第30話 影牢の剣

 突然レイジの剣が眩く光り、クロキに向けて発せられる。


 閃光の魔法。

 

 初歩的な魔法だ。

 しかし、光の魔法に特化したレイジの閃光は凄まじい。

 おそらく、この辺り一帯を光で満たしていることだろう。

 ただ、クロキは光魔法に対して耐性と防御をしている、また兜にも光に対して耐性があるので視界が塞がれる事はない。

 クロキが驚いたのは閃光の魔法を使った次の瞬間レイジが剣を投げて来た事である。

 剣はクロキから外れて飛ぶ。

 だが、レイジが手首を少し動かすと剣は軌道を変えてクロキへと向かってくる。


(剣に紐を付けている!?)


 クロキはレイジが何をやろうとしているのか理解する。

 閃光の魔法でクロキの視界を防ぎ、剣を投げて攻撃をする。

 剣には紐が結ばれており、手首の動きで操る。

 はっきり言って小手先の技だ。

 もっとも小手先の技であっても初見では避けるのも防ぐのも難しいだろう。

 レイジの手から放たれた剣をクロキは紙一重で躱す。

 レイジは手首を動かし剣を自身の手に取り戻し、さらに体を捻り、もう1つの剣をクロキに放つ。

 クロキは体を出来る限り動かさず、2度目の攻撃を躱す。

 レイジはさらに激しく動き、剣を投げては戻しクロキに攻撃してくる。

 もちろん、投げるだけでなく、近づき何度も剣を繰り出す。

 次々と放たれる光の剣はさながら流星群のようであった。

 クロキは黒い炎で自身の影を作りながら、絶妙な体術でレイジの剣を躱す。


(まったく、なんて動きをするんだよ!)


 クロキはレイジの剣を躱しながら、心の中で叫ぶ。

 レイジは前よりも遥かに強くなっている。

 剣は鋭く速い。

 それを防ぐ事なく、躱していけているのはクロキもまた小手先の技を使っているからだ。

 黒い炎で自身の影を作り、自身の本体はほんの少し離れた場所で気配を絶つ。

 それを絶妙な体術で何度も入れ替える。

 黒い炎には魔力による存在感があり、魔法による気配遮断には感知能力を誤魔化す事ができる。

 ようするにレイジが閃光の魔法を使ったように、クロキも視覚やその他の感覚を誤魔化す技を使っているのである。

 有効かどうかわからなかったが成功したようであった。

 もっとも、それがどこまで通用するかわからない。

 レイジは両手の剣を繰り出しながらクロキの周り華麗に舞っている。

 その動きに周囲にいる人々は見惚れているだろう。


(レイジは強い化け物だ……。いつまでも躱しきる事はできない……)


 正直に言えばクロキにはまだ余裕があった。

 だけど、レイジを相手に油断をしてはいけない。

 相手は天才である。

 戦うのは勇気がいる。

 いつだって逃げたいと思っている。

 それでも戦うのは逃げるのはより惨めだからだ。

 だからこそ、それを努力して強くならねばいけないのだ。


(そろそろ、行くべきか……?)


 クロキはレイジの攻撃を躱しながら迷うのだった。


 

「何が起こっているの……?」


 チユキは目の前の光景が信じられなかった。

 レイジの閃光の魔法で辺り一面が光で包まれた。

 光はすぐに消えたが、その次の瞬間に見えた映像はレイジが暗黒騎士の彼に攻撃している姿であった。

 それについては不思議な事ではない。

 ただ、レイジの攻撃の全てが暗黒騎士の彼の身体をすり抜けているのだ。

 暗黒騎士の彼はまるで陽炎のように実体がないかのようであった。

 最初は幻術でも使っているのかと思ったが、破幻の視線で見るかぎり実体はそこにあるかのようであった。

 あるかのようでと言ったのは時々彼の身体が蝋燭の火のように揺れて見えるからだ。

 チユキは横にいるシロネとカヤを見る。

 魔法的なものでないのなら、シロネとカヤの方が状況がわかるはずだ。

 だから、チユキは解説を求める。

 そんなチユキの思いをよそにシロネとカヤは信じられないという表情である。

 彼女達の視線は真っすぐに暗黒騎士の彼に向けられている。


「本当に何をなさっているのでしょうか? 勇者様は? 私にもわかるような幻影に攻撃して……。うう、それにしても目が痛い……」


 レイジの閃光の影響で目を傷めたソガスが呟く。

 普通の人間ならそう見えるのだろう。

 チユキにもそう見えない事もない。


「いえ、違いますよ……。幻影に見えますが、確かに彼の気配はあの場にあります……。ですが……」


 カヤはそう言って首を振る。

 どうやらカヤにも何が起きているのかわからないようだ。


「わからない……。多分レイジ君の攻撃をクロキが避けているのだと思うのだけど……」


 シロネも首を振る。

 

「シロネさんもわからないなんて……。リノさん幻術が使われていないかわかる?」


 チユキは後ろにいるリノを見る。

 幻術等はリノの方が詳しいからだ。


「ううん。リノにも何が起きているのかさっぱりだよ~。ごめんね、チユキさん」


 リノは謝る。

 その表情は最初から考えるのを諦めているようであった。

 直感に頼るリノは瞬時にわからないならそれ以上考えない。

 それが彼女であり、その姿勢が正しい時も多い。

 

「考えるまでもないですわ。ようするにお兄様の攻撃がクロキさんに届いていないだけですわよ。さすがですわ」


 キョウカは笑って言う。

 何をしているのかわからないが、状況は理解しているようだ。

 きっとそれが正しいのだろう。

 剣を振っているレイジの顔に焦りが見える。

 戦いが始まる前の不敵な笑みは完全に消えている。

 チユキはその表情でようやく状況を理解するのだった。




「ほう、光の勇者も頑張るではないか? そう思わないか、グロリアス?」


 そう言うとクーナはグロリアスの背を撫でる。

 グロリアスは興味なさそうに欠伸をしている。

 主の心配をしていない。 

 それもそうだろう心配するような事は何もないのだから。

 レーナもこの戦いの行方を見ていない。 

 さっさとエリオスに戻ってしまった。

 勝利の女神がどちらに微笑んでいるのかなど明らかだ。


「相手が悪かったな、勇者よ。どんなに頑張ってもクロキに剣は届かんぞ」


 クーナは笑う。

 幻影と隠形。

 単体で使うだけなら簡単に見破られる。

 だが、クロキはそれを複合して使い、さらに自身の体術を織り交ぜている。

 その動きは芸術的であった。

 もっともクロキは小手先の技だと言うだろう。 

 相変わらずだなとクーナは思う。


「全くクロキは……。自身を過小評価しすぎだぞ」


 クーナの目の前で光の勇者がクロキに攻撃をしている。

 だが、全て素通りするだけだ。

 そのクロキの姿はまるで陽炎。

 光の勇者はその技の前にどうする事も出来ず踊っている。

 籠に捕らわれた虫のようである。


「さて、そろそろクロキが動くぞ」


 クロキが剣を構え動き出す。

 光と闇の刃が交差する。

 次の激しい剣戟の音が鳴り響くのだった。



 コウキは遠くから暗黒騎士と光の勇者の戦いを見る。

 その剣のあまりの速さから何をしているのかわからない。

 時々、衝撃波がここまで飛んでくるが、ルウシエン達の魔法の守りで何とか無事である。

 それでも、魔法の守りが時々軋むような感じを受けるのはそれだけ衝撃波が強力だからだろう。

 側にいるオズとボームは口を開いたまま呆けた表情で見ているだけだ。

 何をしているのか理解できないのだろう。


「何あれ? 何をしているの? 全然見えない!」

「ああ、本当に……。何が起きているんだ? どちらが勝っているかわからない」


 2人は同時に呟く。


「ええと、それは……」


 エルフのオレオラは言いにくそうにする。


「ふふ、それは暗黒のあの御方だよ~。そうだよね~」


 道化師が笑いながら言う。


「うっ、それは……。そうですが……」


 ルウシエンは言葉を詰まらせてコウキを見る。 

 確かに光と闇が交差して闇の力の方が勝っているように感じる。


(あれが暗黒騎士の本気……)


 コウキは暗黒騎士の剣を見る。

 凄まじい剣の速さ。

 そして、時々陽炎のように揺らぐその姿。

 全く原理がわからない。

 暗黒騎士はコウキと戦った時は全く本気を出していなかった。

 オズやボームと同じようにコウキも暗黒騎士の剣を見切る事はできないのである。

 ただ、すごい事だけはわかる。

 暗黒騎士の本気の力を目の当たりにしてコウキは驚く。

 それと同時にその微かな動きに何か惹かれるものがあった。

 光と闇が何度も交差する。

 それもやがて終わりを迎える。

 何度目かの交差の後、光の勇者が後ろに下がり片膝を地面に着ける。

 暗黒騎士は悠然と立ちそんな光の勇者を見下ろしている。

 勝負が終わった瞬間だった。





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


先週は休んでもうしわけないです。

結局限定公開ノートの良いネタが何も想い浮かびませんでした……。

主要キャラじゃない者達の話であり、外伝程長くならないようにする。

この2点で考えようと思っているのですが、どうでしょうか?

今年中に限定公開のネタを考えたいです(>_<)



お知らせとして設定資料集ザルキシス編を公開中です。

後で気付いたのですが影牢というゲームがありましたね。

変えようと思いましたがそのままにしました。

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