

 あの名前も思い出せない人間はある日この城に来た。

 勇者達に関わる事だったので助けてやることにしたのである。

 結果的に成功だったようだ。

 だが、当の本人は死んだようである。

 まあ、予想通りと言えるだろう。

 最初からあの男の破滅は決まっていたのだ。

 

「そうだな。まあ、少しは楽しめたか。さて、引き続き勇者達を見張らせろ、道化」

「はい~。クーナ様~」


 そう言って道化師は消える。

 道化師とその配下は様々情報を集めクーナに伝える。

 クロキの弱点は諜報機関を持っていない事である。

 だからクーナが代わりに動くのである。

 クーナは道化師以外にも様々な部下を持っており、各地で諜報活動をさせているのだ。

 そして、集められた情報で有益なものはクーナに伝えられる。

 もっとも、その情報のほとんどはクロキに伝える事はなかったりする。

 クロキに些末な事を伝える必要はないというのがクーナの考えだ。


「あれ、クーナ? 誰か来てた?」


 修練が終わりクロキがクーナの側に来る。


「ああ、道化が来ていたぞ。あいつは他愛のない事を聞かせにくるんだ」

「そうなんだ? 何を話したの?」

「さあな、聞き流したからわからないぞ。どうせ、つまらない事だ。きにするなクロキ」


 クーナが笑ってそう言う。

 道化師の話なぞ、クロキに聞かせられる内容ではない。

 だから、クーナは伝えない。


「え、ああ、そう。まあ良いかリウキの様子を見に行こうか? 今どこにいるの?」


 クロキは戸惑うような声を出すとリウキの事を聞く。


「ああ、おそらくポレンがどこかへ連れて行っているぞ。最近入り浸っているからな」

「今日も殿下が? 可愛がってくれるのはいいけど……」


 クロキは不安そうに言う。

 ポレンがリウキを構うのでクーナとの時間が取れていない。

 その事をクロキは不安に思っているのだ。

 ただ、ポレンも悪気があってやっているわけではないから、伝えにくい様子である。


「まあ、仕方がないぞ、クロキ。リウキは可愛いからな」


 クーナは仕方がないと手を振る。

 それにリウキを餌にポレンを取り込む事は利益になると思っている。

 魔王もそうだがその娘のポレンも強い。

 味方にしておくに越した事はない。

 

「はは、リウキは可愛いか。それもそうだね。よし、様子を見に行こうか」

「ああ、クロキ」


 クロキはクーナの手を取る手を取る。

 そして、リウキの元へと向かう事にする。

 御菓子の城は今日も平和であった。




 ソガスが死んでから4日。

 大畑の葬儀が盛大に行われる。

 大畑はエルドの発展に功績があり、国葬として行う事になった。 

 当然勇者レイジとその仲間達はその葬儀に参列する事になるのであった。

  

(本当にすごい参列者ね。まあ、それもそうよね。大畑に助けられた人も多いのだから)


 チユキは参列者を見てそう思う。

 大畑は敵も多かったが、味方には優しい男だ。

 彼の支援のおかげで生活出来ている者は多いのである。

 周囲を見ると涙ぐんでいる者もいる。

 様子から見るに大畑を偲んでいるようだ。

 もちろん、そんな者ばかりではない。

 様々な思惑を持ってきている者もいる。

 例えばレイジに群がっている大畑に近かった有力者がそうだろう。

 本来ならば弔問に来たはずなのだが、やっているのは権力者に取り入りだ。

 チユキの方にも来たが睨んだら消えてしまった。

 レイジは睨みこそしないが、興味なさそうなので彼らの思惑通りには行かないだろう。

 チユキはレイジ達に背を向けると新当主となった者の所へと向かう。

 新当主は来客の相手をしている。

 まだ若くぎこちないのがわかる。

 そして、チユキが近づくとこちらへと来る。


「よく似合っているわ、オズ君」


 チユキは新当主を見て言う。

 新たな大畑家の当主になったのはオズである。

 後を継ぐ者達が死に残っているのが彼だけなので当然だろう。


「あの……チユキ様。俺がその当主になっても良いのでしょうか?」

「仕方がないわ。エルドの大畑家で血族は貴方だけだもの」

「ですが、聖レナリアの伯父様達が何と言うか……」


 オズは不安そうに言う。

 オズが当主になったのはレイジやチユキ達が推したからだ。

 そこに聖レナリア共和国にいる亡大畑の息子が抗議したのだが、すでにエルドの大畑家は別家として成立しており、そこに家を継げる子はオズしかいないので、オズが家を継ぐのは当然である。

 だが、オズが家を継ぐのが正当とはいえ、反対者は多い。

 それはエルド内においても同じで、既にエルドの大畑家の分裂は始まっているのだ。

 そのためかオズを大畑と呼ばず中畑と呼ぶ者もいるぐらいだ。

 

「大丈夫よ。私達が貴方の後見をするから、問題はないわ。それにこれ以上の騒動を起こさせるわけにはいかないわ。だから、貴方に当主になって欲しいの、お願いね」


 チユキははっきりと言う。

 オズを素早く新当主にしてチユキ達が後見をしたのは貴族同士の争いを起こさせないためだ。

 大畑がいなくなった事で利権を巡って争いを始める様子を見せたのである。

 だから、急ぎオズを当主にしたのだ。

 

「は、はい。チユキ様がそう言われるのなら」


 オズは不安そうに言う。

 最初オズは当主になるのを辞退しようとしたのである。

 だが、最終的に妹のシュイラを奴隷身分から解放でき、良い暮らしをさせてやれる事から受ける事にしたのである。


「これはチユキ様。貴方様もここにいらしたのですね」


 チユキがオズと話をしていると誰かがやってくる。


「これは岩中殿」


 やって来たのは岩中だ。

 彼も弔問に来た者の1人である。


「ええ、新当主殿に会おうと思いまして。さて新当主殿、此度の事は残念でした。私は先代にはお世話になりました。もし何かありましたら私をお頼り下さい」


 そう言って岩中はオズに挨拶をする。

 チユキはその言葉を聞いて嘘を吐いているなと思う。

 岩中は大畑の利権を掠め取ろうと活動しており、そんな岩中に大畑は刺客を送っていたりしたのだ。

 実は今回の事件、チユキは岩中も関わっているのではないかと思っていたのだ。

 しかし、岩中はソガスとは関わっておらず、独自に大畑に挑んでいたようである。

 そもそも岩中は得体の知れない男である。

 彼の過去は良くわからない、キョウカに取り入り貴族となり、その背景を使い巨万の富を得た。

 だが、岩中は贅沢に興味がないのか、その富をため込む事をせず、公共事業を行い市民からも好かれている。

 そんな姿が逆に怪しかったりする。

 調べても魔王や邪神の教団とも関係はないようであり、何もわからないままだ。

 特に問題も起こさないので彼を排除する理由もない。

 才覚もあるので、やがてエルドを動かす大貴族となるだろう。


「は、はい。よろしくお願いします」


 本当の大畑と岩中の関係を知らないオズは素直に答える。

 素直なのは良いが、これから貴族達とやり取りできるのか不安になる。

 だから、なるべく助けてやらねばならないと思うのだった。



(まさか、あの司祭が犯人だったとはな……)

 

 岩中はオズと別れた後、ソガスの事を考える。

 ソガスが犯人である事は公表されなかった。

 勇者達がオーディス神殿に配慮したからである。

 もっとも、情報収集能力が高い貴族の一部にはその事は知られている。

 岩中は秘密にされている犯人を独自の情報網から知る事が出来た。


(全く、あの男は私が破滅させるつもりだったのに……)


 岩中は自身の仇を討つ機会が永遠に失われてしまった事を残念に思う。

 彼の後継ぎは破滅させる事はできない。

 どうしょうもない事であった。

 

「あっ、これは当主様」


 そんな事を考えているとボームとその友人が来る。

 友人は当然コウキだ。

 コウキは岩中を見ると礼をする。

 そんなコウキを岩中は見る。

 自身の仕えるべき主の御子。

 彼を支援していく事が今後の岩中の人生となる。

 それは復讐よりも有意義な人生のはずであった。



 葬儀が終わりコウキとオズとボームは3人で集まる。

 場所は大畑家の当主の私室。

 オズの祖父が使っていた部屋だ。

 執事はこの部屋を使う事に難色を示したが、結局は従った。

 おそらく3人で過ごすのはこれを最後にしばらくは無理だろう。


「まさか、オズが当主になるとは思わなかったよ」

「ああ、本当に驚いた」


 ボームが言うとコウキは頷く。


「そう言わないでくれよ。俺もこんな事になるとは思わなかった」


 オズは首を振る。

 喜んでいる様子はない。

 当然だろう。

 自身の祖父と父と兄が同時に亡くなったのだ。

 喜んでいられない。

 また、大貴族の当主になった重責もあり、かなり不安そうであった。


「大丈夫だよ。オズなら出来るさ」

「そうだよ。御当主様も支援するって言ってるしさ。大丈夫だよ」


 コウキとボームはそう言ってオズを励ます。

 

「ありがとう。コウ、ボーム。立派な当主になれるように頑張るよ。ところで、ボームは旅に出るんだったかな?」


 オズはそう言ってボームを見る。


「うん、父ちゃんと一緒に交易の手伝いをするんだ。しばらく会えないかもね」


 ボームはそう言って寂しそうにする。

 ボームの父親は岩中家に属する隊商を率いてバンドール平野を旅している。

 短くて2ヵ月、長くて1年はエルドを離れる事もあるのだ。

 ボームはその手伝いしながら商売を学ぶつもりなのだ。

 そのためしばらくエルドを離れなければならない。


「それにコウも……」

「うん、聖レナリア共和国に行くよ。そこで騎士を目指そうと思う」


 コウキは頷く。

 立派な女神レーナの騎士になる。

 それがコウキの目標だ。

 そのために聖レナリア共和国を拠点とする白鳥の騎士団に入る予定である。

 春になればエルドを出るつもりだった。

 入団したらしばらく帰っては来れないだろう。

 今度いつ会えるかわからなかった。


「バラバラだな俺達。寂しくなるな」


 オズが言うとコウキもボームも頷く。

 

「そうだね。でも、会えなくなるわけじゃないんだ。また会えるよ」


 コウキはそう言って右の拳を前に出す。

 オズとボームはそれを見て同じように右の拳を前に出し、3人は拳を触れ合わせる。


「例え進む道が違っても」

「生きる空が違っても」

「3人はずっと友達だ」


 コウキとオズとボームは揃ってそう言うと笑い合う。

 これから少年達の進む道は違う。

 それでも、3人が友達であるのは変わらないのであった。

 


 

 




★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新が遅れました。

勇者の王国はこれで終わりです。

反省点、ソガスを追い詰めるのをコウキさせるべきだったかもしれません。

ただ、どう考えてもそれだとチユキ達が無能ぽくなるのでできませんでした。

コウキを活躍させるにはチユキ達やルウシエン達から離すしかないですね。

後エロスが最近足りない気がします……。どうやったら良いのか悩みます。


次章タイトルは「白鳥の騎士団」です。

直ぐに書きます。


年末に限定近況ノートを書きました、良かったら見に来て下さい。


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